記事
眉毛は生えるのに、髪はハゲる?
公開. 更新. 投稿者:皮膚外用薬/皮膚病.この記事は約4分43秒で読めます.
8,287 ビュー. カテゴリ:目次
ミクロゲンパスタ・ペレウスの育毛メカニズムと使い分け

「眉毛を濃くしたい」
「髪も生やしたい」
「でも、体毛は濃くしたくない」
そんな毛にまつわる欲望と葛藤が交錯する現代において、「どの部位に何の薬を使えばよいか?」という問いは、意外と奥が深いものです。
ミクロゲン・パスタとは?
まず紹介するのは、「ミクロゲン・パスタ」。
名前だけ聞くと食品のようですが、れっきとした第1類医薬品の育毛剤です。
◇ 有効成分
・メチルテストステロン(男性ホルモン)
・プロピオン酸テストステロン(同上)
どちらも男性ホルモン製剤であり、皮膚に塗布することで局所的に作用します。
◇ 効能・効果
男女両性の無毛症、貧毛症
(顔面、胸部、四肢、腋下、恥部の発毛促進と育毛)
つまり、ヒゲや眉毛、胸毛、ワキ毛、スネ毛、陰毛といった体毛系の部位に対して、毛を生やす・濃くする目的で使う薬です。
眉毛用育毛剤「ペレウス」とは?
次に紹介するのが、同じく第1類医薬品の「ペレウス(PEREUS)」。
森下仁丹が販売している製品で、眉毛の発毛促進をターゲットにした製品です。
◇ 有効成分
・メチルテストステロン(ミクロゲンと同じ)
こちらも男性ホルモン製剤ですが、特徴的なのはその形状です。
◇ 製品特徴
・リキッドタイプ
・極細ペン型の塗布容器
・眉毛の毛流れに沿って1本ずつ塗布可能
◇ 効能・効果
眉毛脱毛、腋窩無毛、恥部無毛、薄毛(まゆ毛・体毛の発毛促進)
いわば「ミクロゲン・パスタの眉毛特化版」ともいえる位置づけで、女性にも使いやすいデザイン・使い勝手になっています。
なぜ頭には使えないのか?
両製品に共通して記載されている「使用できない部位」に注目しましょう。
◇ 使用禁止部位
・頭髪
・まつ毛
・目やその周囲
・粘膜(口腔、鼻腔、尿道口、恥部の粘膜部)
・傷、炎症、かぶれのある部位
「毛を生やす薬」なのに、「頭には使えない」とはどういうことでしょうか?
髪と体毛は、ホルモンの“推進力”が逆!
この矛盾の答えは、毛の種類とホルモンの作用の違いにあります。
● 頭髪:女性ホルモンで育つ
頭髪の成長は、主に女性ホルモン(エストロゲンなど)によって支えられています。
そのため、男性ホルモンが過剰になると、頭皮の毛包が萎縮してしまい、薄毛が進行します。
これが「男性型脱毛症(AGA)」の仕組みです。
● 体毛:男性ホルモンで育つ
一方で、ヒゲ、胸毛、陰毛、ワキ毛、眉毛などは男性ホルモンによって発育が促進される毛です。
つまり、
・頭髪は男性ホルモンに弱い
・体毛は男性ホルモンに強い
という、正反対の性質を持っているのです。
男性ホルモン製剤を頭に塗ると「逆効果」
ミクロゲン・パスタやペレウスに含まれるメチルテストステロンは、確かに発毛を促進する作用を持ちますが、それは「体毛」に限った話です。
● 頭に塗ると…?
男性ホルモンが頭皮に過剰に作用すると、DHT(ジヒドロテストステロン)が増加し、毛包が委縮。結果として、薄毛が進行してしまいます。
「眉毛が生えるなら、頭にも使えるのでは?」と思って頭に塗るのは、火に油を注ぐ行為です。
比較項目 | ミクロゲン・パスタ | ペレウス |
---|---|---|
有効成分 | メチルテストステロン+プロピオン酸テストステロン | メチルテストステロン |
効能効果 | 顔面・胸部・四肢・腋下・恥部の無毛症 | 眉毛脱毛、腋窩無毛、恥部無毛 |
使用形態 | 軟膏(チューブ) | リキッド(極細ペン型) |
主なターゲット | 男性 | 女性(眉毛育毛目的) |
デザイン | 医薬品らしい | コスメ風で親しみやすい |
使い分けとしては、
眉毛だけに使いたい → ペレウス
ヒゲや胸毛など広い範囲に塗りたい → ミクロゲン・パスタ
という住み分けが現実的です。
注意点:妊婦・授乳中・アスリートは特に注意
男性ホルモン製剤である以上、いくつかの注意点があります。
● 妊婦・授乳婦には禁忌
経皮吸収により男性ホルモンが体内に取り込まれると、胎児に悪影響(特に女児に)を及ぼす可能性があります。添付文書にも「妊婦または妊娠している可能性のある女性への使用は禁止」と記載されています。
● 女性アスリートとドーピング
ペレウスやミクロゲンに含まれるメチルテストステロンは、ドーピング禁止物質に該当する可能性があります。競技者は必ず事前に医師や薬剤師と相談を。
まつ毛にも使える?という誤解
「眉毛が生えるなら、まつ毛にも効くのでは?」と思いがちですが、これもNGです。
目に入る危険性があることに加え、まつ毛の毛包は皮膚表面に近く、過敏に反応してかぶれや腫れを起こす可能性があります。
まつ毛用の外用薬としては、ビマトプロスト(グラッシュビスタ)などが存在し、適応も異なります。
毛を生やす=万能ではない
毛が生えるという行為は、シンプルに見えてホルモンと密接な関係を持ち、部位ごとの性質の違いも大きいのです。
● ミクロゲン・パスタとペレウスの意義
これらは「眉毛や体毛を生やしたい」という明確な目的に対しては、有効性のある外用薬です。しかし、安易な使用はリスクにもつながります。
ホルモンを知れば、育毛剤の使い分けが見えてくる。
部位 | ホルモン | 使える薬 | 備考 |
---|---|---|---|
頭髪 | 女性ホルモン | ミノキシジル、プロペシア等 | 男性ホルモンは逆効果 |
眉毛 | 男性ホルモン | ペレウス、ミクロゲン | ペンタイプならペレウスが便利 |
ヒゲ・胸毛 | 男性ホルモン | ミクロゲン・パスタ | 広範囲に使える |
まつ毛 | 専用成分 | グラッシュビスタ等 | ミクロゲン系はNG |
「どこに」「何を」塗るかで結果は大きく変わります。
眉毛用ならペレウス、体毛育毛ならミクロゲン、頭髪にはAGA治療薬。
“毛を生やす”にも適材適所がある。この基本を理解したうえで、正しく使いましょう。