2025年5月18日更新.2,476記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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眉毛は生えるのに、髪はハゲる?

ミクロゲンパスタ・ペレウスの育毛メカニズムと使い分け

「眉毛を濃くしたい」
「髪も生やしたい」
「でも、体毛は濃くしたくない」

そんな毛にまつわる欲望と葛藤が交錯する現代において、「どの部位に何の薬を使えばよいか?」という問いは、意外と奥が深いものです。

ミクロゲン・パスタとは?

まず紹介するのは、「ミクロゲン・パスタ」。
名前だけ聞くと食品のようですが、れっきとした第1類医薬品の育毛剤です。

◇ 有効成分
・メチルテストステロン(男性ホルモン)
・プロピオン酸テストステロン(同上)

どちらも男性ホルモン製剤であり、皮膚に塗布することで局所的に作用します。

◇ 効能・効果
男女両性の無毛症、貧毛症
(顔面、胸部、四肢、腋下、恥部の発毛促進と育毛)

つまり、ヒゲや眉毛、胸毛、ワキ毛、スネ毛、陰毛といった体毛系の部位に対して、毛を生やす・濃くする目的で使う薬です。

眉毛用育毛剤「ペレウス」とは?

次に紹介するのが、同じく第1類医薬品の「ペレウス(PEREUS)」。
森下仁丹が販売している製品で、眉毛の発毛促進をターゲットにした製品です。

◇ 有効成分
・メチルテストステロン(ミクロゲンと同じ)

こちらも男性ホルモン製剤ですが、特徴的なのはその形状です。

◇ 製品特徴
・リキッドタイプ
・極細ペン型の塗布容器
・眉毛の毛流れに沿って1本ずつ塗布可能

◇ 効能・効果
眉毛脱毛、腋窩無毛、恥部無毛、薄毛(まゆ毛・体毛の発毛促進)

いわば「ミクロゲン・パスタの眉毛特化版」ともいえる位置づけで、女性にも使いやすいデザイン・使い勝手になっています。

なぜ頭には使えないのか?

両製品に共通して記載されている「使用できない部位」に注目しましょう。

◇ 使用禁止部位
・頭髪
・まつ毛
・目やその周囲
・粘膜(口腔、鼻腔、尿道口、恥部の粘膜部)
・傷、炎症、かぶれのある部位

「毛を生やす薬」なのに、「頭には使えない」とはどういうことでしょうか?

髪と体毛は、ホルモンの“推進力”が逆!

この矛盾の答えは、毛の種類とホルモンの作用の違いにあります。

● 頭髪:女性ホルモンで育つ
頭髪の成長は、主に女性ホルモン(エストロゲンなど)によって支えられています。

そのため、男性ホルモンが過剰になると、頭皮の毛包が萎縮してしまい、薄毛が進行します。
これが「男性型脱毛症(AGA)」の仕組みです。

● 体毛:男性ホルモンで育つ
一方で、ヒゲ、胸毛、陰毛、ワキ毛、眉毛などは男性ホルモンによって発育が促進される毛です。

つまり、
・頭髪は男性ホルモンに弱い
・体毛は男性ホルモンに強い

という、正反対の性質を持っているのです。

男性ホルモン製剤を頭に塗ると「逆効果」

ミクロゲン・パスタやペレウスに含まれるメチルテストステロンは、確かに発毛を促進する作用を持ちますが、それは「体毛」に限った話です。

● 頭に塗ると…?
男性ホルモンが頭皮に過剰に作用すると、DHT(ジヒドロテストステロン)が増加し、毛包が委縮。結果として、薄毛が進行してしまいます。

「眉毛が生えるなら、頭にも使えるのでは?」と思って頭に塗るのは、火に油を注ぐ行為です。

比較項目ミクロゲン・パスタペレウス
有効成分メチルテストステロン+プロピオン酸テストステロンメチルテストステロン
効能効果顔面・胸部・四肢・腋下・恥部の無毛症眉毛脱毛、腋窩無毛、恥部無毛
使用形態軟膏(チューブ)リキッド(極細ペン型)
主なターゲット男性女性(眉毛育毛目的)
デザイン医薬品らしいコスメ風で親しみやすい

使い分けとしては、

眉毛だけに使いたい → ペレウス
ヒゲや胸毛など広い範囲に塗りたい → ミクロゲン・パスタ

という住み分けが現実的です。

注意点:妊婦・授乳中・アスリートは特に注意

男性ホルモン製剤である以上、いくつかの注意点があります。

● 妊婦・授乳婦には禁忌
経皮吸収により男性ホルモンが体内に取り込まれると、胎児に悪影響(特に女児に)を及ぼす可能性があります。添付文書にも「妊婦または妊娠している可能性のある女性への使用は禁止」と記載されています。

● 女性アスリートとドーピング
ペレウスやミクロゲンに含まれるメチルテストステロンは、ドーピング禁止物質に該当する可能性があります。競技者は必ず事前に医師や薬剤師と相談を。

まつ毛にも使える?という誤解

「眉毛が生えるなら、まつ毛にも効くのでは?」と思いがちですが、これもNGです。

目に入る危険性があることに加え、まつ毛の毛包は皮膚表面に近く、過敏に反応してかぶれや腫れを起こす可能性があります。

まつ毛用の外用薬としては、ビマトプロスト(グラッシュビスタ)などが存在し、適応も異なります。

毛を生やす=万能ではない

毛が生えるという行為は、シンプルに見えてホルモンと密接な関係を持ち、部位ごとの性質の違いも大きいのです。

● ミクロゲン・パスタとペレウスの意義
これらは「眉毛や体毛を生やしたい」という明確な目的に対しては、有効性のある外用薬です。しかし、安易な使用はリスクにもつながります。

ホルモンを知れば、育毛剤の使い分けが見えてくる。

部位ホルモン使える薬備考
頭髪女性ホルモンミノキシジル、プロペシア等男性ホルモンは逆効果
眉毛男性ホルモンペレウス、ミクロゲンペンタイプならペレウスが便利
ヒゲ・胸毛男性ホルモンミクロゲン・パスタ広範囲に使える
まつ毛専用成分グラッシュビスタ等ミクロゲン系はNG

「どこに」「何を」塗るかで結果は大きく変わります。
眉毛用ならペレウス、体毛育毛ならミクロゲン、頭髪にはAGA治療薬。
“毛を生やす”にも適材適所がある。この基本を理解したうえで、正しく使いましょう。

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