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ノルスパンテープを腰に貼っちゃダメ?ノルスパンテープの貼付部位
公開. 更新. 投稿者: 4,889 ビュー. カテゴリ:痛み/鎮痛薬.この記事は約5分2秒で読めます.
目次
ノルスパンテープはどこに貼る?──腰痛でも腰には貼らない理由
痛み止めの貼り薬と聞くと、多くの人が「痛いところに直接貼るもの」と思い浮かべます。
腰が痛ければ腰、膝が痛ければ膝。一般的な湿布薬ならその感覚で問題ありません。
しかし、ノルスパンテープ(一般名:ブプレノルフィン貼付剤)は、その常識が通用しないタイプの貼り薬です。
この薬は「痛い部位に直接作用する」わけではなく、「皮膚から吸収されて全身に作用する」全身性鎮痛薬なのです。
そのため、貼る場所が限られているという少し特殊なルールがあります。
この記事では、ノルスパンテープの貼付部位の正しい選び方と、その理由を薬理作用の観点から勉強します。
ノルスパンテープの特徴と適応症
ノルスパンテープは、ブプレノルフィン(buprenorphine)というオピオイド鎮痛薬を有効成分とする経皮吸収型製剤です。
医療用麻薬の一種であり、変形性関節症・腰痛症などの慢性疼痛に適応があります。
ブプレノルフィンは「部分μ(ミュー)受容体作動薬」であり、痛みを伝える神経の伝達を中枢で抑えることで鎮痛作用を発揮します。
モルヒネやオキシコドンなどのように、がん性疼痛にも使われるカテゴリーの薬ですが、ノルスパンテープは比較的弱い作用を持ち、非がん性慢性疼痛にも使用できる点が特徴です。
● 鎮痛作用の発現機序
貼り付けた部位の皮膚から、ブプレノルフィンが脂溶性の性質を生かして徐々に吸収され、血流を介して脳・脊髄などの中枢神経系に移行します。
つまり、「痛い場所に直接効く」のではなく、「血中に吸収された薬が全身的に作用して痛みを抑える」仕組みです。
この点が、一般的な湿布(NSAIDs配合外用薬)と決定的に異なります。
ノルスパンテープの用法と貼付部位
ノルスパンテープの添付文書には、貼付部位が明確に指定されています。
通常、成人には、前胸部、上背部、上腕外側部、または側胸部に貼付し、7日ごとに貼り替える。
つまり、腰や膝などの「痛みがある部位」に貼るのは誤りです。
この貼付部位指定には、薬理学的に明確な理由があります。
なぜ腰や膝に貼ってはいけないのか?
ノルスパンテープの目的は、「皮膚から薬を吸収して、安定した血中濃度を保つこと」です。
そのため、皮膚の厚さ・血流量・脂肪層の違いによって、吸収効率が大きく変わります。
● 膝や腰では吸収が不十分
臨床試験では、膝蓋骨上部に貼った場合、上背部に貼ったときの約30%しか血中濃度が得られなかったというデータがあります。
腰も同様で、皮膚の温度変動や動作によるシワ・剥離などが多く、安定した吸収が期待できません。
● 胸部・上背部・上腕外側が適している理由
これらの部位は、
・比較的平らで動きが少ない
・血流が安定している
・薬剤の密着が保ちやすい
といった特徴があります。
そのため、薬剤が7日間しっかり皮膚に密着し、一定の血中濃度を維持できるのです。
添付文書に記載されている貼付部位の注意点
添付文書では、貼付部位について以下の注意が明記されています。
(1) 前胸部、上背部、上腕外部、または側胸部以外には貼付しないこと。
(膝や腰では十分な血中濃度が得られないおそれ)
(2) 体毛の少ない部位が望ましい。体毛が多い場合はハサミで除毛。カミソリ・除毛剤は使用しない。
(3) 貼付部位の皮膚を清潔にし、水分をよく拭き取る。石鹸・アルコール・ローションなどは使用しない。
(4) 同じ場所には3週間以上あけて再貼付する。皮膚刺激や過吸収を防ぐため。
(5) 皮膚疾患や傷のある部分は避ける。
こうした指示には、吸収の安定性と皮膚の安全性を保つという明確な根拠があります。
皮膚ケアと貼付手順のポイント
ノルスパンテープは7日間貼り続ける製剤であるため、貼り方ひとつで吸収や副作用が大きく変わります。
以下のポイントを守ることで、安全かつ安定した効果が得られます。
① 貼る前に皮膚を清潔に
皮脂や汚れがあると吸収が悪くなり、粘着力も低下します。
ただし、石鹸やアルコールで拭くと吸収に影響するため、水で軽く洗う程度が望ましいです。
貼る前にしっかり水分を拭き取っておきましょう。
② 体毛の処理に注意
粘着面が毛で浮いてしまうと、薬が吸収されにくくなります。
体毛が多い部位では、ハサミで短くカットします。カミソリや除毛剤は皮膚を刺激するため禁忌です。
③ 貼る位置を毎回変える
同じ場所に連続して貼ると、皮膚に薬が残留して血中濃度が上がりすぎることがあります。
少なくとも3週間は間隔を空け、左右交互などで貼り替えるのが基本です。
④ 剥がれた場合の対応
途中で剥がれてしまったら、再度手で押さえ、粘着を復活させます。
それでも密着しない場合は、皮膚用テープで固定するか、新しいテープを別の場所に貼り替えます。
決して同じ部位に続けて新しいテープを貼らないよう注意が必要です。
剥がした後も成分が残る?
興味深いことに、ノルスパンテープを剥がした後も皮膚内にブプレノルフィンがしばらく留まることが知られています。
そのため、同じ部位にすぐ貼り直すと、薬の残存分と新しいテープの薬が重なり、血中濃度が上昇してしまうリスクがあります。
この理由から、「同じ部位は3週間以上あける」ことが求められています。
温めすぎると危険?血中濃度の上昇に注意
ノルスパンテープの吸収速度は皮膚温に影響されます。
つまり、貼った部位を温めると、薬の放出が早まり、血中濃度が急上昇してしまうことがあります。
● 注意が必要なシーン
・高温の湯に長く浸かる入浴
・サウナ・岩盤浴の利用
・電気毛布・カイロの使用
・熱いシャワーを貼付部位に直接当てる
これらはいずれも避けるべきです。
特にサウナや高温浴では、血圧変動・中枢抑制・過鎮痛などのリスクがあります。
入浴する場合は、湯船に長時間つからず、上半身が湯に浸からないよう注意するのが安全です。
効果が出るまでの時間と併用薬
ノルスパンテープは貼ってすぐに効く薬ではありません。
皮膚から薬が吸収され、定常状態(安定した血中濃度)に達するまで約72時間かかります。
そのため、貼り始めの3日間程度はNSAIDsなど他の鎮痛薬を併用することが一般的です。
また、薬を中止した後も体内にブプレノルフィンがしばらく残るため、作用の持続や離脱症状にも注意が必要です。
まとめ:貼る場所を守ることが最も大切
ノルスパンテープは、7日間安定して痛みを抑える優れた貼付剤です。
しかし、貼る場所を間違えると、効き目が出にくいだけでなく、副作用のリスクも高まる薬です。
・貼るのは胸・背中・上腕外側・側胸部
・同じ場所は3週間以上あける
・剥がれたら無理に重ね貼りしない
・高温環境を避ける
これらのルールを守ることが、安全で効果的な使用の鍵です。
慢性疼痛は、患者自身が「痛みと上手く付き合う」意識を持つことも重要です。
ノルスパンテープはそのサポートをしてくれる薬ですが、用法を守ることが最大の効果を生むということを忘れないようにしましょう。




