2025年11月21日更新.2,666記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

サンオイルとワセリンに関する誤解―油を塗ると日焼けしやすい?

サンオイルとワセリンに関する誤解―「油を塗ると日焼けしやすい」は本当か?

夏の紫外線対策や皮膚疾患の治療において、患者さんや一般の方からしばしば聞かれる質問があります。

「軟膏は油だから、塗るとサンオイルみたいになって日焼けしやすいのでは?」

確かにワセリンを基剤とする軟膏や保湿剤は多く、見た目もサンオイルと似ています。しかしこれは正しい理解とはいえません。サンオイルとワセリンの性質の違い、紫外線の基礎知識、そして「日焼けしやすくなる」という誤解について勉強します。

紫外線の種類と皮膚への影響

紫外線(UV)は波長によって大きく3つに分類されます。

UVA(315~400nm)
波長が長く皮膚の真皮まで到達。しわやたるみなど光老化の原因。

UVB(280~315nm)
波長が短く表皮に強く作用。日焼け(紅斑)や皮膚がんの原因。

UVC(200~280nm)
大気層で吸収され地表には届かない。

皮膚にとって大きな影響を与えるのはUVAとUVBであり、日焼け止め製品(サンスクリーン)はこれらを防ぐ目的で作られています。

サンオイルとは何か?

サンオイルの役割
「サンオイル」というと「肌を焼くための油」と誤解されがちです。しかし正しくは、紫外線をカットするのではなく、あえて紫外線を透過させ、均一に日焼けできるようにする製品です。

・紫外線吸収剤や散乱剤をほとんど含まず、肌に届く紫外線を遮らない。
・同時に、油分で皮膚を保護し、急激な炎症ややけど状態を起こさないようにする。
・目的は「肌を焼く」ことであり、「焼けないように守る」サンスクリーン(日焼け止め)とは正反対の存在。

誤解が生まれる背景

「サンオイル=肌を守る油」と思っている方も少なくありません。そのため「ワセリンも油だから同じでは?」という連想が起こりやすいのです。

ワセリンの性質

ワセリンは石油由来の炭化水素の混合物で、皮膚表面に油膜をつくり、水分の蒸発を防ぐ働きを持ちます。

・紫外線透過性:ワセリン自体は紫外線を通すが、特殊な「日焼け促進作用」は持たない。
・防御作用:光を反射・散乱する効果も一部あり、むしろ紫外線を若干防ぐという報告もある。
・使用目的:皮膚の乾燥防止、創傷治療の保護膜、軟膏の基剤など。

つまり、ワセリンは「日焼けを助長する油」ではなく、「肌を守るシンプルな保湿剤」です。

「油=日焼けしやすい」という誤解

なぜ「油を塗ると日焼けしやすい」という誤解が広まったのでしょうか。

見た目の類似
サンオイルもワセリンも「油っぽい」ため、同じ効果があると思われやすい。

炎症後の色素沈着
湿疹や皮膚炎が治ったあとに残るシミ(炎症後色素沈着)を「軟膏のせい」と誤解する。

誤った医療情報の伝達
「ステロイドを塗っていると日光に当たらない方がいい」と誤って指導された例がある。

サンオイルの本来の用途の誤解
「サンオイルは日焼けを防ぐために塗る」と誤認され、そこから「油は全部日焼け防止や促進に関与する」と混乱が生じた。

ステロイド外用薬と日光

近年「ステロイドを塗ったら日光を避けた方がいいのか?」と尋ねられることがあります。

・科学的根拠は乏しい。
・ステロイド自体が光毒性を持つわけではない。
・色素沈着は「薬の副作用」ではなく、「炎症後の皮膚反応」である。

つまり、ステロイド外用薬を塗っているからといって特別に日焼けしやすくなることはありません。

本当に日光を避けるべき薬

ここで注意すべきは、光線過敏症を起こす薬の存在です。

・外用薬:ケトプロフェン含有貼付薬(モーラステープ®など)
・内服薬:ニューキノロン系抗菌薬、ボリコナゾール(ブイフェンド®)、ピルフェニドン(ピレスパ®)など

これらは紫外線との相互作用で皮膚炎や色素沈着を起こすため、使用中は日光を避ける必要があります。

ワセリンは安全に使える

ワセリンやワセリン基剤の軟膏については、以下のように理解すべきです。

・紫外線を通すが、特別に日焼けを促進するわけではない。
・皮膚のバリア機能を補強する安全な保湿剤。
・スキンケアやアトピー性皮膚炎治療に幅広く使われる。

患者説明のポイント

薬剤師や医療従事者として患者に伝えるべきことは次の通りです。

サンオイルとワセリンは全く異なる
サンオイルは日焼け促進、ワセリンは皮膚保護。

ステロイド外用薬で日焼けしやすくなることはない
残る色素沈着は炎症後のもので、薬の油分のせいではない。

本当に注意すべきは光線過敏症を起こす薬
ケトプロフェン貼付薬や一部の内服薬は日光回避が必須。

まとめ

・サンオイル=日焼け促進剤。紫外線を通して均一に焼けるために使う。
・ワセリン=保湿剤。紫外線を特別に増幅しない。
・「油だから日焼けする」というのは誤解であり、科学的根拠はない。
・ステロイド外用薬で日焼けが起きるというのも誤解。色素沈着は炎症後の反応によるもの。
・本当に日光を避けるべきは光線過敏症を起こす薬剤。

コメント


カテゴリ

検索

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
マンガでわかる!薬剤師がm3.comに登録するメリット | m3.com

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
薬剤一覧ポケットブックの表紙

SNS:X/Twitter
プライバシーポリシー

最新の記事


人気の記事