2025年10月19日更新.2,656記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ハーボニーと胃薬の併用に注意―C型肝炎治療薬と制酸薬の相互作用

C型肝炎治療薬と制酸薬の相互作用

C型肝炎治療に革命をもたらした直接作用型抗ウイルス薬(DAA:Direct Acting Antiviral Agents)。中でも「ハーボニー®配合錠(レジパスビル+ソホスブビル)」は、ジェノタイプ1型のC型肝炎における治癒率の高さと服用の簡便さから、国内でも広く使用されています。

しかし、このハーボニーには、併用薬に対する注意点がいくつかあります。とりわけ、胃酸を抑制する薬剤(制酸薬、H2ブロッカー、PPIなど)との併用によって薬効が低下するリスクは、治療成績に直結する重大なポイントです。

ハーボニーの概要と構成成分

ハーボニー配合錠は、以下の2成分から成り立っています。

・レジパスビル(90mg):NS5A阻害薬(ウイルス複製阻害)
・ソホスブビル(400mg):NS5Bポリメラーゼ阻害薬(RNA合成阻害)

この2成分の相乗効果によって、C型肝炎ウイルス(HCV)を直接的に阻害し、従来のインターフェロン療法よりもはるかに高い著効率と低い副作用を実現しています。

なぜ胃薬との併用に注意が必要なのか?

問題となるのは、レジパスビルの吸収に「胃内pH」が大きく影響する点です。

胃内pHとレジパスビルの溶解性
レジパスビルは酸性環境で溶解性が高く、吸収が促進されます。

一方で、pHが上昇すると(胃酸が減ると)溶解性が低下し、結果として血中濃度が下がることが知られています。

つまり、胃酸を抑える薬(制酸薬やPPIなど)と併用すると、レジパスビルの吸収が不十分になり、薬効が弱まる可能性があるのです。

併用注意とされる胃薬の分類と具体例

以下の薬剤が併用注意に該当します。

① 制酸薬(酸を中和する)
・水酸化マグネシウム(酸化マグネシウム含有製剤も含む)
・水酸化アルミニウムゲル
・炭酸水素ナトリウム(重曹)
・炭酸マグネシウム
・沈降炭酸カルシウム
・ボレイ(牡蠣殻・漢方)

② H₂ブロッカー(ヒスタミンH₂受容体拮抗薬)
・ファモチジン(ガスター)
・ラニチジン(ザンタック)※現在は国内販売停止
・ニザチジン(アシノン)
・ロキサチジン(アルタット)

③ プロトンポンプ阻害薬(PPI)
・オメプラゾール(オメプラール)
・ランソプラゾール(タケプロン)
・エソメプラゾール(ネキシウム)
・ラベプラゾール(パリエット)
・ボノプラザン(タケキャブ)※カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)

併用する場合の具体的な服用指導(添付文書より)

▶ PPI併用の場合(ネキシウムなど)
ハーボニーと併用する場合は、プロトンポンプ阻害剤を空腹時にハーボニーと同時投与すること。

▶ H2ブロッカー併用の場合(ファモチジンなど)
ハーボニーと併用する場合は、H2受容体拮抗剤をハーボニーと同時に投与又は本剤投与と12時間の間隔をあけて投与すること。

ただし…
・高齢者などでは厳密な服薬時間の順守が難しいケースがある
・医師や薬剤師による事前確認と服薬設計が必須
・特に高額治療であることを踏まえ、「避けられる併用」は避けるのが望ましい

OTC医薬品にも含まれる成分に要注意

市販の胃腸薬・総合感冒薬・漢方薬などにも、制酸作用をもつ成分が含まれている場合があります。

市販薬でよくある制酸成分
・炭酸水素ナトリウム:太田胃散、パンシロン
・ケイ酸アルミン酸マグネシウム:第一三共胃腸薬
・水酸化マグネシウム:新キャベジンS
・ボレイ:漢方(安中散、柴胡桂枝湯など)

注意ポイント
・本人が「胃薬は飲んでいない」と言っても、風邪薬や漢方に含まれていることがある
・服用薬の成分表や添付文書を確認する習慣を持たせることが重要

服薬指導時のポイント

・治療中の全ての薬・サプリメント・OTCを確認
・PPIや制酸薬を処方医に報告し、必要に応じて変更提案
・患者には、薬を飲むタイミングや併用禁忌の理由を「具体的に」説明
・ハーボニーが非常に高額であること、治療失敗が重大な結果を招くことを理解してもらう

そもそも胃薬は必要か?見直しのすすめ

C型肝炎治療中のPPIなどは、本当に必要なのかどうかを再評価するべきタイミングかもしれません。

・NSAIDsやアスピリンの予防目的で処方されているだけのPPI
・食後の胃もたれに対して漫然と継続している制酸薬
・漢方薬の副成分としてのボレイ

これらが不要であれば、中止することでハーボニーの吸収低下リスクを回避できる可能性があります。

C型肝炎の治療は、数十万円〜数百万円にもなる保険医療費が投入される非常に重要な治療です。その効果を最大限発揮するためにも、何気なく使われている胃薬との相互作用を見逃さないことが、薬剤師に求められる役割の一つです。

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