2025年6月1日更新.2,485記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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大酒飲みは薬が効きにくい?けれどカロナールの副作用は出やすい

大酒飲みは麻酔が効きにくい

「大酒飲みは麻酔がかかりにくい」。これは麻酔科医の間では常識のように語られるフレーズです。実際に慢性的に飲酒している人は、薬が効きにくいと感じたことがあるかもしれません。

その原因のひとつが、肝臓にある「チトクロームP450(CYP)」という酵素群の誘導です。なかでもCYP2E1はアルコールを代謝する酵素として知られていますが、この酵素はアルコール以外の多くの薬物、特に麻酔薬やアセトアミノフェン(カロナール)などの代謝にも関与しています。

なぜ薬が効きにくくなるのか?
慢性的な飲酒を続けていると、CYP2E1の量と活性が通常の4〜10倍にまで上昇することが知られています。これを「酵素誘導」と呼びます。酵素が増えるということは、薬を代謝・分解するスピードが速くなるということ。たとえば通常の人であれば4時間効いている薬が、慢性飲酒者では2時間しか効かない、というようなことが起こるわけです。

これが「大酒飲みは薬が効かない」と言われる理由です。

カロナールの肝毒性

薬が効きにくくなるだけならまだしも、問題は「副作用は逆に出やすくなる」ケースがあることです。その代表例がアセトアミノフェン(商品名:カロナール)です。

通常、アセトアミノフェンは肝臓で安全な代謝経路をたどって解毒されますが、CYP2E1で代謝されるとNAPQI(ナップキューアイ)という毒性の強い中間代謝産物が生成されます。通常はグルタチオンという解毒物質によって無害化されますが、慢性飲酒者ではこのグルタチオンも枯渇しやすく、NAPQIが蓄積しやすい状態になります。

つまり、「効きにくい」のに「副作用は出やすい」という、薬剤師にとっても難しい体質になっているわけです。

実際、アルコール性肝障害のある人がアセトアミノフェンを常用した場合、通常量でも重篤な肝障害を起こすリスクがあるとされ、添付文書にも「慎重投与」として記載されています。

興味深いことに、CYP2E1の活性は断酒によって比較的早く低下することもわかっています。ある報告では、慢性飲酒者が断酒すると3日以内にCYP2E1活性が急減し、15日後にはほぼ正常レベルに戻るとされています。

これはつまり、飲酒習慣をやめれば、薬が「普通に効く体」に戻っていく可能性があるということです。

薬剤師として重要なのは、処方監査や服薬指導の場で飲酒歴を確認する習慣を持つことです。
「薬が効きにくい」というような状況に出会った場合、慢性的な飲酒の影響を疑う視点を持つことが必要です。

また、患者への指導でも「お酒が強いと薬が効かなくなることがある」ことや、「お酒を飲んでいると副作用が出やすくなる薬がある」といった話を、わかりやすく伝えることが大切です。

「大酒飲みは薬が効きにくい」とは、単なる体質の問題ではなく、薬物代謝酵素CYP2E1の誘導によって薬の分解が早まり、薬効が減弱する現象です。さらに厄介なのは、一部の薬ではその代謝経路が毒性を生むという逆転現象が起こること。

薬の力を最大限に引き出し、副作用を避けるためには、飲酒習慣への理解と注意喚起が不可欠です。

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