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広域から始めるか、狭域から始めるか?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約3分50秒で読めます.
5,330 ビュー. カテゴリ:エンピリック治療
なるべくたくさんの菌に効く抗菌薬のほうが良いよね?
細菌感染症にかかった患者に医者がとりあえず処方する薬は、広域スペクトル抗菌薬です。
痰などの患者試料から原因菌が分離同定されれば、それに対して有効な抗菌薬を決めることができます。
しかし、この検査には一定の時間がかかるので、広く可能性のある菌種に対して抗菌活性を有する薬をまず投与しておくという、薬の無難な選択がなされます。
広域スペクトル抗菌薬の代表はβラクタム薬ですが、ニューキノロン薬はこれに並ぶ広いスペクトルを持ちます。
ニューキノロン薬はナリジクス酸に由来しますが、ナリジクス酸自体は大腸菌などのグラム陰性菌のみに有効で用途は限定的です。
しかし、そのキノロン母核の化学修飾により、ニューキノロン薬は肺炎球菌などのグラム陽性菌にスペクトルを拡大し、呼吸器感染症に使用できる抗菌薬(レスピラトリーキノロン)が作られています。
De-escalation
病歴から耐性菌関与の可能性を推定し、耐性菌関与が疑われる院内肺炎では、カルバペネム系のモノセラピーやグリコペプチド系との併用療法など、広域スペクトラムを持つ抗菌薬を積極的に用い、並行して行われる原因菌検査の結果を待って、より狭域の抗菌薬に照準を絞って変更する戦略
アボット感染症アワー 〜感染症と化学療法〜 20070420
デ・エスカレーションの反対はエスカレーションです。これは、これまでに医療の現場で最も普遍的に行なわれてきた抗菌薬の選択法だと思います。例えば最初にペニシリン系、次にセファロスポリン系の第一世代、第二世代、第三世代、そしてカルバペネム系というふうに、治療効果をみながら投与し、効果が不十分と判断された場合、次第に抗菌スペクトラムを広げながら抗菌薬を変更してゆく方法です。
ここで、お気づきだと思いますが、エスカレーション療法を行なう時には、効果がみられない場合に、何度かの抗菌薬の変更を行なう余裕のある軽症、中等症の患者病態であるという前提があります。
もし、重症で抗菌薬の効果が得られなければ、即生命予後に関わるという状況では、エスカレーション療法を行う余裕はなく、最初から強力な抗菌薬療法を実施します。従って、私たちも重症の感染症では実際にデ・エスカレーション療法を日常診療として行なってきたわけです。
軽症で時間的余裕のある患者には、ペニシリンとか第一世代セフェムとかから始めても良いけど、重症で時間的余裕のない患者には、ニューキノロンとかカルバペネムとか広域の抗菌薬を初めから使って、原因菌が特定された段階で狭域の抗菌薬を使うという作戦らしい。
エンピリックセラピーとは、意味合いは違うのかな。
耐性菌が問題となっている昨今、ファーストチョイスでニューキノロンってのは、愚策であると思っていましたが、そうとも言い切れないか。
まとめますと、抗菌薬のデ・エスカレーション療法を行なう場合には、
・特に院内感染症の場合には、抗菌薬の投与量を十分な量にしなければならない
・侵襲的な検査を行ってでも良質の材料を採取し、細菌学的検査を行う
・3日目には、臨床症状ならびに細菌学的な結果を基に、不必要な抗菌薬を中止しなければならない
という条件が必要であるということを理解することが重要です。
条件をみると、一般の診療所で、デ・エスカレーション療法を行うということはあまり考えられ無さそうな感じですが。
最適な抗菌薬の選択というのは難しい。
グラム陽性とグラム陰性の違い
細菌の分類に繁用されるグラム染色ですが、複数の試薬で染色し、クリスタル紫で青紫にしっかり染まれば陽性、一方、アルコール処理で脱色されてしまい、サフラニンでピンクに染まるのが陰性です。
グラム陽性菌で染色が保持されるのには、1層の分厚いペプチドグリカン層からなる細胞壁を有することが関連しています(陰性菌は、3層から構成される細胞壁を有します。)
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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