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肝臓病でかゆくなる?
公開. 更新. 投稿者:肝炎/膵炎/胆道疾患.この記事は約6分45秒で読めます.
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肝障害とかゆみ
肝障害は、障害のメカニズムによって肝細胞性肝障害と胆汁うっ滞型肝障害に分けられる。
肝細胞性肝障害では肝細胞の障害によるAST/ALTの上昇が特徴的であり、胆汁うっ滞型肝障害ではビリルビンやアルカリフォスファターゼの上昇が特徴的である。
肝細胞性肝障害でもかゆみが出現することがあるが、一般には胆汁うっ滞型肝障害でかゆみが出現することが多いといわれている。
胆汁うっ滞がどのようなメカニズムでかゆみを引き起こすかについての詳細はわかっていない。
胆汁うっ滞とかゆみ
胆汁うっ滞が起きる原因は様々だが、慢性肝炎や肝硬変などの慢性肝疾患と、胆管結石が原因となる場合が多い。
肝臓で作られた直接ビリルビンが胆汁中に排泄されずに血中に逆流するため、血液検査で直接ビリルビン値の高値異常が認められる。
皮膚の掻痒感は、胆汁うっ滞の患者にしばしば見受けられる症状である。
胆汁のうっ滞によって胆汁酸の血中濃度が上昇し、その結果、皮膚表面に胆汁酸が蓄積して、ヒスタミン等が遊離されるからだと考えられている。
胆汁うっ滞による掻痒感は、特に夜間に増強することが多く、しばしば不眠の原因になる。
1. 胆汁酸の関与
胆汁うっ滞により血中の胆汁酸濃度が上昇することから、胆汁酸がかゆみの一因と考えられる。
実際、胆汁酸を皮内に注射するとかゆみが出現する。
閉塞性黄疸や原発性胆汁性肝硬変のかゆみを伴う患者では、グリシン抱合型胆汁酸に比べ、タウリン抱合型胆汁酸の割合が高くなることが知られている。
しかし、胆汁酸の濃度とかゆみの強さは相関しないことなどから、胆汁酸とかゆみの関連に関して根拠はまだ十分ではないと考えられている。
2. プロゲステロン代謝物の関与
胆汁うっ滞型肝障害のなかでも妊娠性肝内胆汁うっ滞症では、胆汁酸とともにプロゲステロン代謝物の血中濃度が上昇することが知られている。
ウルソデオキシコール酸で妊娠性肝内胆汁うっ滞症のかゆみの治療を行うと、尿中のプロゲステロン代謝物の減少とかゆみの減少がよく相関するが、胆汁酸の量とは相関しない。
したがって、少なくとも妊娠性肝内胆汁うっ滞症ではプロゲステロン代謝物がかゆみに関わっている可能性がある。
3. エンケファリンの関与
内因性オピオイドも肝疾患のかゆみに重要な役割を果たしている可能性がある。
原発性胆汁性肝硬変の患者の肝生検標本を免疫染色するとメチオニン-エンケファリンが検出される。
エンケファリンは原発性胆汁性肝硬変の患者で増加し、そのかゆみはオピオイド受容体拮抗薬であるnalmefeneで抑制されたことから、肝疾患のかゆみの原因として有力な候補である。
しかし、この内因性エンケファリンは病期とは相関するがかゆみとは相関しないという報告もあり、かゆみの原因は1種類ではなく、複数のメカニズムが存在することが予想される。
肝障害によるかゆみの特徴
肝疾患に伴うかゆみは全身の皮膚に出現するが、特に手掌と足底に強く出現するのが特徴的である。
皮膚の炎症に伴うかゆみではないため特徴的な皮疹はないが、かゆみによる掻破行動で生じた掻破痕や、二次的に生じる痒疹結節が認められることがある。
また、肝機能異常に伴って黄疸、クモ状血管腫、手掌紅斑などが認められることもある。
一方、肝障害の初発症状としてかゆみが出現することも多く、明らかな皮疹がないかゆみを訴える患者を診察する場合、肝機能異常に伴うかゆみの可能性も考慮し、肝機能のチェックをすべきである。
黄疸の痒みに重曹水
黄疸に伴う痒みについては、血中ビリルビンが上昇した場合に現れる症状で、主に抱合型のビリルビンである場合と非抱合型の場合とがある。
前者は胆汁流出路に閉塞や狭窄が生じた場合、また急性肝炎のような時にみられ、しばしば痒みを伴う。後者は、溶血が亢進して肝臓が処理しうる能力を上回る非抱合型ビリルビンが産生されるような時に起こり、痒みを伴わない。
いいかえると痒みを伴うのは胆汁の肝臓からの流出が何らかの理由で障害された場合であり、胆汁中の主成分の一つである胆汁酸がビリルビンと同じように腸管内に出にくいために皮下組織に増加するからであると考えられている。
痒みと重曹
皮膚の痒みに対する対症療法としての重曹水の塗布(保険適応外)は、必ずしも確立した療法とは考えられていないとあります。
重曹水の効果発現機序については、重曹は皮下組織中の胆汁酸や汗などの酸性物質の発生・停滞に対して正常の液性に戻す働きがあり、外皮粘膜の細胞に対して多少の知覚麻痺を起こすことから痒みを軽減するのではないか、と考えられているようです。
重曹水
重曹水(炭酸水素ナトリウム液):使用濃度は、通常1~2%水溶液。用時調整。
炭酸水素ナトリウムの性状として、低温の水に加えたときは分解せずに溶解するが、水溶液で長く放置するか、激しく振り混ぜると二酸化炭素を放出し、65℃以上に過温すると急速に分解して炭酸ナトリウムとなることから、用時調整。
また、重曹を分包しておく場合には、本品は湿った空気中で徐々に分解して炭酸ナトリウムとなるため、防湿に対する配慮が必要となります。
肝疾患によるかゆみの治療法は?
肝疾患でかゆみが生じる場合がある。
肝疾患でかゆみが生じる機序などは不明な点が多いが、ヒスタミンがかゆみを引き起こす重要な役割を果たしていることが知られている。
なので、とりあえず抗ヒスタミン薬を使用する。
しかし、それでもなお続くかゆみには様々な薬が使われる。
腸管内での胆汁酸代謝産物による起痒物質の産生が原因とされる場合には、コレスチラミンが使われる。
胆汁酸塩の濃縮により破壊された肝細胞膜からの起痒物質の遊離が原因とされる場合には、肝細胞の胆汁酸濃縮の抑制を目的としてリファンピシンやウルソデスオキシコール酸が使われる。
内因性オピオイドの増加が原因とされる場合には、セロトニン5-HT₃受容体拮抗薬のオンダンセトロン(ゾフラン)が使われたりもする。
リファンピシンとかゆみ
リファンピシンは抗結核薬であるが、肝薬物代謝酵素の一つであるチトクロムP450(CYP)3A4や、有機アニオン性薬物の胆汁酸排泄に関わる多剤耐性関連蛋白質(MRP)2を誘導することが知られており、それによりかゆみが減弱している可能性がある。
クラナらのメタ解析では、慢性胆汁うっ滞のかゆみの治療においてリファンピシンは有効性が高く、肝毒性のリスクも低いということがわかった。
ウルソとかゆみ
ウルソ(ウルソデオキシコール酸)は、胆汁をより親水性にして胆汁分泌、排泄を促進させる薬剤である。
原発性胆汁性肝硬変や原発性硬化性胆管炎のかゆみでは、メタ解析では統計学的に有意差は出ていないが、妊娠性肝内胆汁うっ滞症では効果があったとの報告がある。
コレバインとかゆみ
胆汁酸による皮膚掻痒感には、コレバインなどの陰イオン交換樹脂製剤が使用されることが多い。
同剤は、分解や吸収を受けず、腸管内で胆汁酸と吸着してそのまま糞便中に排泄される薬剤である。
通常、胆汁酸は、腸内に排泄された後に、大半が小腸から吸収されて再利用されるが、同剤の服用により便中に排泄される胆汁酸の量が増えることで、血中胆汁酸濃度が低下し、皮膚の掻痒感を軽減できると考えられる。
ウルソは、胆汁うっ滞を伴う肝疾患の利胆に有効な薬剤である。
副作用が少なく、肝疾患等の患者にしばしば長期間で使用される。
単剤投与で、胆汁酸による皮膚の掻痒感に効果があったとの報告もあるが、一方で否定的な見解もあり、肝疾患に伴う皮膚掻痒感に対しては、陰イオン交換樹脂製剤と併用されるのが一般的である。
なお、この2剤の掻痒感に対する効果には速効性がなく、これまでの研究では、効果発現までに1~2週間程度が必要だとする報告が多い。
参考書籍:日経DI2002.8、調剤と情報2011.4
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