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透析のかゆみと普通のかゆみの違いは?
公開. 更新. 投稿者: 4,680 ビュー. カテゴリ:腎臓病/透析.この記事は約7分30秒で読めます.
透析のかゆみと普通のかゆみの違いは?

「透析をしている患者さんが、かゆくて眠れないと言っている」
透析患者では、強いかゆみに悩まされることがあります。
かゆみ止めといえば、アレグラ(フェキソフェナジン)、アレロック(オロパタジン)、ザイザル(レボセチリジン)などの抗ヒスタミン薬を思い浮かべます。
しかし、透析患者のかゆみには抗ヒスタミン薬が十分に効かないことがあります。
なぜでしょうか?
それは、「かゆみ=ヒスタミン」ではないからです。
透析患者にみられるかゆみは、現在ではCKD-associated pruritus(CKD-aP:慢性腎臓病関連そう痒症)とも呼ばれ、一般的なアレルギー性のかゆみとは異なる複雑な仕組みが関係しています。
「普通のかゆみ」はヒスタミンが原因?
まず、かゆみがどのように起こるのかを考えてみます。
代表的なのが蕁麻疹です。
アレルギー反応などによって皮膚のマスト細胞からヒスタミンが放出されると、ヒスタミンが感覚神経に存在するH1受容体などを刺激します。
その刺激が神経を通って脊髄、さらに脳へ伝えられることで、
「かゆい」
と感じます。
そのため、蕁麻疹などのヒスタミンが強く関与するかゆみでは、H1受容体を遮断する抗ヒスタミン薬が有効です。
しかし、すべてのかゆみがヒスタミンによって起こるわけではありません。
かゆみに関係する物質には、
ヒスタミンだけでなく、プロテアーゼ、サイトカイン、神経ペプチドなど、さまざまなものがあります。
アトピー性皮膚炎などでは複数の経路が関与するため、抗ヒスタミン薬だけでは十分にかゆみを抑えられないことも珍しくありません。
つまり、
「かゆみ止め=抗ヒスタミン薬」ではない
ということです。
透析患者はなぜかゆくなる?
透析患者のかゆみはさらに複雑です。
単一の原因で起きているのではなく、複数の要因が重なって発症すると考えられています。
代表的なものとして、
- 皮膚の乾燥とバリア機能の低下
- 慢性的な炎症・免疫系の異常
- 尿毒症に伴う体内環境の変化
- 神経系の変化
- オピオイド受容体系のバランス異常
- カルシウム・リン代謝などの異常
などが研究されています。
そのため、「腎臓が悪いから○○という毒素がたまって、それが皮膚を刺激する」という単純な病態ではありません。
透析を行っていても完全には改善しない患者がいるのも、この複雑さが関係していると考えられます。
透析患者は皮膚が乾燥している
透析患者のかゆみを考えるうえで、まず重要なのが**皮膚乾燥(乾皮症)**です。
透析患者では皮膚が乾燥しやすく、皮膚バリア機能も低下しやすいことが知られています。
皮膚が乾燥すると外からの刺激に対して敏感になります。
服が擦れる。
汗をかく。
入浴する。
皮膚を掻く。
こうした刺激そのものが、さらにかゆみを誘発しやすくなります。
そして、
かゆい → 掻く → 皮膚が傷つく → 炎症が起きる → さらにかゆい
というitch-scratch cycle(イッチ・スクラッチサイクル)が形成されます。
そのため透析患者のかゆみに対しても、保湿剤によるスキンケアは治療の基本の一つになります。
「透析のかゆみは中枢性だから、保湿剤は意味がない」というわけではありません。
なぜ抗ヒスタミン薬が効きにくい?
ここが一般的なかゆみとの大きな違いです。
蕁麻疹であれば、
ヒスタミン → H1受容体 → かゆみ
という経路が重要なので、抗ヒスタミン薬が効きやすい。
一方、CKD-aPではヒスタミンだけでなく、炎症、神経系、オピオイド系などさまざまな機序が関与しています。
そのため、
H1受容体だけをブロックしても、かゆみの経路全体を止めることができません。
これが「透析患者に普通のかゆみ止めを出しても効かない」というケースが生じる理由の一つです。
なお、抗ヒスタミン薬で症状が改善する患者がまったくいないという意味ではありません。
皮膚疾患やアレルギー性のかゆみを併発していることもありますし、鎮静性のある抗ヒスタミン薬では眠気によって夜間の症状が気になりにくくなる可能性もあります。
「透析患者だから抗ヒスタミン薬は効かない」と一律に考えるのも適切ではありません。
透析のかゆみとオピオイド受容体
CKD-aPを理解するときに興味深いのがオピオイド受容体系です。
オピオイド受容体というと、モルヒネなどの鎮痛作用を思い浮かべます。
しかしオピオイド系は、痛みだけでなく「かゆみ」の調節にも関与しています。
大まかにいうと、
μ(ミュー)オピオイド受容体系 → かゆみを促進する方向
κ(カッパ)オピオイド受容体系 → かゆみを抑制する方向
に働くと考えられています。
実際、モルヒネなどのμオピオイド受容体作動薬では副作用としてそう痒が生じることがあります。
この「κを刺激すると、かゆみを抑えられる」という仕組みを利用した薬が、透析患者のそう痒症に使用されます。
レミッチは普通のかゆみ止めと何が違う?
レミッチ(ナルフラフィン)は、κオピオイド受容体作動薬です。
抗ヒスタミン薬とは作用点がまったく異なります。
抗ヒスタミン薬が、
ヒスタミン → H1受容体
という経路を抑えるのに対して、ナルフラフィンは、
κオピオイド受容体
を刺激することでかゆみを抑制します。
そのため、抗ヒスタミン薬などでは十分に改善しない難治性のそう痒症に対して使用されます。
「透析患者のかゆみに、なぜオピオイド受容体に作用する薬を使うの?」
という疑問は、かゆみの発症機序を考えると理解しやすくなります。
コルスバという新しいタイプのかゆみ止め
現在はもう一つ、透析患者のそう痒症に使用されるκオピオイド受容体作動薬があります。
コルスバ(ジフェリケファリン)です。
ジフェリケファリンもκオピオイド受容体を刺激しますが、ナルフラフィンとの大きな違いは、末梢性κオピオイド受容体作動薬として設計されていることです。
中枢神経系への移行を抑えながら、末梢のκオピオイド受容体を介してそう痒を抑制するという考え方です。
ここからも、現在のCKD-aPを単純に、
「透析のかゆみ=中枢性のかゆみ」
と分類することが難しいことがわかります。
中枢・末梢を含めた神経系、免疫・炎症、皮膚バリアなどが複雑に関係していると考える方が実態に近いでしょう。
「末梢性」と「中枢性」だけで分けていい?
以前は、かゆみを説明するときに、
「蕁麻疹などは末梢性のかゆみ」
「透析患者のかゆみは中枢性のかゆみ」
という説明がよく行われていました。
非常にわかりやすい説明ではありますが、現在の知見からすると少し単純化しすぎです。
そもそも皮膚で発生したかゆみも、最終的には神経を通って脳で「かゆい」と認識されます。
さらにCKD-aPには、皮膚乾燥、炎症、末梢神経、中枢神経、オピオイド系など複数の要因が関係しています。
したがって、
「普通のかゆみ=末梢、透析のかゆみ=中枢」ではなく、「どの経路が強く関与しているかが違う」
と理解する方がよいでしょう。
透析患者のかゆみには何を使う?
透析患者が「かゆい」と訴えた場合、すぐにレミッチを使えばよいわけではありません。
まず皮膚の状態を確認することが重要です。
乾燥が強ければ保湿剤によるスキンケアを行います。
湿疹などの炎症性皮膚疾患があれば、それに対する治療も必要です。
透析条件やCKD-MBDに関連する異常など、かゆみを増悪させる要因についても検討されます。
それでも改善しないCKD-aPに対して、症状や重症度などに応じて薬物療法が検討されます。
つまり、
「透析患者のかゆみ」=すべて同じ治療
ではありません。
透析患者が「かゆい」と言ったら薬剤師は何を聞く?
薬局では「透析患者だからレミッチ」という考え方ではなく、かゆみの性質を聞いてみることが重要です。
たとえば、
「全身がかゆいのか、一部分だけなのか」
「発疹はあるのか」
「皮膚が乾燥しているのか」
「夜眠れないほどかゆいのか」
「透析中や透析後に強くなるのか」
「いつから始まったのか」
などです。
特に発疹がある場合には、CKD-aP以外の皮膚疾患や薬疹なども考える必要があります。
「透析患者だから腎臓由来のかゆみだろう」と決めつけないことが重要です。
普通のかゆみと透析のかゆみの違い
大まかに整理すると次のようになります。
| ヒスタミン性の代表的なかゆみ | CKD-aP | |
|---|---|---|
| 代表例 | 蕁麻疹など | CKD・透析患者のそう痒 |
| 主な機序 | ヒスタミンなど | 多因子性 |
| 皮膚乾燥 | 原因とは限らない | 重要な増悪因子 |
| 炎症・免疫 | 疾患による | 関与すると考えられる |
| 神経系 | 関与する | 重要と考えられる |
| オピオイド系 | 通常は治療の中心ではない | 治療標的の一つ |
| 抗ヒスタミン薬 | 効きやすい場合がある | 十分効かないことがある |
| 保湿剤 | 原因による | 基本的な対策の一つ |
| κオピオイド受容体作動薬 | 通常使用しない | 選択肢となる |
ここで注意したいのは、「普通のかゆみ」という一種類のかゆみが存在するわけではないということです。
蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾皮症、薬疹などでは、かゆみの機序も異なります。
まとめ
「透析のかゆみには普通のかゆみ止めが効かない」
と言われることがあります。
これは半分正しく、半分は単純化しすぎた表現です。
抗ヒスタミン薬は主としてヒスタミンが関係するかゆみを抑える薬です。
一方、透析患者にみられるCKD-associated pruritusは、皮膚乾燥、炎症・免疫系、神経系、オピオイド受容体系など複数の要因が関係する多因子性のかゆみと考えられています。
そのため、抗ヒスタミン薬だけでは十分に改善しない患者がいます。
そこで登場するのが、ナルフラフィン(レミッチ)やジフェリケファリン(コルスバ)など、κオピオイド受容体を標的とする薬です。
ただし透析患者には乾燥性皮膚も多いため、保湿をはじめとするスキンケアも重要です。
透析患者から「かゆい」と聞いたときには、
「透析だから特殊なかゆみ」と決めつけるのでも、「とりあえず抗ヒスタミン薬」と考えるのでもなく、何がその患者のかゆみを起こしているのかを考える。
これが重要なのだと思います。



