2025年9月7日更新.2,618記事.

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ベイスンを食後に飲んでも無意味?αグルコシダーゼ阻害薬の正しい服用タイミング

ベイスンを食後に飲んでも無意味?αグルコシダーゼ阻害薬の正しい服用タイミング

糖尿病治療において「食後高血糖」のコントロールは非常に重要です。日本人は欧米人に比べて食後高血糖を起こしやすく、空腹時血糖がそれほど高くなくてもHbA1cが悪化してしまうケースが少なくありません。

この「食後の急激な血糖上昇」を抑える目的で使われるのが、αグルコシダーゼ阻害薬(αGI)です。代表的な薬剤には、ベイスン(ボグリボース)、グルコバイ(アカルボース)、セイブル(ミグリトール)があります。

患者さんからしばしば聞かれる質問が、

「もし食後に飲み忘れたら、飲んでもいいの?」
というもの。

αグルコシダーゼ阻害薬の作用機序

食事から摂取した炭水化物は、消化を経て最終的にブドウ糖へと分解され、小腸から吸収されます。このとき、小腸の粘膜に存在する αグルコシダーゼ が二糖類を単糖に分解します。

αGIはこの酵素を阻害することで、糖質の分解・吸収を遅延させ、食後の急激な血糖上昇を防ぐのです。

したがって、薬の効果が発揮されるのは「食事で摂った炭水化物が小腸に届いて分解されるタイミング」に限られます。
つまり、服用は食直前が必須ということになります。

飲み忘れたときの対応

原則は「食直前」ですが、現実的には「食後に気づく」というケースも多いものです。そのときの対応は以下のように整理できます。

食事中に気づいた場合
 → すぐに服用すれば、まだ未消化の炭水化物が残っているため、十分な効果が期待できます。

食後すぐ(10〜15分以内)に気づいた場合
 → 消化・吸収は始まっていますが、全く効かないわけではありません。一定の効果が期待できます。

食後しばらく経過した場合(30分以上)
 → すでに大部分の糖が吸収されてしまうため、服用しても意味がなく、副作用のリスクだけを負う可能性があります。この場合は服用せずスキップします。

このように「食直前が鉄則」である一方で、食事中や食後すぐなら“全く無意味ではない”という点を押さえておくと安心です。

αGIの効果と限界

糖尿病治療薬にはそれぞれ強みと弱みがあります。HbA1c低下効果を比較すると:

・グリメピリドやメトホルミン:1.5〜2%低下
・チアゾリジン薬や速効型インスリン分泌促進薬:1.0〜1.5%低下
・αGI:1%未満(多くは0.5〜0.8%程度)

このように、αGI単独ではHbA1cを大きく下げる効果は期待できません。

しかし、αGIには他の薬にない強みがあります。
・食後高血糖に特化して改善する作用
・血糖の急激な変動を防ぐ
・STOP-NIDDM試験で心血管イベント抑制効果が示唆された

つまり、HbA1cを劇的に下げる薬ではありませんが、日本人に多い「食後高血糖型」の糖尿病に有効であり、治療戦略の中で重要な役割を担っています。

副作用と注意点

αGIは全身性に作用する薬ではないため、単独で低血糖を起こすことはほとんどありません。
しかし、SU薬やインスリンと併用する場合は低血糖のリスクがあります。この場合、砂糖(ショ糖)では効果が不十分で、必ずブドウ糖を摂取する必要があることを患者さんに伝える必要があります。

また、よくある副作用は消化器症状です。
・おなら
・腹部膨満感
・下痢

これは、小腸で吸収されなかった糖質が大腸で発酵することによって起こります。特にグルコバイでは副作用が強いとされ、忍容性に応じてベイスンやセイブルが選択されることがあります。

ミグリトール(セイブル)の特徴

αGIの中でもセイブル(ミグリトール)は少し異なる特徴を持っています。

・グルコバイやベイスンはほとんど吸収されず、腸管局所で作用します。
・セイブルは小腸上部で一部吸収されるため、消化管全体での作用分布が異なります。

その結果、未消化の糖質が大腸まで届きにくく、副作用(おならや腹部膨満感)が比較的少ないという特徴があります。

このため、副作用が気になって服薬継続が難しい患者さんに対しては、セイブルが選択肢となることがあります。

まとめ

・ベイスンを含むαGIは、必ず食直前に服用するのが原則。
・食事中や食後すぐに気づいた場合は、全く無意味ではなく一定の効果は得られる。
・ただし、食後30分以上経過したら服用せずスキップ。
・αGIはHbA1c低下効果は穏やかだが、食後高血糖に特化した薬剤であり、心血管リスク低減にも寄与する可能性がある。
・セイブルは副作用が比較的少ないという特徴を持つ。

「鉄則は食直前。ただし、食事中や食後すぐに飲み忘れに気づいた場合は“無意味ではない”。ただし30分以上過ぎたらスキップ」
という三段階のルールを伝えると、患者さんも安心して実践できます。

3 件のコメント

  • 斎藤あけみ のコメント
         

    質問です。ボグリボース食前に服用中の方が食事量にムラがあり全く拒否して食べない時もあります。もちろん全量食べる日もあります。
    全く食事を取らない、もしくは少量しか取らない場合でもボグリボースは食直前に服用した方が良いのでしょうか?
    私は低血糖が心配なので、このような方には食直前ではなく食事を半分ぐらい食べたねのを確認してから服用してもらうようにしているのですが…。
    正しい服用方法を是非教えて下さい。

  • yakuzaic のコメント
         

    コメントありがとうございます。

    ボグリボースは糖の吸収を抑える薬ですので、血糖値を下げすぎるということはありません。
    血糖の上昇をなだらかにする薬です。最終的には糖は体内に吸収されていくので、食後の血糖値がドーンと高くなるのを防ぐだけです。
    ボグリボースを飲んで、食事を摂らなかったとしても、低血糖のリスクをさらに上げるというわけではありません。そのため、食事を摂る摂らないに関わらず、飲んでいただいた方がよいと思います。

  • 宮野洋一 のコメント
         

    ボグリボース0.2を服用して貰っていますが、うっかり缶チューハイを飲んでしまっていました。350ml缶1本くらいなんですが、問題があるでしょうか?

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