2024年11月4日更新.2,470記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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SGLT2阻害薬で腎機能低下する?

イニシャルディップ

薬剤師

イニシャルディップって何?

SGLT2阻害薬の服用開始時に「initial dip(イニシャルディップ)」と呼ばれるeGFRの低下がみられることが報告されている。

服用開始時のeGFR低下は一過性のものと考えられている。
ACE阻害薬やARBなどでもイニシャルディップが起こる。これは、輸出細動脈を拡張させることで糸球体内圧を低下させ、糸球体濾過量(GFR)を低下させるという機序である。
SGLT2阻害薬も輸入細動脈の収縮によって糸球体内圧を低下させる。

SGLT2阻害薬と腎機能

SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬であり、糖尿病性腎症を防ぎ、基本的に腎機能低下を抑制する働きがあります。

フォシーガやカナグルの適応には「慢性腎臓病」もあり、腎機能低下患者にも処方される。

フォシーガのeGFRに関する添付文書の記述は以下のようにある。

eGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性があること、本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化するおそれがあることから、投与の必要性を慎重に判断すること。eGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者を対象とした臨床試験は実施していない。

カナグルの添付文書には以下のように書かれている。

eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性があること、本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化するおそれがあることから、新規に投与しないこと。また、本剤投与中にeGFRが30mL/min/1.73m2未満に低下した場合は、投与継続の必要性を慎重に判断すること。

腎機能が低下しすぎれば、低血糖などの副作用のリスクも上昇し、尿から糖を出すというSGLT2阻害薬の効果も期待できなくなってしまう。

そのため、eGFR20~30程度まで低下した場合に、中止となることが多い。しかし、腎機能低下時は効果が減弱するものの、全く効果がないわけではないので、透析導入まで使用し続けることも多いです。

SGLT2阻害薬の腎機能低下に対する懸念としては、「浸透圧利尿による脱水で腎機能の悪化」「尿細管が長期にわたって高濃度のブドウ糖にさらされることによる細胞毒性」といったものも挙げられます。
腎機能の経過をみながら投与継続の可否を慎重に判断する必要があります。

糖尿病患者でeGFR上昇?

糖尿病の患者で、腎機能の数値eGFRが上がっていれば「腎機能改善した?」と思いますが、基本的に腎機能が改善することはなく、糖尿病性腎症の初期の一過性のeGFR上昇とみられる。

糖尿病性腎症の一般的な経過として、糖尿病発症後に、まず糸球体過剰濾過が起こり、一時的に推算糸球体濾過量(eGFR)が上昇する。その後、病態の進行に伴って微量アルブミン尿が表れるようになると、eGFRの値は低下し、見かけ上はいったん正常化する。しかし、病態がさらに進行すると、eGFRは急速に低下する。

なぜ糖尿病患者では糸球体過剰濾過が起こるのか?
糸球体と尿細管の間には、GFRの変動を小さくするための自動調節機構(尿細管糸球体フィードバック機構:TGF)が備わっている。正常の生理的環境下では、遠位尿細管にあるマクラデンサ細胞が、尿中に到達したナトリウム(Na+)量を感知し、糸球体の輸入細動脈の血管抵抗を調節し、恒常性を維持している。

しかし、高血糖環境下では、糸球体から多量のグルコースが濾過され、近位尿細管に流れ込む。濾過された多量のグルコースは、近位尿細管に存在するNa-グルコース共輸送体(SGLT)2を介してNa+とともに再吸収を受けるため、下流にある遠位尿細管のマクラデンサ細胞に到達するNa+が減少する。
このNa+の減少を、マクラデンサ細胞は、「GFRが低下している」と錯覚し、輸入細動脈を拡張させる誤ったシグナルを送ってしまう。糖尿病患者ではこうしたTGFの破綻により糸球体過剰濾過が起こると考えられている。

つまり、糖尿病患者の初期のeGFR上昇は、腎機能の改善とは違い、腎機能の悪化にもまだ至っておらず、腎臓の働かせすぎ状態が起こっている。
これに対し、SGLT2阻害薬は、Na・グルコースの共輸送を抑制し、遠位尿細管へ到達するNa+を増加させることでTGFを正常化し、糸球体過剰濾過を是正する。
糖尿病に伴う輸入細動脈の拡張に対して、RAS抑制薬が輸出細動脈を拡張させるのに対し、SGLT2阻害薬は輸入細動脈の拡張を是正する。

薬剤師

勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。

先生

そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。

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