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目薬は「点す」?「注す」?「差す」?正しい表記は?
公開. 更新. 投稿者:眼/目薬/メガネ.この記事は約4分29秒で読めます.
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目薬は「点す」?「注す」?「差す」?正しい表記と意味

「目薬をさす」という表現を、日常生活の中で誰もが一度は使ったことがあるのではないでしょうか。
しかし、改めてこの「さす」という言葉を漢字にすると、一体どの漢字を当てはめるのが正しいのか、考えたことはありますか?
・「目薬をさす」という表現に使われる漢字の違い
・それぞれの由来や意味
・医療現場での言葉の使い分け
・辞書や公的機関の見解
・そして現代の標準的な表記
について勉強していきます。
日常のささやかな疑問ですが、医療従事者や文章を書く立場の人にとって、意外と奥深いテーマです。
「目薬をさす」という言葉の成り立ち
もともと「目薬をさす」という表現は、古くから使われてきた日本語です。
日本語では「液体を対象に垂らす・注ぐ・入れる」という行為をさまざまな言葉で表現しますが、その中で「さす」は、比較的やわらかいニュアンスを持っています。
古い文献や辞書などでは、以下の漢字が用いられてきました。
・点す
・注す
・差す
この3つにはそれぞれ微妙に異なるニュアンスがあり、意味合いも厳密には同じではありません。
それぞれの漢字の意味と由来
点す(さす)
「点す」は「点眼(てんがん)」の「点」の字が使われており、
・液体を少量、点のように垂らす
というイメージがあります。
実際、医学用語の点眼(eye drop)は、この「点す」から派生した言葉といわれています。
かつては「点眼薬を点す」と書かれることも多く、医療関係者の中ではこの表記を好む方もいます。
注す(さす)
「注す」は「注ぐ(そそぐ)」と同根で、
・液体を注ぎ入れる
という意味を含みます。
少しだけ動作が大きく感じられ、「点す」よりも「しっかり入れる」印象があります。
しかし、現代では「注す」を目薬に対して用いる頻度は減り、辞書でも用例が限られる傾向にあります。
差す(さす)
「差す」という字は本来、
・物を差し込む
・入れる
・差し出す
といった意味が基本で、「液体を注ぐ」という直接的な意味は含みません。
ですが、「差す」という表現が日常語として一般化し、最も広く使われるようになりました。
国語辞典や新聞の用字用語集でも、目薬については「差す」を推奨する記載が多いです。
常用漢字と公的文書での扱い
日本では常用漢字表という制度があり、公式文書や新聞・放送で使用する漢字が整理されています。
この中では、「点す」「注す」という表記が常用漢字表にない用例とされるため、行政文書・新聞では採用を避ける傾向があります。
そのため、書き言葉では
・「さす」とひらがなで書く
・「差す」を使う
この2パターンが一般的です。
実際に、厚生労働省の資料や患者向けリーフレットでは「目薬を差す」が多用されています。
医療現場での表現の揺れ
私自身が薬剤師として勤務する中でも、患者さんからいろいろな言い方を耳にします。
「目薬をうつ」という表現をされる若い方も増えており、おそらく「注射をうつ」と同じ感覚で使っているのでしょう。
また、年配の方は「目薬をさす」「目薬を入れる」という表現を好む傾向があります。
実務では
・「点眼する」(専門用語)
・「目薬をさしてください」(患者指導用語)
・「目薬を使う」(やわらかい表現)
を使い分けています。
「うつ」は間違いなの?
では、「目薬をうつ」は誤用でしょうか?
厳密には、辞書上「うつ=打つ」は「注射」や「針を刺す」行為を指すため、目薬に使うのは正確な表現ではありません。
しかし、言葉は時代とともに変わるもの。
診察室や薬局では、無理に言い直させる必要はなく、
「目薬を差すという意味ですね」
と確認して進めれば問題ないでしょう。
各種辞書・辞典の記載
日本国語大辞典
・差す:液体を注ぐ意味を含む用例あり
・点す:少量の液体を点のように垂らす
・注す:液体を注ぐ
広辞苑
・「目薬を差す」で説明
・「点す」「注す」は補足的に紹介
Wikipedia
「目薬」の項目でも「差す」「点す」「注す」が併記されています。
実際にどれを使うのが正しい?
ここまで整理すると、正解は1つではないことが分かります。
どれも間違いではない
ただし、公的な文章・医療機関のパンフレットでは、
・「差す」
・ひらがな「さす」
が最も推奨されています。
私自身も、昔は「点す」を愛用していましたが、最近では迷ったときは「さす」に統一しています。
言葉の背景を知ることの大切さ
言葉の選び方には、それぞれ理由があります。
「点す」「注す」「差す」という微妙な違いを知ることで、
・患者さんへの説明がより正確になる
・文章に一貫性が出る
・医療従事者としての専門性が伝わる
こうした利点があります。
特に、患者向けの指導せんや医療記事を書く際には、
「常用漢字かどうか」
「辞書上の意味」
「標準的な表記」
を意識することが大切です。
目薬の正しい使い方も確認しよう
せっかくなので、言葉だけでなく目薬の正しい使い方もおさらいしておきます。
・手をよく洗う
・下まぶたを軽く引いて1滴だけ点す(差す)
・点眼後は目頭を軽く押さえ、数分閉眼
・複数の目薬を使う場合は5分以上間隔を空ける
特に高齢の方では、正しい使い方の周知も重要です。
結論:「目薬をさす」はどれでも大きな誤りではない
今回の結論としては、
・差す:最も一般的で標準的
・点す:専門性や由来を感じさせる
・注す:古い表現で現在はあまり使われない
・ひらがな「さす」:最も無難
いずれも「目薬を使う」という意味で誤解は生じにくく、
患者さんへの説明ではひらがなを使うのが安心です。
私自身、かつては「点す」を多用していましたが、
今後は「差す」または「さす」を基本にしようと思っています。
それでも、この些細な表記の揺れを気にかけるのは、医療従事者や日本語を大切にする人ならではのこだわりかもしれません。
みなさんは、どの漢字を選びますか?