2025年7月11日更新.2,515記事.

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しみる?しみない?外用薬の皮膚刺激指数

しみる?しみない?外用薬の皮膚刺激性を読み解く─皮膚刺激指数とは

「この軟膏、なんだかしみる…」「あの薬は全然しみなくて使いやすい」

患者さんの中には、外用薬を使用した際の“しみる”“しみない”という感覚を非常に敏感に感じ取る人がいます。そして、この「しみる/しみない」の正体は、皮膚刺激性という医学的な評価指標によってある程度予測できることをご存じでしょうか?

医療用外用薬のインタビューフォームなどに記載される「皮膚刺激指数」に着目し、薬の種類や剤形、添加物の違いがどのように皮膚刺激性に影響するのかを勉強します。患者満足度やアドヒアランスの向上にもつながる視点として、皮膚刺激性の理解は極めて重要です。

皮膚刺激指数とは?

「皮膚刺激指数(Skin Irritation Index)」とは、外用薬が皮膚に与える刺激の強さを数値化したものです。これは、主に外用ステロイド剤や抗炎症薬などの皮膚外用剤の開発・評価過程において、実験的に測定される項目です。

インタビューフォームに記載されていることがあり、同じ薬効成分でも製剤(基剤や添加物)が異なることで、刺激指数が異なるケースもあります。

刺激性に影響を与える要因

皮膚刺激性は以下の複数の因子によって決まります:

●主な影響要因:
・主薬(有効成分):一部の抗真菌薬やNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)などは刺激性が高め。
・基剤(軟膏・クリーム・ローションなど):剤形による違いも大きい。
・添加物(防腐剤、界面活性剤など):しみる感覚を左右する大きな要素。

●特に注意すべき添加物:
・界面活性剤(乳化剤):O/W型クリームやゲルで使用。刺激性あり。
・可溶化剤・分散剤:ローション剤に多用される。
・防腐剤(パラベンなど):アレルギーや刺激の原因に。

剤形による皮膚刺激性の傾向

皮膚刺激性は、剤形ごとにおおよその傾向があります。

一般的には:
ゲル > ローション > クリーム > 軟膏
という順番で刺激性が高いとされます。

理由:
・ゲルやローションには、水性基剤や界面活性剤が多く使われており、揮発性や浸透性が高いため、肌への刺激感が強い。
・軟膏(白色ワセリン基剤)は油脂性で刺激が少なく、バリア性が高い。

しかしながら、「刺激が強い=悪い薬」というわけではありません。

しみる軟膏 vs しみない軟膏:どちらが優れている?

実際には、「しみない軟膏の方が好まれる」というケースが多いですが、逆に「しみる=効いている気がする」とポジティブに受け取る患者さんも存在します。

しみない薬が適しているケース:
・小児や高齢者など皮膚が敏感な人
・アトピー性皮膚炎などバリア機能が低下している部位
・びらん面・亀裂・外傷部などに使う場合

しみる薬が好まれることがあるケース:
・痒み止めや消炎効果を即効で実感したい患者
・使用部位が角層の厚い部位(手掌、足底)

したがって、「しみる・しみない」だけで薬剤を評価せず、使用目的や部位、患者の感受性によって使い分けることが大切です。

皮膚刺激指数一覧

薬効分類医薬品名皮膚刺激指数
非ステロイド剤スタデルム/ベシカム18.1
非ステロイド剤アンダーム12.8
非ステロイド剤コンベック/フエナゾール6.7
非ステロイド剤トパルジック/スルプロチン4.6
ステロイド剤アドコルチンクリーム18.1
ステロイド剤ダイアコートクリーム11.7
ステロイド剤シマロンゲル9.9
ステロイド剤トプシムローション9.8
ステロイド剤デルモベートクリーム9.6
ステロイド剤リンデロンDPゾル8.3
ステロイド剤リンデロンVGローション7.6
ステロイド剤メサデルムクリーム5.3
ステロイド剤パンデルクリーム5.3
ステロイド剤マイザークリーム5
ステロイド剤ロコイドクリーム4.7
ステロイド剤リドメックスローション4.5
ステロイド剤トプシムEクリーム3.3
ステロイド剤オイラゾンD軟膏3.3
ステロイド剤ボアラクリーム3.2
ステロイド剤パンデル軟膏2.9
ステロイド剤アドコルチン軟膏2.9
ステロイド剤デルモベート軟膏2.7
ステロイド剤ブデソン軟膏2.7
ステロイド剤ロコイド軟膏2.5
ステロイド剤ブデソンクリーム2.5
ステロイド剤リンデロンDPクリーム2.3
ステロイド剤フルコートクリーム2.3
ステロイド剤メサデルム軟膏2.1
ステロイド剤ビスダームクリーム2.1
ステロイド剤リンデロンVG軟膏1.9
ステロイド剤ボアラ軟膏1.9
ステロイド剤キンダベート軟膏1.9
ステロイド剤トプシム軟膏1.9
ステロイド剤プロパデルムクリーム1.8
ステロイド剤ダイアコート軟膏1.6
ステロイド剤リンデロンDP軟膏1.6
ステロイド剤ビスダーム軟膏1.6
ステロイド剤アンテベートクリーム1.6
ステロイド剤リンデロンVGクリーム1.4
ステロイド剤リドメックスコーワ軟膏1.4
ステロイド剤アルメタ軟膏1.4
ステロイド剤リドメックスコーワクリーム1.2
ステロイド剤ネリゾナユニパーサルクリーム1
ステロイド剤フルコート軟膏0.8
ステロイド剤プロパデルム軟膏0.4
ステロイド剤アンテベート軟膏0.2

アンテベート軟膏(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)は、中等度のステロイド剤として広く処方されており、その人気の背景には「刺激性の低さ」があると考えられます。

・強すぎず弱すぎないステロイドランク
・軟膏基剤で皮膚刺激が少なく、使いやすい
・小児や顔面などのデリケート部位にも比較的安心して使用可能

このように、薬効だけでなく“使用感”の良さも、外用薬選択における重要な要素なのです。

患者への説明のポイント

薬剤師や医師が患者に外用薬を説明する際には、「しみる/しみない」という感覚に寄り添う説明が効果的です。

「しみやすい部位ですので、初回は少量で試してみてください」
「この薬は少し刺激を感じるかもしれませんが、通常はすぐに落ち着きます」
「刺激が強いと感じたらすぐに使用を中止し、相談してください」

まとめ

皮膚外用薬の「しみる」「しみない」は、主薬の性質だけでなく、基剤や添加物、剤形など複数の要素に左右される複雑な現象です。皮膚刺激指数という客観的な数値を手がかりに、症状や患者背景に応じた製剤を選ぶことが、より効果的な治療と高い満足度につながります。

皮膚の状態や使用部位、年齢層に応じた処方設計と丁寧な説明を心がけ、「しみない=安心」「しみる=危険」といった単純な印象から脱却する知識を持ちましょう。

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