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女性ホルモンと癌のリスク
公開. 更新. 投稿者:月経/子宮内膜症.この記事は約6分35秒で読めます.
3,029 ビュー. カテゴリ:癌とホルモン
女性特有のがんのうち、女性ホルモンの一種、卵巣ホルモン(エストロゲン)の刺激によって増殖する、いわゆるホルモン感受性のがんが、乳がん、卵巣がん、子宮体がん(子宮内膜がん)です。
エストロゲン製剤であるプレマリンの禁忌にも、
エストロゲン依存性腫瘍(例えば乳癌、子宮内膜癌)及びその疑いのある患者[腫瘍の悪化あるいは顕性化を促すことがある。]
と、記載されている。
エストロゲン(卵胞ホルモン)単独だと、子宮体癌(子宮内膜癌)のリスクを上昇させるが、エストロゲンの働きを抑えるプロゲステロン(黄体ホルモン)を含む低用量ピル(OC)については、子宮内膜を薄く保ってくれるので、子宮体癌の発生リスクを下げると言われています。また、卵巣がんは、卵巣が毎月の破裂と修理を繰り返すことで生じるとされているため、低用量ピルの服用により卵巣が休むことができるので、がんの発症を抑制すると考えられています。
比較的若年層に多い子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が原因とされます。
一方、女性ホルモンが予防的に働いているがんもあり、肝臓がんはその1つだと言われています。
加齢とともに増加する大腸がんは、比較的男女差が小さく、生涯罹患率では、平均寿命の長い女性が男性に段々追いついていくという側面がありますが、女性ホルモンが予防的に効いていると考えられています。肥満は、大腸がん、とりわけ結腸がんの原因の1つになりますが、女性では内臓脂肪が蓄積しても女性ホルモンが作られることで、それが予防的に作用していると考えられていて、肥満との関連は男性と比べて小さいことが分かっています。
乳がんの原因は女性ホルモン?
乳がんの原因については、まだ十分に明らかになっていないこともありますが、日本で乳がんが増えている背景として、戦後、食生活が欧米化したことによって、体格がよくなり、女性の初経年齢が早まり閉経年齢が遅くなったこと、晩婚化・少子化で出産経験がない・または少なくなったことなどが挙げられます。
これらに共通しているのは、乳腺細胞が女性ホルモン(特にエストロゲン)にさらされている状態が長い期間に及ぶということです。
妊娠のメカニズムもはっきりしていない点も多いのですが、妊娠中はエストロゲンがきわめて高濃度になるので、できかけていたがん細胞がアポトーシス(プログラムされた細胞死)を起こすのではないか、あるいは、エストロゲンに拮抗する作用をもつ黄体ホルモン(プロゲステロン)も多く分泌されるからではないかなどが考えられています。
妊娠経験がない人は、その点でリスクファクターが増えると考えられています。
閉経すると、女性ホルモンの分泌量は減少します。しかし、脂肪組織においては、閉経後も副腎皮質から分泌された男性ホルモン(アンドロゲン)をもとにしてエストロゲンが産生されます。
このため、閉経後に肥満していると、エストロゲンも一定レベルを保つことになるので、それもリスクになるとされます。
母乳を長期間与えることで、母親の乳がんリスクが低くなることを指摘する研究が数多くあります。
これまでに日本において実施された8つの疫学研究の結果から総合的に判断すると、授乳が乳がんリスクを低下させる可能性があるとされています。
国際的にも授乳の乳がん予防効果は確実視されています。
初経年齢が早いことや初産年齢が遅いことなどは乳がんのリスクを上げる確実な要因ですが、出産後なるべく母乳で育てることは、子供のためになるだけでなく、母親の乳がんリスクを低下させることも期待できるとされます。
一方、子宮体がんもエストロゲンとの関係が深いがんであり、約8割はエストロゲンの長期的な刺激と関連していると考えられています。
乳がんと違うのは、初経年齢の早さはあまりリスク要因とならない点で、むしろ閉経が遅くなったことの影響が大きいとされます。
子宮体がんは、50歳代から60歳代の閉経前後の発症が多く、出産経験がないこともリスクになります。
また、経口避妊薬(ピル)との関係では、乳がんではリスクが上昇するのに対して、子宮体がんのリスクは下がることが知られています。
ホルモン補充療法が乳がんリスクを高める?
女性は、更年期を迎える前後から、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が急激に減少し、これに伴ってのぼせ、発汗、肩こり、頭痛、不眠といった様々な症状が現れます。
特にエストロゲン減少の影響が大きく、これらのホルモンを錠剤や経皮吸収型製剤などによって外から補っていこうというのが、ホルモン補充療法(HRT:Hormone Replacement Therapy)と言われる治療です。
欧米では1960年代からHRTが行われていましたが、日本では90年代以降になって、HRTをはじめとする更年期医療がようやく少しずつ広まっています。
米国では2002年、国立衛生研究所(NIH)によって、中高年女性の健康管理を目的としたWomen’s Health Initiative(WHI)という大規模な無作為化比較試験の結果が発表されました。
この中で、閉経後5年以上にわたって女性ホルモンを投与した群と投与しない群を比べたところ、女性ホルモンに関係している乳がんは、投与した群で明らかに罹患率が高まることがわかりました。
外因性のホルモンは、内因性のホルモンに比べて、量が多いものを長期にわたって使用することが発がんリスクにつながるとされます。
女性ホルモンには、心血管保護作用があることが知られており、WHIはもともとそれを補充して循環器疾患を予防できるかどうかを調べることを目的とした試験でしたが、その関係は明確にならず、むしろ乳がんとの関係が強調されるという結果になりました。
子宮体がんは、エストロゲン単独使用HRTにより、乳がんと同様にリスクが高まりますが、プロゲステロンを併用するとリスクは上がらないとされています。
乳がんとホルモン療法
乳がんの細胞には女性ホルモン(エストロゲン)に反応して増殖する「ホルモン感受性乳がん」があり、全体の6~7割を占めています。
このようなホルモン感受性乳がんに対しては、エストロゲンの作用を抑制することで乳がんの増殖を抑制する内分泌療法(ホルモン療法)が期待できます。
ホルモン受容体(エストロゲン受容体:ER、プロゲステロン受容体:PgR)がともに陰性の方には、原則的にホルモン療法はおこないません。
閉経前と閉経後の女性では、エストロゲンを産生する部位(産生源)が異なります。
閉経前の女性では卵巣がエストロゲンの産生源として重要ですが、閉経後の女性では、卵巣に代わって副腎皮質から分泌される男性ホルモンが原料となって、脂肪などにある「アロマターゼ」と呼ばれる酵素の働きによって女性ホルモンがわずかに産生されます。
閉経後の女性では女性ホルモンのレベルは閉経前に比べ1/100程度に減少します。
トリプルネガティブ乳がん
乳癌の約15%はホルモン受容体(ER・PgR)・HER2受容体共に陰性で「トリプルネガティブ乳癌」と呼ばれる。
トリプルネガティブ乳癌はその細胞を標的とする薬剤が無く予後が比較的悪いことが特徴であったが、近年DNA修復酵素であるPARP-1を阻害する薬剤が開発され、トリプルネガティブ乳癌に対する効果が期待されている。
乳がんの薬物療法
乳がんの薬物療法の種類は、ホルモン両方、化学療法(抗癌剤)と、またトラスツズマブ(ハーセプチン)に代表されるような分子標的治療薬があります。
トラスツズマブはヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)に対するモノクローナル抗体であり、HER2過剰発現が確認された転移性乳癌に適応があり、また術後補助療法でも再発を半減すると報告されている。
可逆性の心毒性があり、アントラサイクリン系薬との同時併用は禁忌とされる。
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