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無月経は好都合?無月経に潜むリスク
公開. 更新. 投稿者:月経/子宮内膜症.この記事は約4分23秒で読めます.
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無月経は本当に「好都合」? 女性の健康に潜むリスクと正しい治療

「生理が来ないのは楽でいい」と思う人は、決して少なくありません。
確かに月経は身体的・精神的に負担の大きい現象です。
しかし、無月経は単なる「楽な状態」ではなく、身体が発している重要な警告サインの可能性があります。
無月経の分類、原因、影響、治療について、女性のライフステージ全般にかかわる視点から勉強します。
無月経とは?
無月経とは、月経が発来しない・あるいは消失した状態です。
大きく分けて2つの種類があります。
原発性無月経
18歳を過ぎても初潮を迎えない状態。
染色体異常や生殖器の先天異常など、先天的な要因が多いです。
続発性無月経
それまであった月経が3か月以上停止する状態。
多くは視床下部や下垂体といったホルモン分泌を調整する中枢の機能低下が原因です。
実際には80~85%が視床下部や下垂体の機能障害といわれています。
月経が起こるメカニズム
月経は、妊娠が成立しないときに子宮内膜が剥がれ落ちて起こる生理的出血です。
ホルモン分泌は複雑なネットワークで制御されています。
・視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が分泌される
・GnRHが下垂体を刺激
・下垂体からゴナドトロピン(FSH、LH)が分泌され、卵巣を刺激
・卵巣からエストロゲン・プロゲステロンが分泌される
・子宮内膜が周期的に変化
このどこかがうまく働かなくなると、無月経が生じます。
続発性無月経の主な原因
過度の体重減少
極端なダイエットや拒食症(神経性食欲不振症)は、体が「生殖どころではない」と判断し、排卵を停止させます。
体脂肪が減ることで、脂肪組織から作られるエストロゲンも低下します。
精神的ストレス
ストレスは視床下部を直撃します。
たとえば、受験・転職・離婚・親しい人の死など、ライフイベントがきっかけで月経が止まる例は珍しくありません。
激しい運動
アスリートや過度な運動を行う人にしばしば見られます。
エネルギー不足と体脂肪低下が主因です。
肥満
意外かもしれませんが、太り過ぎも無月経を招きます。
脂肪組織で過剰にエストロゲンが産生されることで、ホルモンバランスが乱れ排卵障害が生じます。
痩せ過ぎと太り過ぎ、どちらも危険
やせすぎると…
・生殖機能を停止する「省エネモード」に体が入る
・脂肪組織からのエストロゲン産生が減る
・月経を引き起こすレプチンが不足する
太りすぎると…
・脂肪組織で男性ホルモンやエストロゲンが過剰産生
・卵巣でのホルモン産生バランスが崩れる
・排卵障害が起きる
このように、適正体重の維持が非常に大切です。
第一度無月経・第二度無月経の分類
無月経はさらに重症度によって二つに分かれます。
◆ 第一度無月経
・卵巣からある程度エストロゲンは分泌されている
・プロゲステロン製剤だけで消退出血が起こる
◆ 第二度無月経
・エストロゲン分泌がほぼゼロ
・子宮内膜が増殖していない
・プロゲステロン単独では出血が起こらない
長期間の無月経では第二度に移行し、子宮の萎縮や骨粗しょう症リスクが増大します。
診断に用いるホルモン試験
無月経の鑑別には「ゲスターゲンテスト」を行います。
・プロゲステロン製剤を5日ほど投与
・その後2~7日以内に3日以上持続する消退出血があれば第一度
消退出血がなければ「エストロゲン・ゲスターゲンテスト」を実施し、第二度かどうかを確認します。
無月経の放置で起こる問題
「生理が来なくてラク」と思っていても、放置は非常に危険です。
骨密度の低下(骨粗しょう症)
エストロゲンが不足すると骨量が急激に減ります。
若くても骨折リスクが高まります。
子宮萎縮や若年閉経
長期間無治療だと回復が難しくなる場合も。
不妊症
排卵が再開しない限り妊娠は困難です。
代謝異常
脂質代謝異常、心血管疾患リスクも増えます。
早期診断と治療が非常に大切です。
ホルモン補充療法
◆ カウフマン療法
●対象:エストロゲン分泌がほとんどない第二度無月経
●方法:
①エストロゲン(プレマリンなど)を10日間服用
②その後、エストロゲン+プロゲステロン(ソフィアAなど)を11日間服用
③消退出血を確認後、5日目から再開
●目的:子宮や骨への影響を予防
●副作用:不正出血、むくみ、乳房の張り、吐き気
この療法で排卵が誘発されることは少なく、妊娠を希望しない人に適しています。
◆ ホルムストローム療法
●対象:第一度無月経
●方法:プロゲステロン単独で周期的に投与し、月経様出血を起こす
●目的:子宮内膜を健康に保ち、ホルモンバランスを整える
◆ 妊娠を希望する場合
・クロミフェン(クロミッド)で排卵誘発
・ゴナドトロピン注射療法
・精神的原因があれば心理的アプローチや休養
無月経と心の問題
視床下部は「ホルモンと感情の司令塔」です。
ストレスで脳が混乱すると、月経が停止するのは珍しくありません。
失恋、引っ越し、試験などの環境変化は、自律神経やホルモンバランスを大きく乱します。
月経が止まるほどのストレスは、他の健康問題も引き起こしやすく、
・胃潰瘍
・うつ病
・不眠
・慢性疲労
などを伴うことも多いのです。
「メンタルは生理に出る」と覚えておきましょう。
無月経は身体のSOS
月経が止まるのは体の非常事態を知らせるサインです。
・食事が足りていない
・ストレスが強すぎる
・エネルギーが枯渇している
・ホルモンバランスが崩れている
「放置していてもいつか戻るだろう」と安易に考えず、3か月以上続く場合は早めに婦人科を受診しましょう。
まとめ
無月経は決して「便利な状態」ではありません。
放置すれば深刻な健康障害を招く可能性があります。
・痩せ過ぎも太り過ぎも危険
・ストレスでも簡単に止まる
・早期の診断・治療で回復しやすい
・妊娠希望の有無で治療方針が変わる
無月経に悩む方は、生活を見直すとともに、必ず専門医に相談してください。
あなたの体の声に耳を傾けることが、将来の健康と安心に繋がります。