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痛風患者に食事制限は必要ない?
公開. 更新. 投稿者:痛風/高尿酸血症.この記事は約4分24秒で読めます.
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痛風患者の食事制限と生活習慣の見直し

痛風は、血清尿酸値の慢性的な上昇(高尿酸血症)が原因で、尿酸結晶が関節に沈着し、激しい炎症や痛みを引き起こす病気です。
「贅沢病」「生活習慣病の一種」と誤解されることが多いですが、遺伝的な要因と生活習慣が複雑に関与しています。
特に近年は、食事だけでなく肥満やアルコール、糖質過多などが強く影響することがわかってきました。
痛風や高尿酸血症の患者さんが実践すべき食事制限と生活習慣の改善について勉強します。
高尿酸血症とプリン体の関係
プリン体は本当に制限すべき?
従来、痛風患者の食事療法の中心は「プリン体の厳格な制限」でした。
レバーや干物など、プリン体を多く含む食品を食べると尿酸値が上がると考えられてきたためです。
しかし最近では、尿酸の多くが体内で合成(内因性プリン体)されることがわかりました。
食事由来のプリン体は全体の2〜3割程度で、コレステロールと同様に、食事の影響は限定的だと考えられています。
ただし、食事由来のプリン体は体内であまり再利用されず、直接尿酸へと分解されます。そのため、完全に無視できるわけではありません。
痛風発作の頻度を減らすためにも、過剰摂取は控える必要があります。
食事療法の基本
プリン体摂取の目安
日本のガイドラインでは、1日のプリン体摂取量を400mg未満とすることが推奨されています。
●高プリン食(100gあたり200mg以上)
・レバー(鶏・豚・牛)
・干物(イワシ、サンマ)
・白子、アンコウの肝
・エビの干物
●中等度プリン食(100gあたり50〜200mg)
・肉類(鶏、豚、牛)
・マグロ、カツオ
・カニ
●低プリン食(100gあたり50mg未満)
・卵
・牛乳・乳製品
・野菜
・果物
特に内臓類や干物、魚卵などは制限が必要です。
食品のプリン体含有量(100gあたり) | |
---|---|
極めて多い(300mg~) | 鶏レバー、マイワシ干物、イサキ白子、あんこう肝酒蒸し |
多い(200~300mg) | 豚レバー、牛レバー、カツオ、マイワシ、大正エビ、マアジ干物、サンマ干物 |
少ない(50~100mg) | ウナギ、ワカサギ、豚ロース、豚バラ、牛肩ロース、牛タン、マトン、ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ツミレ、ほうれんそう、カリフラワー |
極めて少ない(~50mg) | コンビーフ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、焼ちくわ、さつま揚げ、カズノコ、スジコ、ウインナーソーセージ、豆腐、牛乳、チーズ、バター、鶏卵、とうもろこし、ジャガイモ、さつまいも、米飯、パン、うどん、そば、果物、キャベツ、トマト、にんじん、大根、白菜、海藻類 |
エネルギー摂取の適正化
肥満は尿酸値を上げる最大の要因の一つです。
適正体重の維持・減量が重要で、糖尿病治療と同様にカロリー制限が必要です。
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
摂取エネルギー目安=標準体重×25〜30kcal/日
急激な減量は逆に尿酸値を上昇させることがあるため、緩やかな体重減少を目標にしましょう。
果糖・ショ糖を控える
清涼飲料水や菓子類に多い果糖は、尿酸産生を促進します。
果糖は分解過程でATPを消費し、尿酸が増加するため、果糖入りのジュースや砂糖の過剰摂取を避けることが大切です。
一方、生の果物にはビタミンCが多く、尿酸排泄を促す作用があります。
果物は適量(1日1〜2個程度)なら問題ありません。
アルコールの影響
痛風とアルコールの関係は非常に深く、飲酒は血清尿酸値を上げる代表的な要因です。
アルコールは代謝の過程で乳酸を増やし、尿酸排泄を妨げるだけでなく、内因性プリン体の分解を促進します。
アルコールの種類別影響
酒類 | プリン体含有量 | 尿酸値への影響 |
---|---|---|
ビール | 多い(12〜44mg/缶) | 非常に高い |
日本酒 | 中等度 | 高い |
ワイン | 少ない | 中程度 |
焼酎・ウイスキー | ほぼなし | 中程度(エタノール自体の影響) |
注意: プリン体ゼロのビールや発泡酒でも、アルコール自体に尿酸値上昇作用があります。
1日の目安量
・日本酒:1合(180mL)
・ビール:500mL
・焼酎:0.4合
・ウイスキー:60mL
週2日は「休肝日」を設けましょう。
よくある誤解
お菓子の「プリン」にはプリン体が多い?
「プリン体」と聞くと、お菓子の「プリン」を連想する人がいますが、全く別物です。
お菓子のプリン(プディング)は牛乳と卵が主成分で、プリン体はほとんど含まれません。
卵は避けるべき?
卵は1個が1つの細胞なので、核酸が少なくプリン体含有量も非常に低いです。
むしろ良質なタンパク源として活用できます。
水分摂取の重要性
尿酸は尿中に排泄されます。
1日2,000mL以上の尿量確保を目標に、しっかり水分を摂りましょう。
水分摂取のポイント
・こまめに水を飲む(1回200〜300mL程度)
・利尿作用の強いカフェイン飲料は控えめに
・心・腎疾患のある場合は医師の指導を仰ぐ
痛風の発作を防ぐための生活指導
痛風の発作を繰り返すと関節破壊が進み、慢性の痛風関節炎に移行します。
日頃からの生活習慣の見直しが極めて重要です。
食事以外の生活習慣
・運動習慣:ウォーキングや軽い有酸素運動
・適正体重の維持:肥満解消
・ストレス管理
・十分な睡眠
短期間での極端なダイエットや、過剰な運動も尿酸値を上げることがあります。
アルコールと尿酸の代謝機序
飲酒により乳酸が増加すると、腎臓での尿酸排泄が低下します。
特にビールはエタノールとプリン体の「二重の負荷」で痛風を悪化させます。
アルコール代謝の流れ
・エタノール → アセトアルデヒド
・NADH増加
・乳酸増加 → 尿酸排泄低下
さらに、ベンズブロマロン(ユリノーム)などの尿酸排泄促進薬を服用中の患者が大量飲酒をすると、肝障害のリスクが高まります。
ビールより発泡酒や焼酎が安全?
「ビールより発泡酒のほうがプリン体が少ない」「焼酎なら安心」という声もあります。
・発泡酒:ビールよりプリン体が1/2〜1/4程度。ただしアルコール自体に問題あり。
・焼酎:蒸留酒なのでプリン体はほぼゼロ。
それでもエタノールは尿酸値を上げます。
「何を飲むかより、どれだけ飲むか」が重要です。
痛風患者におすすめの食事
積極的に摂りたい食品
・牛乳・ヨーグルト(低脂肪乳製品)
・野菜、海藻
・穀物(精製度の低いもの)
・卵
・ナッツ類(過食は注意)
控えたい食品
・内臓肉(レバー、モツ)
・干物、魚卵
・果糖を多く含む清涼飲料
・アルコール
まとめ
痛風・高尿酸血症は「贅沢病」などと軽視されがちですが、放置すると腎機能障害や動脈硬化を引き起こすこともあります。
食事療法は厳格なプリン体制限だけではなく、エネルギー摂取の適正化、アルコール制限、果糖制限、十分な水分摂取が柱です。
・プリン体は400mg/日未満
・肥満解消
・アルコールは種類を問わず控える
・果糖・糖質に注意
・水分を多めに摂る
医師・管理栄養士と相談しながら、無理のない食事療法を継続しましょう。