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新型コロナウイルスと抗ウイルス薬
公開. 更新. 投稿者:結核/肺炎.この記事は約8分58秒で読めます.
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新型コロナウイルスに抗インフルエンザ薬が効く?
新型コロナウイルス肺炎患者に対して新型インフルエンザ治療薬アビガンが2月22日に投与されたらしい。
効果が出るかどうかは行く末を見守りたいと思いますが、抗HIV薬も効くんじゃないか?ということで中国では投与されましたが、そもそも抗ウイルス薬はどのようにそれぞれのウイルスに効果を発揮しているのだろうか?
アビガンの作用機序
まず、アビガンの作用機序はRNA合成酵素にプリン(アデノシン・グアノシン)類似体として、RNA鎖に取り込まれるが、取り込まれた部位でRNA合成を停止させるChain terminator(伸長阻止薬)として、ウイルスRNA合成を阻止する。
本来は抗インフルエンザウイルス薬で、ウイルスの細胞内での遺伝子複製を防ぐことで増殖を防ぐ仕組み。
そのためインフルエンザウイルスの種類を問わず抗ウイルス作用が期待され、またインフルエンザウイルスのみならず、エボラ出血熱ウイルスやノロウイルス、ウエストナイル熱ウイルス、黄熱ウイルスなどのRNAウイルスにも効果があると考えられている。
コロナウイルスもRNAウイルスであるため、効果が期待されるという。
抗HIV薬の作用機序
抗HIV薬の作用機序としては、
①ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
②非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
③プロテアーゼ阻害剤(PI)
④インテグラーゼ阻害剤(INSTI)
⑤CCR5阻害剤
といったものがあります。
カレトラ(ロピナビル・リトナビル配合剤)はSERS(重度急性呼吸器症候群)のときに有効性が示されたことで今回も注目され、いち早く中国でこの薬の使用が開始されましたが、臨床的に改善が得られるまでの時間に差はみられなかったと報告されています。
ノイラミニダーゼ阻害薬の作用機序
タミフルやリレンザ、イナビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬は、ウイルスが宿主細胞から別の細胞へと感染を広げる際に必要となるノイラミニダーゼ (neuraminidase, NA) という酵素(糖タンパク質)を阻害することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。
ゾフルーザの作用機序
ゾフルーザは、インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(cap-dependent endonuclease)に作用します。
インフルエンザウイルス遺伝子からの転写反応を阻害することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。
従来のノイラミニダーゼ阻害剤は増殖したウイルスが細胞の中から出てくるのを抑えますが、ゾフルーザはウイルスの細胞内での増殖自体を抑制します。
抗ヘルペスウイルス薬の作用機序
ゾビラックス、バルトレックス、ファムビルといった抗ヘルペスウイルス薬は、核酸類似体と呼ばれる物質で、DNA複製に必要なDNAポリメラーゼの基質のひとつであるデオキシグアノシン三リン酸(dGTP)に競合的に拮抗することでDNAポリメラーゼ阻害作用をあらわします。
また、ウイルスDNAポリメラーゼの基質としてウイルスDNA末端に取り込まれることで、ウイルスDNA鎖の伸長を阻害する作用をあらわします。
抗ヘルペスウイルス薬の中でアメナリーフは作用機序が異なり、ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬と呼ばれ、ウイルスDNAの複製に必要な酵素複合体(ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体)の活性を阻害し、二本鎖DNAの開裂及びRNAプライマーの合成を抑えることで抗ウイルス作用をあらわします。
ヘルペスウイルスはDNAウイルスなので、抗ヘルペスウイルス薬はRNAウイルスであるコロナウイルスには効果がないと思われます。
新型コロナウイルスに効く抗ウイルス薬は?
新型コロナウイルスと同じRNAウイルスであるインフルエンザウイルス、HIVウイルス、C型肝炎ウイルスなどの薬は、効果がある可能性があります。
2020年5月2日、新型コロナウイルス感染症の治療薬候補の抗ウイルス薬「レムデシビル」を米国が認可したことを受け、厚生労働省は、海外での承認などを条件に緊急時に審査手続きを大幅に短縮できる「特例承認」を適用し、薬事承認する手続きに入ったという。
レムデシビルの作用機序
もともとレムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウイルス薬ですが、現在、他に効果的で使いやすい治療薬が登場しており、国としても正式には承認していないため、エボラ出血熱の治療には用いられていない現状です。
基本的には、アビガン同様のRNAポリメラーゼ阻害薬。
核酸塩基の類似体として、RNAウイルスに取り込まれRNA鎖の伸長を阻害することで効果を発揮します。
アビガンとレムデシビルの大きな違いとしては、投与経路です。
アビガンは内服、レムデシビルは静注です。
内服のほうが投与しやすいかな、と思いますが、重症患者においてはせき込みが激しいので、内服は投与しづらい。選択肢が増えることは喜ばしいことです。
アビガンはまだ新型コロナウイルス感染症に保険適応が無いので使いづらい面がありますが、レムデシビルが保険承認されれば中等症クラスの患者でも使われるかも。
レムデシビルの副作用として肝機能障害が懸念されています。アビガンとの構造式を比較しても複雑なので、アビガンより代謝されにくいのかなと思われます。
全てのウイルスに効く抗ウイルス薬は作れないか?
抗ウイルス薬は、抗インフルエンザウイルス薬とか、抗ヘルペスウイルス薬とか、効くウイルスがそれぞれ決まっています。
抗生物質にしても、全ての細菌に効くわけではありませんが、多くの種類の細菌に有効な抗菌薬の開発が可能です。
ウイルスは自分では増殖することが出来ず、人間の細胞を使って増殖します。
正常な細胞機能を妨げることなく、ウイルスの核酸・蛋白合成のみを阻止する。これが難しい。
抗ウイルス薬が標的としている、合成過程における宿主細胞との差や吸着・放出に関連する蛋白は各々のウイルスに特異的であり、このためウイルスの種類を問わずに有効な抗ウイルス薬の開発は困難である。
抗ウイルス薬以外の新型コロナ治療薬
オルベスコの作用機序
オルベスコはステロイド吸入剤であり、喘息やCOPDの治療に使われます。
作用機序としては、ウイルス遺伝情報を担うリポ核酸(RNA)の複製を阻害すると考えられています。
さらに肺胞上皮細胞でウイルスが増殖して肺障害を引き起こし、同時に肺胞マクロファージなどにウイルスが感染して炎症を起こすので、この薬のもつ強い抗炎症作用も有効といえます。
しかし、これは今のところオルベスコ特有の作用といわれ、他のステロイド吸入薬には同様の臨床的な効果はないとされています。その理由のひとつとして、他のステロイド吸入薬と比べて粒子が小さく、したがって、肺の奥まで届きやすいことが関係あるのではないかと考えられています。
一般論としては、ステロイドを軽度の感染者に用いると抗体ができにくくなり、かえって悪化する可能性もあります。
プラケニルの作用機序
クロロキンはもともとマラリア治療薬として存在していましたが、近年、ヒドロキシクロロキン硫酸塩として全身性エリテマトーデスなどの治療薬として再び脚光を浴びることになった薬です。
この薬は免疫調整薬とよばれているもので、細胞のリソソームのpHを上昇させ、炎症時にみられる樹状細胞の活性化を抑え、かつ抗炎症作用も持ち合わせています。
フオイパンの作用機序
フオイパン(カモスタットメシル酸塩)は1985年に膵炎治療薬として発売されたタンパク分解酵素阻害薬です。
この薬の作用は、新型コロナウイルスのヒトへの侵入経路と関係しています。
①細胞膜上にあるACE2受容体とエンベロープにあるSタンパクを介してウイルスが結合する
②細胞膜上のセリンプロテアーゼという酵素の一種のTMPRSS2を使ってヒトの細胞内に侵入する
この薬は②のTMPRSS2を阻害することで効果を発揮すると考えられています。
ストロメクトールの作用機序
ストロメクトール(イベルメクチン)は、寄生回虫の治療に用いられています。
この薬の回虫に対する作用機序は、細胞にあるグルタミン酸作動性Cl-チャネルと結合し、細胞内に流入するCl-を増やして過分極を生じさせ、寄生虫を麻痺させて死滅させるというものです。
アクテムラの作用機序
アクテムラ(トシリズマブ)は関節リウマチの治療薬として、臨床でよく用いられている生物学的製剤の注射薬です。
この薬が注目されたのは、この感染により重症化した患者にみられる「サイトカインストーム」という現象に対して有効ではないかという点です。
サイトカインストームは過剰免疫反応により生じるもので、発熱や低酸素状態などがみられた後、ショックや多臓器不全に陥るという経過をたどりますが、このプロセスに大きく関わっているのがIL-6というサイトカインです。
IL-6が過剰に産生された結果、過剰免疫反応が生じるので、IL-6を抑制する作用を有するアクテムラに注目が集まりました。
BCGワクチン
海外の論文で、日本や台湾、韓国、シンガポールなどの定期的にBCGワクチンを使用している国と、イタリアやスペイン、フランス、米国などのBCGワクチンを使用していない国との間に、感染の広がり方に大きな違いがあることから、BCGワクチンがコロナウイスルの予防になるという情報があります。
薬理学的に考察すると、BCGワクチンが結核以外の感染症に効果があるとすれば次のように考えられます。
①白血球の単球に作用して自然免疫を強化するようなゲノム変化を生じさせる
②炎症性サイトカインのIL-1Bの産生を高める
SARS(重症急性呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)
2014年に韓国でMERS(Middle East respiratory syndrome、マーズ、中東呼吸器症候群)が流行した。
2002年に流行ったSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome、サーズ、重症急性呼吸器症候群)と同じコロナウイルスという風邪を引き起こすウイルスの仲間とのこと。
コロナウイルスと聞くとライノウイルスやアデノウイルス同様、風邪を引き起こすウイルスでさほど怖いイメージは無いのですが、MERSやSARSは致死率が高く(MERS40%、SARS10%)普通の風邪ではない。
MERS | SARS | |
---|---|---|
名称 | 中東呼吸器症候群 | 重症急性呼吸器症候群 |
発生年 | 2012年~現在(2014年2月) | 2002年~2003年 |
発生地域 | アラビア半島全域 | 中国広東省 |
死亡者/感染者 | 81/186(2014年2月21日) | 774/8098 |
感染者の年齢 | 2~94歳、平均50.5歳 | 0~100歳、平均41.4歳 |
症状 | 重症:高熱、肺炎、腎炎、下痢 | 重症:高熱、肺炎、下痢 |
重症者の特徴 | 糖尿病、心臓病、高齢者 | 糖尿病、心臓病、高齢者 |
伝播の特徴 | 不明(発生が散発的) | 人から人への感染 |
潜伏期間 | 2~15日 | 1~10日 |
自然宿主 | コウモリ、ヒトコブラクダ | キクガシラコウモリ |
ヒト-ヒト感染 | 1人→数人(濃厚接触のみ) | 1人→十数人(不特定多数) |
似ている点。
どちらも重症の肺炎を引き起こすことで似ている。
心臓病や糖尿病などの基礎疾患を持っている人で重症化し、子供は軽症。
もともとコウモリのウイルスといわれる点も似ている。
似ていない点。
SARSは一人の感染者から十数人に感染を広げるスーパースプレッダーを介して、持続的に人から人へ感染が広がったのに対し、MERSは時間をあけて別々の地域で散発的に患者が見つかっている。
SARSが流行した期間は2002年の11月から翌年の7月ごろであり、約半年の間に急速にピークを迎えて消えていったのに対し、MERSでは1年以上少数の感染者が見つかり続けている。
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