2025年11月28日更新.2,672記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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食欲が出る薬はある?ペリアクチン・ドグマチール・六君子湯・リバスタッチの作用

食欲が出ないとき、薬が助けになることもある

薬剤師

病気の人は食欲が出た方がいいよね

体調を崩したり、精神的に落ち込んでいるとき、食欲がわかないということがあります。
「食べたいのに食べられない」という状態が続くと、体力・免疫力が低下し、回復にも時間がかかります。

そんなとき、薬が食欲をサポートしてくれる場合があります。
もともと別の目的で使われている薬の中に、「食欲を出す副作用」を持つものがあるのです。

ペリアクチン(抗ヒスタミン薬)、ドグマチール(精神安定薬)、六君子湯(漢方薬)、
そしてリバスタッチ(認知症治療薬)などを例に、
食欲に関係するホルモンと薬の作用機序を勉強していきます。

食欲を司るホルモン:レプチンとグレリン

食欲は「意思の力」ではなく、ホルモンによってコントロールされています。
特に重要なのが次の2つです。

ホルモンと主な働き
・レプチン:脂肪細胞 食欲抑制ホルモン。「もう食べなくていい」という信号を出す。
・グレリン:胃 食欲増進ホルモン。「お腹が空いた」という信号を出す。

この2つのバランスによって、私たちは「食べたい」「もういらない」を感じています。

ペリアクチン(シプロヘプタジン):抗ヒスタミン作用で食欲が出る

本来の使い方と副作用としての「食欲亢進」
ペリアクチン(シプロヘプタジン)は、第一世代の抗ヒスタミン薬です。
かつては「食欲不振・体重減少の改善」という効能も記載されていましたが、
1996年に有効性の根拠が不十分として削除されました。

それでも、臨床現場や動物医療では今なお「食欲刺激剤」として使われることがあります。

食欲増進のメカニズム
ペリアクチンの食欲増進作用は、主に次の2つの受容体への作用によります。

・ヒスタミンH1受容体遮断
ヒスタミンは脳内で食欲を抑制する作用を持っています。
これをブロックすることで「食事をやめる信号」が伝わりにくくなります。

・セロトニン2C受容体遮断
セロトニンは満腹感を司る神経伝達物質。
この受容体を遮断すると、満腹感が弱まり、食べたくなる傾向が生じます。

さらに、グレリン分泌の促進作用も指摘されており、
結果として食欲増進・体重増加が副作用として現れます。

現在の位置づけ
・現在はアレルギー疾患に使用される薬であり、食欲増進目的の使用は「適応外」。
・小児や高齢者では眠気・倦怠感などの副作用に注意。
・第二世代抗ヒスタミン薬(アレグラ®、クラリチン®など)ではこの作用はほとんどない。

ドグマチール(スルピリド):胃腸の動きを整え、自然な食欲回復へ

ドグマチール(スルピリド)は、ベンズアミド系の精神安定薬。
うつ病や神経性胃炎に使われる薬で、少量では消化管運動改善・食欲増進作用を示します。

作用機序
・ドパミンD2受容体遮断により、抗うつ・抗不安効果。
・胃粘膜血流増加、胃排出促進で消化が良くなる。
・中枢性制吐作用で吐き気を抑える。

これらの結果として、食べたい気持ちが戻るという臨床効果が得られます。

注意点
・食欲増進は歓迎される一方で、肥満の副作用が出ることもある。
・長期使用では高プロラクチン血症(乳汁分泌、月経異常)に注意。
・「意欲回復→食欲回復」という間接的効果も大きい。

六君子湯(りっくんしとう):グレリンを活性化する漢方薬

六君子湯は、胃腸虚弱や食欲不振によく使われる漢方薬です。
構成生薬(人参・白朮・茯苓・甘草・半夏・陳皮)が、胃腸機能を整え、気を補います。

グレリンとの関係
近年の研究で、六君子湯がグレリンの分泌を促進・作用を増強することが明らかになっています。
具体的には、陳皮・人参・生姜などに含まれるフラボノイド類が、
セロトニン5-HT2Bおよび5-HT2C受容体を阻害し、グレリン分泌を高めるとされています。

さらに、グレリン受容体(GHS-R)シグナルの増強や、グレリン代謝阻害作用も報告されており、
総合的に「お腹が空く感覚」を取り戻す方向に働くと考えられています。

リバスタッチ(リバスチグミン):認知症治療薬が食欲を改善?

リバスチグミンとは
リバスチグミン(製品名:リバスタッチ®、イクセロン®)は、
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に使用されるコリンエステラーゼ阻害薬です。

主な作用は、脳内のアセチルコリン分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ、ブチリルコリンエステラーゼ)を阻害し、
神経伝達を活性化して認知機能の低下を抑えることです。

食欲への意外な影響
リバスチグミンは、ブチリルコリンエステラーゼを阻害することで、
グレリンの分解を抑制し、血中グレリン濃度を上昇させる可能性が指摘されています。

これにより、
・グレリンによる摂食中枢刺激
・シナプス密度増加、長期増強(LTP)促進
・記憶力や意欲の改善
といった神経作用を介して、食欲の改善につながる可能性があります。

実際、アルツハイマー型認知症の患者ではグレリンが低下しており、
リバスチグミンによって認知機能とともに食欲も改善したという報告があります。

同じ「食欲亢進」でも薬によってメカニズムは違う

食欲増進の主な機序
・ペリアクチン: 抗ヒスタミン・抗セロトニン作用による摂食抑制解除
・ドグマチール: 胃運動促進・交感神経抑制による食欲亢進
・六君子湯: グレリン分泌促進・作用増強
・リバスタッチ: グレリン分解抑制による血中濃度上昇
・オランザピン(ジプレキサ): 5-HT2C・H1受容体遮断でグレリン分泌促進
・メトクロプラミド/ナウゼリン: 抗ドパミン作用による胃運動促進

このように、「食欲が出る」といっても、薬によってメカニズムは多彩です。
グレリン・セロトニン・ドパミンなど、異なる神経経路を介して同じ結果(食欲亢進)が生じているのです。

胃を全摘したら食欲がなくなるのはなぜ?

胃を全摘出した患者では、「お腹が空かない」と訴えることがあります。
これは、胃から分泌されるグレリンが減少するためです。
グレリンが脳に届かなくなると、空腹感や食欲の感覚そのものが弱くなります。

つまり、「胃がなくなる=グレリンが出ない=空腹を感じない」という生理的反応です。
六君子湯やリバスチグミンのようにグレリンを補う方向に働く薬は、こうした患者のQOL改善に役立つ可能性があります。

まとめ:食欲を出す薬はホルモンのスイッチを操作する

「食欲を出す薬」というと特別なものに思えますが、
多くは脳や消化管ホルモンに作用して、生理的な摂食シグナルを整える薬です。

・抗ヒスタミン薬(ペリアクチン):H1/5-HT2C遮断による摂食抑制解除
・精神安定薬(ドグマチール):胃運動促進・抗不安作用
・漢方薬(六君子湯):グレリン分泌促進
・認知症治療薬(リバスタッチ):グレリン分解抑制

おわりに

食欲は「生きる力」と直結しています。
薬で無理に食べさせるというよりも、食べたいという自然な欲求を取り戻すことが理想です。

ペリアクチンやドグマチール、六君子湯、そしてリバスチグミンのように、
さまざまな経路からグレリンを中心とした摂食シグナルにアプローチする薬が存在します。

食欲不振の背景には、身体・心・ホルモンの複雑な関係があるため、
薬剤選択は医師・薬剤師の判断が不可欠です。

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