2025年5月31日更新.2,483記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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SSRIとスルピリドの併用目的

SSRIとドグマチール(スルピリド)の併用

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:SSRI)は、現代の抗うつ治療において主軸を占める薬剤群です。パロキセチン(パキシル)、フルボキサミン(ルボックス)、セルトラリン(ジェイゾロフト)などのSSRIは、その有効性と安全性から多くの患者に投与されています。

一方、SSRIの初期投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐、下痢、食欲不振など)は、治療中断の原因となることもしばしばです。こうした中、近年ではSSRIの副作用軽減を目的として、消化管にも作用を持つスルピリド(ドグマチール)との併用が一定数見られるようになってきました。

SSRIの副作用軽減にスルピリドを併用する目的とは?

スルピリド(ドグマチール)は、ドパミンD₂受容体遮断作用を有する抗精神病薬ですが、低用量ではむしろ抗うつ作用を示し、さらに胃潰瘍・十二指腸潰瘍に対する適応も有しています。この消化器作用に着目し、SSRIの初期に見られる胃腸障害(特に悪心・嘔吐)を軽減するためにスルピリドが処方されるケースが存在します。

臨床医の間では、SSRIとスルピリドを併用することで「消化器症状によるドロップアウト(治療離脱)が明らかに減った」という私見が語られることもあり、その効果は一定の臨床的実感に基づいています。

ただしスルピリド自体も、高プロラクチン血症や錐体外路症状などの副作用を持つ薬剤であり、「SSRIの副作用軽減のためのスルピリド併用」という処方意図には、慎重な判断が求められます。

SSRIによる消化器症状はなぜ起こるのか?

SSRIは脳内のセロトニン濃度を高めることで抗うつ効果を発揮しますが、セロトニンは実は中枢神経系よりも消化管に多く存在しており、消化器系の機能に深く関与しています。

SSRIが投与されると、脳内だけでなく消化管の神経系においてもセロトニン濃度が急激に上昇します。このため、次のような症状が現れやすくなるのです。

・悪心・嘔吐
・腹痛・下痢
・食欲不振

セロトニン3受容体(5-HT₃)が関与

こうした症状に深く関与しているのがセロトニン3受容体(5-HT₃)です。この受容体は、消化管の求心性迷走神経や延髄の嘔吐中枢に存在し、刺激を受けると嘔吐反射が誘発されます。

SSRIによるセロトニンの過剰増加は、この受容体を刺激し、悪心や嘔吐を引き起こすと考えられています。

なぜ「2週間でおさまる」のか?:
SSRIによる消化器症状は、投与初期に強く現れますが、多くの患者で2週間程度で自然に軽快する傾向があります。

これは、消化管のセロトニン受容体の刺激に対して、生体側が適応し、代謝や受容体感受性が安定するためと考えられています。初期の不快症状が長期的な問題につながることは少なく、「最初の2週間をどう乗り越えるか」が継続的な治療の鍵となります。

SSRIの吐き気を軽減する他の戦略

〇制吐剤(例:ドンペリドン、メトクロプラミド)
SSRIによる吐き気が強い場合、一時的に制吐剤を併用することも一般的です。ドンペリドンやメトクロプラミドは、消化管運動の促進と嘔吐抑制に有効です。

ただし、これらの薬剤もドパミン遮断作用を持つため、スルピリドと同様に副作用(高プロラクチン血症、錐体外路症状)には注意が必要です。

〇ミルタザピン(テトラミド)、ミアンセリン
ミルタザピン(リフレックス、テトラミド)やミアンセリン(テトラミン)といったNaSSA系抗うつ薬には、5-HT₃受容体遮断作用が認められています。

これにより、SSRIに起因する悪心・嘔吐・性機能障害の軽減が期待されるため、「パキシルで吐き気が出る場合は、ミルタザピンの追加で改善した」といった報告も見られます。

スルピリドの副作用リスクにも注意

スルピリドは、ドパミンD₂受容体を遮断することで抗精神病作用を示しますが、低用量ではむしろ前頭葉におけるドパミン機能を高め、抗うつ作用を発揮するとされています。

しかし、以下の副作用には注意が必要です。
・高プロラクチン血症:乳汁分泌、月経異常、性欲低下など
・錐体外路症状:アカシジア、パーキンソン症候群
・体重増加:長期使用での代謝への影響も

SSRI単剤で消化器症状をコントロールできるなら、それに越したことはなく、スルピリドの併用は「補助的な対応」として位置づけるべきでしょう。

SSRIとスルピリドの併用は「使い方次第」

SSRIの治療において、初期の消化器症状は無視できない問題です。その症状の緩和を目的としてスルピリド(ドグマチール)を併用するという選択は、現場で一定の支持を得ています。

しかし、スルピリドの副作用もまた無視できず、本来は短期間・低用量での限定的使用が望ましい薬剤です。

臨床現場では、「SSRIによる副作用は一時的なものであり、2週間ほどで落ち着く」という説明と、必要に応じた対処(制吐剤やミルタザピンの併用)を行うことで、ドロップアウトを減らし、患者の服薬継続を支援することが第一の目標となります。

スルピリドはそのための1つの手段であり万能薬ではないことを、薬剤師としてもしっかり理解しておきたいところです。

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