2025年6月7日更新.2,491記事.

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浸煎薬と湯薬の違いは?

浸煎薬と湯薬の違いは?

漢方薬といえば、ツムラなどのエキス製剤を思い浮かべる方が多いでしょう。忙しい現代医療の現場では、湯煎や煎じをせずに手軽に飲めるエキス製剤が主流になっています。

しかし、漢方の原点に目を向けると、古くから用いられてきた“湯薬”や“浸煎薬”という伝統的な製剤形態が存在します。これらは、生薬の力を最大限に引き出すための工夫と知恵が詰まったものです。

そもそも漢方薬とは?

漢方薬とは、中国医学を基盤としながら日本独自の発展を遂げた伝統医学の一形態です。主に複数の生薬を組み合わせた処方により、個人の体質や病態に応じて治療を行います。

医療用ではエキス製剤(例:ツムラ、クラシエ)が圧倒的に多く処方されますが、調剤薬局や漢方薬局では、今なお「湯薬」や「浸煎薬」が使われることもあります。

湯薬とは?

「湯薬(とうやく)」とは、煎じて服用する薬のことです。煎じ薬とも呼ばれます。

● 湯薬の定義
複数の生薬(粗切・中切・細切)を患者ごとに調合し、煎じ薬として一日分ずつ分包したものを指します。患者が自宅で煎じて服用するのが特徴です。

● 湯薬の調製と服用方法
湯薬は、通常以下のような手順で服用されます:
・分包された生薬(1日分)を約500~600mLの水に浸ける
・約30~60分間、土瓶や耐熱容器で弱火で煎じる
・煎じ終わった液(約200mL程度)を2~3回に分けて服用する

● 湯薬の特徴
・体質や症状にあわせてオーダーメイドできる
・香りや味がしっかりと感じられ、薬効の実感も得やすい
・ただし、手間と時間がかかるため、継続服用はハードルが高い

浸煎薬とは?

浸煎薬(しんせんやく)は、一見湯薬に似ていますが、製法や形状が異なります。

● 浸煎薬の定義
「生薬を水または蒸留水に浸し、一定時間加熱・抽出して液体状にしたもの」。医療機関や薬局であらかじめ液剤として調製された形で提供されるため、煎じる手間はありません。

この浸煎薬には、さらに「浸剤」と「煎剤」に分類されます。

浸剤と煎剤の違い

分類抽出方法ろ過のタイミング調整水特徴
浸剤熱蒸留水を加えて加熱冷却後に布ごし熱蒸留水成分が熱に弱い生薬向き
煎剤蒸留水を加えて加熱温かいうちに布ごし蒸留水一般的な浸煎薬の形態

このように、抽出温度やろ過のタイミングの違いによって、得られる成分や風味にも差が出るのが特徴です。

湯薬と浸煎薬の比較表

項目湯薬浸煎薬
主な使用者患者が煎じて飲む医療機関が調製して提供
調製方法生薬を煮出す生薬を水に浸して加熱抽出
保存性煎じた液は冷蔵で1~2日比較的長く保存可能(冷蔵)
利便性手間がかかる飲むだけで簡便
効能の個別化高い製剤次第で個別対応可
風味・香り生きている若干マイルドになる場合も

〇浸煎薬は何日分処方される?:
保険診療の範囲内で処方されることは少ないですが、自費で漢方薬局などで購入される際は、3日~7日分程度が一般的です。体質改善目的であれば、1~2週間分をまとめて処方されるケースもあります。

〇エキス製剤との違いは?

製剤形態生薬成分の含有量香り・風味保存性飲みやすさ
エキス製剤安定して少なめ少ない高い(粉末)高い
湯薬多く抽出できる強い煎じ後は日持ちしない低い
浸煎薬湯薬より安定性あり中程度中程度(冷蔵可)中程度

湯薬や浸煎薬は、エキス製剤では得られにくい生薬の芳香成分や揮発性成分まで摂取できる点で優れているとされます。

なぜ浸煎薬や湯薬が今も使われるのか?

・西洋薬で改善しづらい症状に対し、より個別性の高い治療ができる
・精神的・体質的な不調に漢方が合いやすい
・生薬本来の風味が「治療している感」を高めることもある

とはいえ、患者のライフスタイルに合わせた選択が大切です。毎日の煎じが負担になる人には、エキス製剤や浸煎薬のほうが継続しやすいでしょう。

「浸煎薬」と「湯薬」はどちらも、漢方薬の伝統的な形態ですが、

・湯薬は“自宅で煎じる”漢方薬
・浸煎薬は“あらかじめ液体化された”漢方薬

という違いがあります。さらに浸煎薬の中にも、「浸剤」と「煎剤」という細かな製法の差があり、漢方の世界がいかに緻密で奥深いかがわかります。

エキス製剤ばかりが注目されがちな現代ですが、原点に立ち返ることで、漢方薬の魅力や可能性が改めて見えてくるかもしれません。

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