記事
ラキソベロン1回1本?ラキソベロンの最大用量
公開. 更新. 投稿者:便秘/痔.この記事は約4分40秒で読めます.
10,295 ビュー. カテゴリ:目次
ラキソベロンを1回で1本使う?

便秘治療に広く用いられている下剤のひとつに、ラキソベロン®液(一般名:ピコスルファートナトリウム水和物)があります。小さな容器に入った透明な液体で、滴下して用量を調整できるのが特徴です。
通常は「1日1回10~15滴」として使われますが、中には「20滴以上使っている」「1回で1本(10mL)を飲む人もいる」といった話を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
「ラキソベロンを1回で1本使うなんて大丈夫なの?」
「20滴、30滴くらいなら許されるの?」
ラキソベロンの用量設定の根拠、実際の臨床での使われ方、過量使用のリスクについて勉強していきます。
ラキソベロンとは?
有効成分と作用機序
・有効成分:ピコスルファートナトリウム水和物
・分類:大腸刺激性下剤(ジフェニルメタン系)
・作用機序:大腸内の細菌叢が分泌するアリルスルファターゼにより活性体(ジフェノール体)へ変換され、大腸粘膜を刺激 → 蠕動運動を亢進 → 排便を促す
特徴
・小容量で効果が得られる
・効果発現は投与後6〜12時間程度
・液剤であるため滴下単位で細かく用量調整できる
添付文書に記載されている用量
通常、成人に対しては以下のように定められています。
便秘症の場合:
成人 1日1回 10~15滴(0.67~1.0mL)を経口投与
つまり、1回あたり最大でも15滴(約1.0mL)が添付文書上の標準的な上限量とされています。
実際に聞く「1回20滴、30滴」「1本まるごと」の使用
20滴、30滴まで増量するケース
現場では「15滴で効かないので、20滴くらいまで増やしている」という話は珍しくありません。医師も「患者さんによってはある程度増量してよい」と判断するケースがあります。
1本まるごと(10mL)使うケース
1本10mLは、およそ200滴分に相当します。通常用量の10〜20倍以上です。
これは明らかに過量であり、便秘治療において日常的に行うことはありません。
ではなぜ「1本」という使い方が存在するのでしょうか?
大腸検査前処置における大量投与
ラキソベロンの用量にはもうひとつの用法があります。
・大腸X線検査・大腸内視鏡検査前処置
成人:検査予定の10~15時間前に20mLを経口投与
ここでは便秘治療ではなく、腸管洗浄を目的とした大量投与が行われます。
この場合、ラキソベロン2本分(20mL)が一度に使用されることになります。
つまり「1本まるごと使う」という話は、便秘治療というよりも検査前処置の用量が誤って一般使用と混同されている可能性が高いのです。
過量投与のリスク
ラキソベロンを過量に使用した場合、以下のリスクが考えられます。
・下痢:強力な蠕動亢進による水様便
・腹痛・腹部けいれん:粘膜刺激が過剰になる
・脱水・電解質異常:特に高齢者では低カリウム血症を引き起こしやすい
・薬物耐性(効きにくくなる):連用によって腸の感受性が低下
一時的に使用する場合でも、安全性は担保されないため、患者自身の判断で「たくさん飲めば効くだろう」と考えるのは非常に危険です。
臨床現場での使い分け
便秘治療
・基本は10〜15滴
・効果不十分なら20滴程度まで増量することもあるが、必ず医師の指示下で行う
大腸検査前処置
・20mL(ラキソベロン2本分)を使用
・下剤や腸管洗浄剤(ニフレック®、モビプレップ®など)と併用されることが多い
他の下剤との違い
・酸化マグネシウム:浸透圧性下剤。水分を腸管内に引き込み、便を柔らかくする。比較的安全。
・センノシド(プルゼニド®):大腸刺激性下剤。ラキソベロンと同じ作用機序。
・ポリエチレングリコール製剤:大腸検査前処置で大量に使用。
ラキソベロンは「滴数で微調整できる大腸刺激性下剤」として、特に高齢者や小児の便秘治療でよく用いられます。
薬剤師としての患者指導ポイント
患者から「ラキソベロンを1回で1本使ってもいいですか?」と聞かれた場合、以下のように説明することが適切です。
・「通常は10〜15滴が1日の標準用量です」
・「20滴以上使う場合は必ず医師に相談してください」
・「1本(10mL)まるごとは便秘治療の用量を大きく超えています」
・「大腸検査前処置など特別な場合にだけ、医師の管理下で大量に使うことがあります」
・「自己判断で増量すると、下痢や電解質異常などのリスクがあります」
まとめ
・ラキソベロンの通常用量は 成人で10~15滴
・効果不十分な場合でも、せいぜい20滴程度までが臨床で許容される範囲
・1本(10mL=200滴)を便秘治療で使うのは過量投与であり、危険
・「1本」という使い方は、大腸検査前処置(20mL使用)と混同されている可能性がある
・増量する場合は必ず医師の指示を受け、自己判断で使わないことが重要
ラキソベロンは扱いやすく効果的な下剤ですが、その安全性は「適切な用量で使用すること」が前提です。薬剤師としては、患者さんが安易に過量使用しないよう指導を行い、正しい知識を伝えていくことが求められます。