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透析のかゆみと普通のかゆみの違いは?
公開. 更新. 投稿者:腎臓病/透析.この記事は約7分30秒で読めます.
3,309 ビュー. カテゴリ:かゆみの発症機序
透析のかゆみに普通のかゆみ止めじゃ効かないの?
皮膚疾患のかゆみの多くは、アレルギーや炎症に伴ってマスト細胞などから遊離されるケミカルメディエーターが、感覚神経の自由神経終末に作用して発現し、脊髄を経て視床から大脳皮質に達してかゆみとして知覚されます(末梢性のかゆみ)。
かゆみを起こす末梢性のメディエーターとしては、最も知られているヒスタミンのほかに、トリプターゼなどの蛋白分解酵素、サブスタンスPなどの神経ペプチドや、アラキドン酸代謝物、サイトカインなどが挙げられます。
皮膚疾患に伴うかゆみ以外に、肝・腎・内分泌・代謝・神経疾患や悪性腫瘍・薬剤・心因により生じるかゆみの存在が知られています。
起痒物質が産生されて皮膚で作用したり、かゆみを伝達する神経系に影響を与えることにより、かゆみの発現や増強に関与すると推測されています。
また脳腫瘍や多発性硬化症などの中枢神経系の疾患にかゆみが併発したり、手術後の鎮痛のために、モルヒネなどのオピオイドμ受容体作動薬が、硬膜外腔やクモ膜下腔に投与されたときの副作用としてかゆみが生じることがあり、中枢性のかゆみとして知られいます。
透析や肝硬変のかゆみ
慢性腎不全に対する血液透析や、肝硬変、胆道閉塞性疾患(とくに原発性胆汁性肝硬変)では、強いかゆみが不眠やうつ状態を引き起こし、生命予後にも影響する場合があり、その治療は重要な課題です。
原因として想定される複数の因子に対してさまざまな治療が試みられていますが、難治性皮膚疾患のかゆみを抑える一般的な治療が奏効しないこともしばしば経験されます。
これらの疾患で、血中の内因性μオピオイドペプチドの濃度が上昇し、かゆみの程度と相関し、ナロキソンやナルトレキソンといったオピオイドμ受容体拮抗薬によりかゆみが軽減したとする報告が散見され、中枢性のかゆみの関与が示唆されています。
オピオイドのサブタイプのなかのκオピオイド系は、かゆみに対してはμオピオイド系の作用に拮抗し、かゆみを抑制することから、κオピオイド受容体作動薬のナルフラフィン(レミッチ)が血液透析患者の難治性の掻痒症の治療薬(止痒薬)として発売されました。
レミッチ
透析患者の60~90%に皮膚掻痒感がみられます。
2009年にオピオイドκ受容体選択的作動薬のナルフラフィン塩酸塩(レミッチ)が発売。
オピオイオドのμ、κ、δ受容体は、μが痒みを増強し、κは抑制します。
当初、がん性疼痛治療薬として開発されましたが、用量を減らして方向転換しました。
適応は血液透析患者の掻痒症の改善。
抗ヒスタミン薬が効きにくい痒みにも効果があります。
レミッチはかゆみ止め?
透析患者のかゆみどめでレミッチという薬があります。
通常使われるかゆみ止めとしては、抗ヒスタミン薬が多いですが、レミッチの作用機序は、オピオイドκ受容体の作動薬です。
オピオイドと聞くと麻薬を思い浮かべます。
モルヒネなどの麻薬はオピオイドμ受容体に主に働く。ちなみにμ(M)はモルヒネの頭文字。
オピオイドペプチド類は一般的には痛みを抑制することで知られていますが、かゆみに関してβエンドルフィンなどのμオピオイドは増強し、κオピオイドは抑制することが、 ナロキソン(μ拮抗薬)やナルブフィン(κ活性薬)を使った例にて示されています。
透析患者では、血漿中のβ-エンドルフィンを作動させる内因性オピオイドの濃度が高く、かゆみの強い患者ほど血漿中のβ-エンドルフィン濃度が高いことから、血液透析患者のかゆみ発現には、μ受容体の活性化が関与していることが示唆されている。
ナルフラフィン塩酸塩(レミッチ)は、選択的にκ受容体を活性化し、かゆみを抑制するとされて透析患者に数多く使用されている。
かゆみに効くなら、透析患者だけじゃなくて、アトピーとかにも使えるんじゃないのか?と思います。
かゆみには、中枢性のかゆみと末梢性のかゆみがあり、中枢性のかゆみにはオピオイドが関与し、末梢性のかゆみにはヒスタミン等が関与するようだ。
アトピーなどのかゆみは抗ヒスタミン薬が効果的なこともあり、一般的には末梢性のかゆみと定義される。
しかし、難治性のアトピーなどは中枢性の要素が強く関与している可能性もあり、オピオイド受容体作動薬であるレミッチが効く可能性もあるだろう。
しかしレミッチの薬価は、1カプセル1795円(2015.12現在)と高額なため、安易に処方できる薬ではないので、アトピーなどのかゆみに処方されるケースは少ないだろう。
レミッチはオピオイド受容体に働く痒み止めです。
レミッチOD錠2.5μg 1錠
1日1回夕食後 30日分
末梢性のかゆみと中枢性のかゆみ
かゆみには末梢性かゆみと中枢性かゆみがある。
末梢性かゆみは表皮真皮境界部に分布している神経線維(C-線維)がヒスタミンなどの種々の刺激により活性化されて生じるかゆみである。
一方、中枢性かゆみはモルヒネなどのオピオイドが関与するかゆみである。
末梢性かゆみの多くは抗ヒスタミン薬により抑制されるが、中枢性かゆみには抗ヒスタミン薬があまり効かない難治性のかゆみである。
第2世代抗ヒスタミン薬の薬理作用は、ヒスタミンH1受容体拮抗作用と細胞膜安定化作用が主たる機能で、その他薬剤によりサブスタンスP遊離抑制作用や好酸球遊走抑制作用、細胞接着因子発現抑制作用などの機能を有している。
これら薬理作用以外のメカニズムでかゆみが生じている場合には抗ヒスタミン薬は作用しないことになる。
かゆみの原因はヒスタミンだけではない
難治性かゆみを呈する疾患には腎不全、尿毒症などの腎疾患、腎不全に伴う血液透析疾患、胆汁うっ滞性肝硬変、黄疸などの肝疾患、乾癬、結節性痒疹、アミロイド苔鱗、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患などがあり、これら疾患のかゆみの原因として、①ヒスタミン以外の起痒物質(蛋白分解酵素、サイトカイン、好酸球因子など)がかゆみを起こしている場合、②ヒスタミンH4レセプターがかゆみ誘発に関与している場合、③表皮内神経線維が外部刺激により直接活性化される場合、④オピオイドがかゆみを起こしている場合、などがある。
蕁麻疹のかゆみの多くはヒスタミンにより惹起されているので、抗ヒスタミン薬が奏効する。
しかし、アトピー性皮膚炎に伴うかゆみは、多様なかゆみ発現メカニズムが関与しているために、抗ヒスタミン薬だけでは抑制することはできない。
透析患者と皮膚疾患
透析患者の皮膚疾患としては乾燥性皮膚、痒み、色素沈着および爪の異常などが高頻度で認められます。
透析患者に発生する皮膚疾患の種類と頻度は多種多様ですが、乾燥性皮膚が90.9%で最も多く、次いで色素沈着、痒みおよび爪の異常が多く認められています。
これらの皮膚症状は老人性乾皮症における変化とほぼ同様であり、透析患者では老化に近い皮膚変化が生じていると考えられています。
透析患者の皮膚を健常者と比べた結果では、角層水分量は透析患者では健常者に対して有意に少ないことが認められています。
また、皮膚表面脂質量および皮膚表面pH値についても透析患者は健常者と比べて、皮膚表面脂質量は1/4程度と少なく、pHも年齢を合わせて比較しても健常者の4.82と比べて透析患者は5.76とアルカリ側に偏っていることがわかっています。
このように、透析患者では皮膚乾燥の改善を目的としたスキンケアが重要です。
透析患者は痒い
透析患者における痒みは一般に60~80%に認められ、その半数が全身性かつ持続性です。
これらの痒みは慢性腎不全でも認められますが、透析を受けると増悪することが多くみられます。
これは透析膜および透析機器と血液との接触によりアレルギー反応がおこり、痒みの因子が発生するためです。
痒みの因子は活性化された白血球からのサイトカイン産生、補体の直接的な活性化などと考えられています。
これら以外の血中の起痒因子としては透析で除去されない中分子量物質または低分子量蛋白、リン・カルシウムなどの無機物質およびヒスタミン遊離促進物質などがあります。
中分子量物質ではハイパフォーマンス膜により除去され、リン・カルシウムでは補正により痒みが軽減されることもあります。
起痒因子は皮膚のマスト細胞に作用することにより、ヒスタミンやサブスタンスPなどの痒みのメディエーターを産生します。
ヒスタミンはH1受容体に作用し、痒みを引き起こします。
抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬はH1受容体やマスト細胞からのメディエーター産生を阻止することにより、痒みを抑えます。
透析患者のかゆみにウレパールは有効?
皮膚の表皮の最外層は角層といわれ、透析患者は角層の水分量が正常者の1/8まで著しく減少し乾燥しており、水分含有に必要なアミノ酸も減少している。
皮膚の乾燥は外的刺激に対するかゆみの感受性を亢進させる。
そのため、ウレパールなどの保湿薬はかゆみを抑制する。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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