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アレルギーは「清潔すぎ」が原因?衛生仮説と旧友仮説
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約3分37秒で読めます.
120 ビュー. カテゴリ:衛生仮説

近年、花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー疾患が増加している背景には、「衛生仮説」や「旧友仮説」と呼ばれる免疫学的な仮説が関係していると言われています。
衛生仮説は、1989年にイギリスの疫学者デイヴィッド・ストラカンが提唱した考え方で、「幼少期に感染症への曝露が少ないほど、アレルギー疾患のリスクが高まる」というものです。兄弟が多い家庭ではアレルギーが少なかったことから、「清潔すぎる環境」が免疫の健全な発達を妨げているのではないかとされました。
この考え方は、Th1/Th2バランスという免疫の仕組みとも結びつきます。Th1細胞は細菌やウイルスなどの外敵に対して働く免疫細胞で、Th2細胞はアレルギー反応に関与するIgE抗体の産生を促します。幼少期にTh1の刺激が少ないと、Th2優位となりアレルギー体質になりやすくなると考えられています。
旧友仮説─衛生仮説の進化形
旧友仮説(Old Friends Hypothesis)は、衛生仮説をさらに発展させたもので、「人類が進化の過程で共生してきた微生物や寄生虫(=旧友)が現代の清潔な環境では失われ、それが免疫調節異常につながっている」という考えです。
たとえば、寄生虫に感染している人は、IgEが高値でもアレルギー症状を起こしにくいことがあります。これは、IgEが寄生虫に反応して肥満細胞を“占有”しており、花粉やダニに対して反応しにくくなるという仮説です。ただし、意図的に寄生虫を取り入れるのは危険であり、あくまで理論上の話です。
抗菌薬とアレルギーの関係
近年注目されているのが、乳幼児期の抗菌薬(抗生物質)使用がアレルギー発症リスクを高めるという研究です。抗菌薬の使用により、腸内細菌叢(腸内フローラ)の多様性が損なわれると、免疫系への適切な刺激が不足し、アレルギー性疾患の発症リスクが上がると考えられています。
実際、抗菌薬はTh1応答の原因となる細菌を排除してしまうため、Th2優位の体質になりやすくなる可能性があります。
腸内環境とアレルギー
腸内細菌は、免疫の発達に重要な役割を果たします。特に乳児期に整った腸内フローラは、過剰な免疫反応(=アレルギー)を防ぐ「免疫寛容」の獲得に関与します。
食生活の欧米化や抗生物質の乱用は、日本人本来の腸内細菌バランスを乱し、アレルギー体質を助長していると指摘されています。
日常生活とアレルギー「清潔すぎ」のリスク?
「布団を叩くとアレルギーになる?」「スリッパを舐めても大丈夫?」といった疑問は、衛生仮説と関係があります。極端に清潔な環境では、微生物への曝露が少なくなり、免疫が“経験”を積めず、過剰反応しやすくなるというのです。
布団を毎日叩いたり干しすぎたりすると、ダニの死骸や糞が細かくなってアレルゲンとなることもあります。干すのは適度に、仕上げは掃除機で吸引するのがよいとされています。
「免疫が強い=アレルギー体質」ではない
アレルギーは「免疫力が高いから」起こるわけではありません。むしろ、免疫システムのバランスが乱れて“暴走”している状態です。実際、アレルギー体質の人は風邪にかかりやすいこともあります。
アレルギーの増加は、清潔すぎる生活、抗菌薬の乱用、腸内細菌の変化など、現代のライフスタイルと深く関係している可能性があります。
「衛生仮説」「旧友仮説」は、私たちが自然との接点を失いすぎてしまったことへの警鐘ともいえるでしょう。全てを除菌するよりも、「適度な汚れ」や「共生する微生物」との付き合い方を見直すことが、アレルギー予防のヒントになるかもしれません。