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医師は疑義照会に答える義務はない?
公開. 更新. 投稿者:調剤/調剤過誤.この記事は約3分55秒で読めます.
4,792 ビュー. カテゴリ:薬剤師の義務と医師の義務
疑義照会って緊張するよね
薬剤師は処方せんに疑義が生じた場合に、処方医に対して照会する義務があります。これは、薬剤師法第24条に以下のように記載されているからです。
第24条 薬剤師は,処方せん中に疑わしい点があるときは,その処方せんを交付した医師,歯科医師又は獣医師に問い合わせて,その疑わしい点を確かめた後で なければ,これによつて調剤してはならない。
疑義照会しなければ違法となる。
対して医師には、医師法には、疑義照会に応える義務は記載されておらず、「保険医療機関及び保健医療養担当規則」の第23条に以下のように記載されている。
保険医は、その交付した処方箋に関し、保険薬剤師から疑義の照会があつた場合には、これに適切に対応しなければならない。
医師として、ではなく、保険医としての義務である。
しかし、ほとんどの疑義照会は保険医に対する疑義照会であるので、医師には疑義照会に応える義務があるとみていいだろう。
ただ法的な優先順位としては、法律>施行令(政令)>施行規則(政令)であるため、そう考えると、薬剤師と医師の間に疑義照会に対する温度差が生じてしまうのも仕方がないのかも知れない。
疑義照会さえすれば責任は免れるか?
例えば、常用量を超えて薬が処方されてたとして、疑義照会してもそのまま、というケースはあります。
疑義照会しても変わらなかったんだから仕方ない、と思ってそのまま調剤します。
この場合、患者さんに副作用の被害が出ても、薬剤師は責任を免れることができるのでしょうか。
過量投与であることを知りながら、そのまま調剤し、患者がなんらかの健康被害を被った場合、薬剤師は医師と共にその責任を免れることはできないでしょう。
薬剤師は過量投与であることに気づいていたわけですから、悪い結果を予見し、回避することができる立場にあったと見なされ、民法上は「共同不法行為」(民法719条)による損害賠償責任が問われることになるでしょう。
過去には、医師が常用量を上回る薬剤を処方し、薬剤師が疑義照会を行わずに調剤したために健康被害が生じて裁判に持ち込まれたケースがあります。
この場合は、医師と薬剤師の双方の過失を認め、損害賠償金の支払いが命じられています。
さらに、薬剤師を雇用する薬局の開設者にも使用者責任が生じます(民法715条)。
形式的な疑義照会
薬剤師は、処方に薬学的な疑問があれば、医師に疑義照会をしなければなりません。
この疑義照会に対して、医師が適切に対応してくれればよいのですが、医師の中には、まったく取り合わず明確な理由を述べないまま、そのまま調剤するようにとしか回答しない人もいます。
このような場合、形式的には医師に確認をし、承諾を得ているので、薬剤師は疑義照会義務を果たしたと考えることもできます。
しかし、医師から理由の説明などはなく、処方の変更もないので、薬剤師の薬学的疑義は解消していません。
そこで、薬剤師の疑義照会義務は、薬学的な疑義が解消されなくても形式的に疑義照会を行えばよいのか、それとも、薬学的な疑義が解消されてはじめて義務を果たしたといえるのかが問題となります。
薬剤師に疑義照会義務を負わせている法の趣旨は、「医師等の処方の過誤を正し、医薬品使用の適正を確保し、過誤による生命、健康上の被害の発生を未然に防止する」ためにあります。
薬学的に疑義が残り、医薬品の適正使用にならないような場合に、仮に医師が対応しないからといって、そのまま調剤してしまえば、この目的が達成されないことは明らかです。
このような趣旨で設けられた義務である以上、形式的に医師に確認をしたとしても、薬剤師の薬学的疑義が解消され、適正に使用されることが確認できなければ、薬剤師は義務を果たしたとはいえないと解釈されます。
したがって、薬剤師の疑義照会義務は形式的に行っただけでは足りず、薬学的な疑義が解消されなければ義務を果たしたとはいえません。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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1 件のコメント
いつも勉強になります。
難しいですね…
疑義照会を行ったが、処方医が理由を述べずそのまま調査指示がでた場合
「このままでは調剤できない旨をDrへ伝え、薬学的な疑義が解消されるまでは、疑義照会を繰り返す」
のが最善なのですが、院内薬剤部ならまだしも、果たしてそれが院外の調剤薬局で実現可能なのか…