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男性不妊の原因となる薬
公開. 更新. 投稿者:妊娠/授乳.この記事は約5分17秒で読めます.
4,191 ビュー. カテゴリ:男性不妊の原因となる薬
子供が出来ないのは女性のせい、という風潮はまだ強いですが、男性が飲んでいる薬が不妊の原因、というケースもあります。
不妊の原因になる、というのは精子の数が少なくなるということが原因と考えられる。抗癌剤のような細胞毒性がある薬は精子数も減少する。
以下、添付文書の副作用にそれっぽいことが書いてある薬を並べる。
アザルフィジンEN、サラゾピリン:精子数及び精子運動性の可逆的な減少
アフィニトール、エンドキサン、サーティカン、マブリン、リウマトレックス:無精子症
コートリル、コートン、デカドロン、セレスタミン、フロリネフ、プレドニン、メドロール、リンデロン、レダコート:精子数及びその運動性の増減
プリモボラン:大量継続投与による精子減少
プロペシア:男性不妊症・精液の質低下(精子濃度減少、無精子症、精子運動性低下、精子形態異常等)
レナデックス:精子数及び精子運動性の異常
ステロイド関係は「精子数の増減」だから、不妊の原因になるかどうかは不明。逆に妊娠しやすくなるかも。
不妊治療を行っている女性が飲んでいる薬については、婦人科でも注意しているだろう。しかしご主人が飲んでいる薬については把握していない可能性もあるので、注意してみてみたい。
α遮断薬と逆行性射精
カルデナリンやユリーフなどのα遮断薬の副作用に「逆行性射精」というのがある。
精管および精嚢ではα1A受容体の発現が優位であり、これらの臓器の収縮はα1A受容体を介しています。α1受容体遮断薬による射精障害は、大きく分けて逆行性射精と無射精に分類されます。逆行性射精は、α1遮断薬が膀胱頸部の平滑筋を弛緩させ膀胱内に精液が逆行することにより起こり、無射精は、α1受容体遮断薬により精嚢・精管が正常に収縮せず弛緩することによる射精障害が原因で引き起こされます。そのため、α1A受容体に選択性の高い薬剤が射精障害をきたしやすいと考えられています。
射精が逆行する。
精液が陰茎から放出されず、逆方向の膀胱に流れこんでしまう状態をいう。
男性不妊症の原因としても多いらしい。
しかし、逆行性射精が起こったとしても、膀胱に精液が流れ込んでその後尿として出ていくだけなので、不妊以外の害はない。
前立腺肥大症でユリーフを使っている男性では、不妊が問題になることは少なさそうですが、高血圧でカルデナリンを使っている患者さんには若い男性もいるので、不妊で悩んでいないか気にする必要があるかも。
α遮断薬で逆行性射精が起こるんだったら、メトリジンみたいなα刺激薬使ったら男性不妊症に効果あるのかな、とか思ったりする。
ユリーフと射精障害
ユリーフの副作用で比較的頻度の高いものに「射精障害」という記載がある1)。
5%以上 射精障害(逆行性射精等)
ユリーフはα1遮断薬に分類され、尿路平滑筋を弛緩させることで前立腺肥大症に伴う排尿困難を改善させる治療薬です。
ユリーフ以外のα1遮断薬では、カルデナリンには「射精障害(逆行性射精等)」、ハルナールには「射精障害」という記載がみられるが、頻度不明であり、ユリーフほど頻度の高いものではない。
その他のα1遮断薬、エブランチル、バソメット、ハイトラシン、フリバス、ミニプレスには射精障害の副作用の記載はみられない。
ユリーフによる射精障害は、前立腺肥大を抑制するためのα1A受容体及びα1D受容体遮断作用により、膀胱三角部や前立腺などの下部尿路組織の弛緩が起こることが原因といわれている。下部尿路組織の弛緩は、射精時に必要となる膀胱頸部の閉鎖が不完全となり、本来射精すべき精液の一部が膀胱内に逆流してしまうという現象を起こす。
ユリーフを服用すると尿道内圧を抑制する作用があるので尿は出やすくなりますが、尿道拡張効果が高すぎるため、射精に勢いがなくなったり精液が逆流しやすくなる。これを逆行性射精といいます。
ユリーフの射精障害は承認時までに実施された臨床試験において、その発生率は17.2%と報告されています。
しかし性的な活動が活発な20~30代の男性が服用した場合、ほぼ必発することが市販後の調査で判明しています。
ただ、ユリーフの効能効果は「前立腺肥大症に伴う排尿障害」ですので、若い人が服用することはほとんどないと思います。
射精障害が起こったとしても、ED(勃起不全)や性的快感の低下は認められないため、健康を害するものではありませんが、こどもを望む患者には十分説明を行う。前立腺肥大症を起こすくらいの高齢男性でも挙児希望している患者がいないとは限らない。
性的快感の低下は認められない、とはされているが、射精がされないことで性的な快感が得られないということはあるようだ。
また、この副作用を利用して一部の医療機関において早漏症治療薬として処方されることがあるという。もちろん適応外です。
前立腺手術と逆行性射精
前立腺の手術をした後には、この逆行性射精が必発らしい。
最近は晩婚化も進んでいるし、男性が50代で結婚するというのも珍しくない。
前立腺肥大症になるくらいの年齢で、逆行性射精が問題になることは少ないと思っていましたが、悩んでいる人もいるようなので、ユリーフによる逆行性射精も注意したほうが良いかな。下の話題はあまり取り上げにくいですが。
SSRIと性機能異常
パキシルの副作用に、1%~10%未満:性機能異常(射精遅延、勃起障害等)とある。
適用上の注意には、「海外で実施された臨床試験において、本剤を含む選択的セロトニン再取り込み阻害剤が精子特性を変化させ、受精率に影響を与える可能性が報告されている。」とあり、子供を希望する男性患者には注意が必要である。
パキシル飲んでて、子供作ろうなんて考える患者は少ないだろうし、それだけの意欲があればパキシル必要無いんじゃないの?とも思いますが。
ちなみに、男性患者が服用しているパキシルによる催奇形性は心配いらない。
男性患者におけるパキシルの服用が先天異常発現に影響を及ぼしたとの報告はありません。
生殖発生毒性試験では、パロキセチンを投与された雄性ラット(50mg/kg/日投与群)において、受胎率の低下ならびに精巣萎縮、精巣上体精液瘤・上皮空胞化、精子数及び精子運動性の低下が認められています。
ヒトでは、パキシルを服用した健康成人男性において精子の遺伝子断片化が引き起こされると報告されています。
また、うつ病患者では、パキシルや他のSSRI投与により、精子のDNA断片化の増加、精子数減少、運動性低下、及び形態異常が引き起こされると報告されていますが、その影響度合いに関してSSRI薬剤間での差異は認められていません。
パキシル以外のSSRIでも同様に注意は必要である。
DNAを損傷した精子の割合が高くなる、と聞くと怖くなりますが、催奇形性と関連するものではないらしい。
性機能障害は抗うつ薬、抗精神病薬の副作用として知られてはいるが、本邦の社会通念上、患者は症状を自覚していたとしても医療者に伝えにくい環境にあると考えられる。
挙児を希望する患者から相談を受けた場合は、精子が影響を受けると受精が成立しないため、不妊となる傾向が強まることを説明する必要がある。
治療終了後は次第に回復する可能性が高いことも伝えるべきであるが、患者が勝手に服薬を中断しないよう、説明の仕方には十分な配慮が必要である。
参考文献
1)ユリーフ 添付文書
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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