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抗菌薬が効かない膀胱炎?間質性膀胱炎の治療薬
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約4分11秒で読めます.
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膀胱炎=細菌感染は誤解?抗菌薬が効かない「間質性膀胱炎」とは

「膀胱炎って抗生物質を飲めばすぐ治る病気でしょ?」
――これは一般的な認識ですが、必ずしも正しいとは限りません。膀胱炎と診断されたのに尿検査に異常がなく、抗菌薬を飲んでも治らない。そんなとき、考えたいのが「間質性膀胱炎」という病気の存在です。
膀胱炎と一口に言っても、その原因や症状、治療薬には大きな違いがあります。細菌性膀胱炎と間質性膀胱炎の違いを中心に、間質性膀胱炎に使用される薬剤(適応外使用含む)、市販薬や漢方薬、そしてクランベリージュースの是非まで、勉強します。
膀胱炎=細菌感染という思い込み
膀胱炎とは、膀胱に炎症が起きた状態の総称です。多くの場合は細菌(主に大腸菌)による感染で発症しますが、必ずしも原因が細菌とは限りません。
●急性膀胱炎の特徴
・尿が白濁する、細菌や白血球が検出される
・抗菌薬の服用で速やかに改善
・発熱は基本的に伴わない(腎盂腎炎との鑑別点)
こうした“典型的”な膀胱炎の治療では、抗菌薬(レボフロキサシン、ホスホマイシン、セファクロルなど)が奏効します。
しかし…
抗菌薬が効かない?「間質性膀胱炎」という別の膀胱炎
「膀胱炎と診断されたのに、尿検査で菌が出なかった」「抗生物質を飲んでも治らない」
そんなときに疑われるのが間質性膀胱炎(interstitial cystitis)です。
●間質性膀胱炎の特徴
・約90%が女性に発症
・頻尿、尿意切迫感、膀胱痛・不快感などが続く
・尿検査で異常が出にくい(無菌性)
・精神的ストレスと症状悪化の関連が指摘される
膀胱の粘膜下組織(間質)に慢性の非特異的炎症がある状態で、原因は明らかではありませんが、免疫異常、アレルギー、神経因性の関与が指摘されています。
間質性膀胱炎に使われる薬(保険適応外)
現在、間質性膀胱炎に対して保険適応を持つ内服薬は存在しません。そのため、以下の薬剤が“適応外使用”として処方されることがあります。
① スプラタストトシル酸塩(アイピーディ)
元々はアレルギー性鼻炎や気管支喘息に使われる抗アレルギー薬です。
・ヘルパーT細胞(Th2)からのIL-4・IL-5の産生を抑制
・IgE抗体の産生抑制、好酸球の活性抑制
・炎症性サイトカインの抑制により膀胱炎症を鎮静化する可能性
大鵬薬品はかつて間質性膀胱炎への適応拡大を目指して臨床試験を実施していましたが、プラセボとの差を検出できず中止となっています。
② 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン:トリプタノールなど)
意外に思われるかもしれませんが、三環系抗うつ薬には鎮痛作用・抗不安作用があり、間質性膀胱炎に適応外で使われます。
・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害による下行性疼痛抑制系の賦活
・抗コリン作用で膀胱の過活動を抑える
・精神的ストレスに由来する疼痛悪化にも効果
頻尿や尿意切迫感の緩和にも有用とされており、低用量から使用されます。
③ ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス)
抗ヒスタミン作用と中枢鎮静作用を併せ持つ薬剤で、不安感の強い患者に適応外で処方されることがあります。
・中枢性鎮静作用で睡眠の質改善
・抗アレルギー作用で炎症にも間接的に関与
漢方薬・生薬製剤によるアプローチ
生薬製剤:ウワウルシ(クマコケモモ)
・抗菌作用を持つ薬用植物で、欧米では古くから尿路感染の予防に使われてきました。
「ベアベリックス」(エスエス製薬)
・ウワウルシ由来の植物性成分を含有
・尿路の消毒、排尿時の不快感の軽減
・溶かして飲む顆粒タイプで市販
注意点としては、症状を一時的に抑えてしまい、受診を遅らせる可能性があることです。
とくに高熱や腰痛などがある場合は、すぐに医療機関を受診するべきです。
漢方薬:慢性膀胱炎や体質改善に
細菌性膀胱炎でも、抗菌薬で治癒後に残尿感や頻尿が続くケースでは、漢方薬が補助療法として使われることがあります。
・五淋散(ごりんさん):排尿痛や残尿感に。市販薬「ボーコレン」で有名
・猪苓湯(ちょれいとう):利尿・消炎作用。排尿困難、頻尿に
・龍胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう):下焦の実熱に対して。膀胱の炎症やかゆみが強い場合に
・清心蓮子飲(せいしんれんしいん):神経因性の頻尿や夜間頻尿に効果が期待される
腎仙散(小太郎漢方製薬)
・五苓散をベースに、ウワウルシなど抗炎症性生薬を加えた処方
・体質改善+軽度の膀胱不快感に適する
クランベリージュースは効く?副作用は?
欧米では尿路感染予防として広く飲まれているクランベリージュース。以下の作用が示唆されています。
・尿のpHを酸性に保ち細菌の増殖を抑制
・大腸菌の尿路上皮への付着を阻害
・ポリフェノールによる抗酸化作用
ただし、医薬品のような治療効果はありません。あくまで予防・補助的役割としての位置づけです。
注意:ワルファリンとの飲み合わせ
クランベリージュース中のフラボノール配糖体などが、CYP2C9を阻害する可能性があり、ワルファリンの代謝を妨げて出血リスクを高める恐れがあります。
ワルファリン服用中の方は、摂取を医師・薬剤師に相談すべきです。
まとめ:膀胱炎にも種類がある―見逃される間質性膀胱炎
膀胱炎と聞くと、「尿が白濁して抗生物質ですぐ治る病気」というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、細菌が関与しない間質性膀胱炎という疾患が存在し、治療に抗菌薬が効かないケースもあります。
膀胱炎に使われる薬は多岐にわたり、その選択には原因の見極めと、患者の症状や背景を考慮する必要があります。
「膀胱炎=抗菌薬」という固定観念にとらわれず、患者の症状に寄り添った治療と服薬指導が大切です。薬剤師としてのアプローチも、より柔軟で多角的な視点が求められています。