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回転性めまいと浮動性めまいの違いは?
公開. 更新. 投稿者:めまい/難聴/嘔吐.この記事は約4分54秒で読めます.
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回転性めまいと浮動性めまいの違いとは?

「めまい」とひとことで言っても、その感じ方や原因はさまざまです。患者さんが「ふらふらする」「ぐるぐる回る」「立っていられない」と訴える場合、医療従事者はその言葉の裏にある“めまいの種類”を見極めなければなりません。
めまいを大きく分類する「回転性めまい」と「浮動性めまい」の違いを中心に、その原因や治療法、薬剤師として知っておきたい対処法について勉強します。
めまいとは何か?
「めまい」とは、自分の身体や周囲が動いていないにもかかわらず、「動いている」と錯覚する感覚のことです。これは、視覚・前庭(耳の奥)・深部感覚(筋肉や関節などからの感覚)のうち、どれかが正しく情報を伝えられなくなったときに生じます。
主なめまいの分類
めまいの種類 | 特徴 | 主な原因 |
---|---|---|
回転性めまい(Vertigo) | 自分や周囲がぐるぐる回っている感覚 | 内耳(三半規管)、前庭神経の障害(末梢性)、小脳・脳幹(中枢性) |
浮動性めまい(Dizziness) | フワフワと体が浮いたような不安定感 | 小脳・脳幹の障害、不安・うつなど |
立ちくらみ(Presyncope) | 血の気が引いて意識が遠のく感覚 | 起立性低血圧、不整脈、貧血など |
平衡障害(Disequilibrium) | 足元がふらつき、まっすぐ歩けない | 加齢、神経変性疾患、整形疾患 |
回転性めまいとは? ─ ぐるぐる回る感覚
「コーヒーカップに乗って気持ち悪くなった」「天井がぐるぐる回って見える」──こうした体験は、典型的な回転性めまいです。
回転性めまいの原因
主に「末梢性」と「中枢性」に分類されます。
● 末梢性めまいの主な疾患
・良性発作性頭位めまい症(BPPV):寝返りや頭の動きで発症。耳石の迷入が原因。
・前庭神経炎:風邪のあとなどに前庭神経が炎症を起こす。
・メニエール病:耳鳴り・難聴・回転性めまいの三徴。内リンパ水腫が原因。
● 中枢性めまいの主な疾患
・小脳出血・脳幹梗塞:突然の激しい回転性めまいと歩行障害を伴う。
・聴神経腫瘍:進行性の難聴・平衡障害。
中枢性めまいでは、頭痛、複視、ろれつ障害、意識障害など神経症状を伴うことが多く、迅速な画像診断(MRIなど)が必要です。
浮動性めまいとは? ─ フワフワする不安定感
「ふらふらする」「足が地に着いていないような感覚」「宙に浮いている感じ」と表現されるのが浮動性めまいです。本人は回っている感覚はないが、歩こうとするとまっすぐ歩けない、バランスが取りにくいと訴えることが多いです。
浮動性めまいの原因
・脳幹・小脳の慢性障害(例:脳梗塞後遺症、脳腫瘍)
・高血圧による自律神経の乱れ
・不安障害・うつ病・パニック障害などの精神的要因
・加齢による平衡感覚の低下
患者の主観的な感覚が頼り
浮動性めまいは「検査で異常が出にくい」「訴えがあいまい」といった特徴もあり、医師にとっては鑑別が難しいこともあります。薬剤師としては、精神疾患の服薬歴や、起立時の血圧変化なども確認したいところです。
めまいの鑑別ポイント
項目 | 回転性めまい | 浮動性めまい |
---|---|---|
感覚 | 周囲が回って見える | フワフワ・ふらつく |
障害部位 | 三半規管・前庭神経 | 小脳・脳幹、中枢神経 |
原因 | メニエール病、BPPVなど | 高血圧、心因性など |
発症 | 突然、強く | ゆるやか、慢性経過も |
随伴症状 | 吐き気・耳鳴り・難聴 | 不安・頭痛・倦怠感など |
薬物治療 | 抗めまい薬・利尿薬など | 抗不安薬・自律神経調整薬など |
めまいと抗めまい薬(鎮暈薬)
めまいは、根本原因に応じた治療が重要ですが、つらい症状に対しては一時的な対症療法も行われます。以下は代表的な薬剤です。
回転性めまいに用いられる薬剤
・メリスロン(ベタヒスチン):血流改善、内耳循環促進、メニエール病によく処方される
・イソメニール:末梢血流改善、立ちくらみ系にも使用
・セファドール:前庭機能抑制、乗り物酔いにも有効
・プリンペラン(メトクロプラミド):吐き気止め、めまいによる悪心に使用
・トラベルミン:抗ヒスタミン薬、眠気が出やすい点に注意
・イソバイド:内リンパ液の排出促進、メニエール病の根治療法ではないが有効
浮動性めまいに用いられる薬剤
・抗不安薬(ジアゼパムなど):精神的な要因を抑える
・ビタミン剤(B1、B12):神経修復の補助
・自律神経調整薬(加味帰脾湯などの漢方薬)
宇宙酔いと乗り物酔い ─ 感覚の混乱が原因?
興味深い話題として、「宇宙酔い」や「乗り物酔い」も回転性めまいに関連しています。
感覚混乱説(Sensory Conflict Theory)
人の平衡感覚は、視覚・前庭(内耳)・体性感覚によって保たれています。ところが、乗り物の中では目から得る情報と、内耳で感じる揺れの情報がズレてしまうことで脳が混乱し、吐き気やめまいを感じると考えられています。
この理論は、宇宙酔いの研究から注目されるようになりました。
宇宙酔いの研究(信州大学)
宇宙空間では重力がないため、内耳の前庭器官が正常に機能せず、脳がバランスを取れなくなります。信州大学の研究では、宇宙で飼育されたラットの前庭細胞を分析し、たんぱく質の変化を通じて、宇宙酔いの原因となる遺伝子を解明しようとしています。
この研究は、将来的に「新たな抗めまい薬の開発」につながる可能性があります。
日常生活での“めまい”対策
薬物治療だけでなく、生活習慣の見直しも重要です。
回転性めまいの予防
・睡眠不足・疲労を避ける
・急激な頭の動きを控える
・水分補給をこまめに
浮動性めまいの予防
・ストレスのコントロール
・ゆっくり立ち上がる(起立性低血圧対策)
・自律神経を整える生活(適度な運動・規則正しい生活)
薬剤師としてのアドバイス
めまいの訴えは、耳鼻科だけでなく内科・精神科・整形外科など、あらゆる科で出会う症状です。患者の言葉に耳を傾け、「どのタイプのめまいなのか」「受診勧奨すべきか」「薬剤性か」を見極めることが大切です。
特に、
・抗うつ薬・抗不安薬・降圧薬などによる副作用
・多剤併用によるふらつき
には注意が必要です。
まとめ
めまいには「回転性」と「浮動性」という大きな違いがあり、それぞれ原因も治療法も異なります。
薬剤師としては、症状だけでなく背景にある疾患や薬歴を踏まえた対応が求められます。