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SGLT2阻害薬で尿酸値も下がる?糖尿病と高尿酸血症の関係
公開. 更新. 投稿者:痛風/高尿酸血症.この記事は約3分17秒で読めます.
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SGLT2阻害薬で尿酸値も下がる?糖尿病と高尿酸血症の意外な関係

糖尿病と痛風――どちらも生活習慣病の代表格ですが、この二つの病気の間には深いつながりがあります。肥満やインスリン抵抗性を基盤とし、しばしば併発することも少なくありません。
そして近年、糖尿病治療薬のひとつであるSGLT2阻害薬が、血糖値だけでなく尿酸値の低下にも寄与することが明らかになってきました。
「血糖値が上がると尿酸値が下がる」といった一見逆説的な現象や、ヒト特有の尿酸代謝の背景を踏まえながら、この不思議な関係を解き明かしていきましょう。
尿酸とは何か?
プリン体代謝の最終産物
尿酸は、プリン体の代謝によって生じる最終産物です。プリン体は、核酸やATPなど生体のエネルギーに必須の分子ですが、その代謝の行き着く先が尿酸です。
・プリン体 → ヒポキサンチン → キサンチン → 尿酸(キサンチンオキシダーゼが触媒)
・尿酸は血液中に溶けにくく、濃度が上がると結晶化して関節に沈着し、痛風発作を引き起こします。
排泄経路
・主に腎臓から排泄(糸球体濾過→近位尿細管で再吸収・分泌→最終的に尿中へ)
・一部は腸管や汗からも排泄されます
健常人では「産生=排泄」でバランスが保たれますが、この均衡が崩れると高尿酸血症が生じます。
なぜヒトだけが痛風になるのか?
ヒトを含むヒト上科の霊長類は、尿酸を分解する酵素(ウリカーゼ)を失っているため、尿酸をアラントインに変換できません。
・多くの哺乳類:尿酸 → アラントイン(可溶性が高く、排泄しやすい)
・ヒト:尿酸で代謝が止まる → 血清尿酸値が高くなりやすい
そのため、ヒトだけが「高尿酸血症」や「痛風」を発症する特異な存在なのです。
肥満・インスリン抵抗性と尿酸値
肥満は糖尿病や高尿酸血症の大きなリスク因子です。
・肥満に伴いインスリン抵抗性が進行
・高インスリン血症 → 腎近位尿細管でのナトリウム再吸収が促進
・尿酸もナトリウムと共輸送されるため、再吸収が増え尿酸値が上昇
このように、肥満や糖尿病前段階では「高尿酸血症」が生じやすくなります。
糖尿病発症時に尿酸値が下がる?逆U字現象
興味深いことに、糖尿病が発症し血糖値が上がってくると、一時的に尿酸値が下がる現象が知られています。
メカニズム
・高血糖 → 浸透圧利尿が起きる
・糖が尿細管に流入し、再吸収されきれずに尿中へ(尿糖)
・その際、尿酸の再吸収も抑制され、尿酸排泄が促進
・結果的に血清尿酸値が低下
これを「逆U字現象」と呼びます。
ただし糖尿病が進行し、糖尿病性腎症が生じると、糸球体濾過量が減少 → 尿酸排泄も低下 → 再び尿酸値が上昇します。
つまり、糖尿病と尿酸値の関係は「初期に下がり、進行すると再び上がる」という二相性を示すのです。
SGLT2阻害薬と尿酸値低下
作用機序
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管でのグルコース再吸収を抑える薬です。結果として尿糖が排泄され、血糖値が下がります。
同時に、尿糖とともにナトリウムや尿酸の再吸収が抑制され、尿酸排泄が促進されます。そのため、血清尿酸値が下がるのです。
臨床的意義
・SGLT2阻害薬を使用すると、尿酸値は平均0.5〜1.0 mg/dL程度低下
・糖尿病患者における痛風リスクの低下が期待できる
・高尿酸血症を合併する糖尿病患者には一石二鳥の効果
尿酸値の変動と臨床判断
注意点
・「糖尿病があるのに尿酸値が低い」という場合は、必ずしも安心ではありません。
・進行期の腎障害では尿酸値が再上昇するため、腎機能の評価が重要です。
・また、尿酸値は食事や薬剤の影響も受けやすいため、単独での判断は危険です。
痛風治療との関連
痛風患者にSGLT2阻害薬を併用することで、尿酸値コントロールが改善する可能性があり、近年研究が進んでいます。
まとめ
・肥満・インスリン抵抗性 → 尿酸再吸収増加 → 高尿酸血症
・糖尿病発症初期 → 浸透圧利尿で尿酸排泄増加 → 一時的に尿酸値低下(逆U字現象)
・糖尿病進行・腎症 → 尿酸排泄低下 → 再び尿酸値上昇
・SGLT2阻害薬 → 尿糖とともに尿酸排泄を促進 → 血清尿酸値を下げ、痛風リスク低減に寄与
糖尿病と痛風は「兄弟疾患」とも呼ばれ、同じ患者に併発することが多いものです。SGLT2阻害薬の登場は、血糖コントロールに加え、尿酸管理にも光をもたらしました。
将来的には、「糖尿病治療」と「痛風・高尿酸血症治療」の垣根を越えた新しいアプローチが広がる可能性があります。