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ザイロリックは高血圧じゃなきゃ使えない?
公開. 更新. 投稿者:痛風/高尿酸血症.この記事は約5分6秒で読めます.
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ザイロリックは高血圧じゃなきゃ使えない?痛風・高尿酸血症治療薬の適応と注意点

「ザイロリックは高血圧を伴わない高尿酸血症には使えないのですか?」
薬局や医療現場でこうした質問を受けることがあります。
尿酸値が高いだけの無症候性高尿酸血症に、尿酸降下薬を処方する是非は以前から議論が続いてきました。
実は、日本の添付文書上、ザイロリック(アロプリノール)やユリノーム(ベンズブロマロン)は「高尿酸血症」単体ではなく、 「痛風」「高尿酸血症を伴う高血圧症」という適応症の記載に留まっています。 一方、近年登場したフェブリク(フェブキソスタット)やウリアデック(トピロリック)では、
「痛風・高尿酸血症」と明確に記載され、より幅広い患者層への処方が可能となりました。
・従来薬の適応の経緯
・新薬フェブリクの位置づけ
・無症候性高尿酸血症に治療が必要か
・動脈硬化など生活習慣病との関連
・副作用のリスクと処方判断
を勉強していきます。
痛風・高尿酸血症の基本
痛風は血液中の尿酸が高値となり、関節に尿酸塩結晶が沈着することで炎症を起こす疾患です。
発作時には激しい関節痛を伴い、生活の質を大きく損ねます。
高尿酸血症の定義は、
血清尿酸値が7.0mg/dL以上。
これだけで直ちに痛風を発症するわけではありません。
実際、尿酸値が高くても無症候のまま経過するケースも多いです。
治療の目的は大きく二つに分かれます。
・痛風発作の予防・再発防止
・尿酸結晶の沈着・腎障害の進行予防
痛風の既往がある患者では、尿酸値を6.0mg/dL未満に維持することが推奨されます。
しかし、無症候性の場合は治療開始基準や目標値が議論の的です。
従来薬の適応症は限定的だった
ザイロリック(アロプリノール)
ユリノーム(ベンズブロマロン)
これら古くから使われてきた尿酸降下薬の適応症は、添付文書上こう記載されていました。
・痛風
・高尿酸血症を伴う高血圧症
つまり、
単に尿酸値が高いだけの無症候性高尿酸血症には保険適応がないのです。
実際は現場で“尿酸値が高いだけ”の人にも処方されてきた経緯があり、曖昧な運用がされてきました。
これは当時、
「尿酸値が高いだけで薬を飲む必要はあるのか?」
「痛風を発症しない限り、リスクとベネフィットは?」
というエビデンス不足が背景にありました。
フェブリクの登場で適応が拡大
こうした状況を大きく変えたのが、帝人ファーマのフェブリク(フェブキソスタット)です。
2009年、約40年ぶりの新規尿酸降下薬として登場し、
適応症が「痛風・高尿酸血症」と明記されました。
そもそも痛風は血清中の尿酸値が高くなる高尿酸血症によって引き起こされる。この新薬は従来薬と比べて着実に尿酸値を低下させ、痛風をなくす高い有効性が臨床試験で証明されている。
もう一つの特徴は薬の適応症として、痛風だけでなく高尿酸血症も含めて承認を取得していることだ。従来薬は、適応症が痛風と高尿酸血症を伴う高血圧症となっており、高尿酸血症でも、痛風を発症していない患者や高血圧の合併症がない患者には処方できなかった。
この「無症候性高尿酸血症への処方が保険適応で可能となった」インパクトは大きく、潜在患者数が一気に増加しました。
メーカーは当時、売上目標を1600億円規模に設定するほど期待を寄せていました。
無症候性高尿酸血症は治療すべきか?
一方で、尿酸降下薬を安易に処方することに警鐘を鳴らす声も根強くあります。
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(日本痛風・尿酸核酸学会)には以下のように記載されています。
・無症候性高尿酸血症については,痛風関節炎の発症をエンドポイントとしたRCT(ランダム化比較試験)が行われていないため,どの程度の血清尿酸値を治療対象にするかを決めることは難しい。
・欧米では無症候性高尿酸血症に対する薬物治療に否定的な見解を取っている。
つまり、「尿酸値が高いだけ」で薬を始めるエビデンスは限定的であり、生活習慣の改善を基本とする立場が推奨されてきました。
尿酸値を下げるリスクも
「とりあえず下げれば安心」という単純な話ではありません。
実は、尿酸降下薬を開始することで尿酸値が急激に変動し、
かえって痛風発作を誘発することがよく知られています。
特にザイロリック(アロプリノール)を開始・増量する際には注意が必要です。
また、腎機能障害のある患者や高齢者では重篤な過敏症(アロプリノール過敏症症候群)のリスクがあり、
厚労省も注意喚起を行っています。
動脈硬化やメタボとの関連
「尿酸値は高いけど痛風はない。じゃあ放置でいい?」
近年、こうした考えにも見直しが入りつつあります。
高尿酸血症は生活習慣病の合併と密接に関連しており、
日本生活習慣病予防協会は以下のように指摘しています。
高尿酸血症の人は、過食、運動不足、肥満の傾向にあり、高脂血症、高血圧、糖尿病などを合併します。これらは相互に動脈硬化を進め、虚血性心疾患を引き起こすので「シンドロームX」と呼ばれています。
最近では、尿酸値が高いこと自体が動脈硬化の独立した危険因子になるとの報告が増えています。
このため、糖尿病や高血圧などのリスク因子を持つ患者では、
尿酸値も重要な管理指標として位置づけられています。
実際の処方判断は?
では、「高血圧を伴わない高尿酸血症」ではどうすべきか。
以下の視点が重要です。
・痛風発作の既往があるか
→発作があれば尿酸降下薬は治療の中心
・尿酸腎症・腎機能低下が進んでいないか
→腎障害の予防として使用を検討
・動脈硬化性疾患の合併・リスクが高いか
→生活習慣病管理の一環として治療するか検討
・患者の年齢・腎機能・副作用リスク
無症候性であっても、糖尿病・高血圧・肥満が強い場合は、将来的な合併症予防の観点から治療が選択されるケースも増えています。
副作用の観点ではフェブリクの優位性も
従来のアロプリノールは安価ですが、過敏症や腎排泄依存のため腎機能障害時に投与量調整が必要です。
一方フェブリク(フェブキソスタット)は肝排泄主体であり、腎機能低下例でも使いやすく、
副作用のリスクが相対的に低いとされます。
「高血圧がない患者にはフェブリクの方が適応的に使いやすい」と考える医師も多いです。
結論
ザイロリックは「高尿酸血症だけ」の患者には保険適応上原則使えないことになっていましたが、
実際には痛風予防や生活習慣病管理の一環として処方されることも多かったのが現実です。
現在はフェブリクなど「無症候性高尿酸血症」にも適応を持つ薬剤が普及し、
治療の幅が広がりました。
ただし、
・薬物治療は副作用も考慮して慎重に
・生活習慣の改善が治療の基本
・他のリスク因子や合併症の有無を総合判断
これらを踏まえ、患者とよく相談した上で治療方針を選ぶことが重要です。
「尿酸値が高いから薬を出す」「高血圧がないから出せない」と単純に判断するのではなく、
エビデンスと患者背景を考慮した適正使用が求められています。