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インスリンを冷蔵庫に保管しちゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:糖尿病.この記事は約4分48秒で読めます.
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インスリンを冷蔵庫に保管しちゃダメ?保管方法を間違えると効果が落ちる?

糖尿病治療において欠かせないインスリン製剤。
しかし、「冷蔵庫に入れておけば安心」という感覚のまま保管していると、かえって薬の効果を損なってしまうことがあります。特に、使用中のインスリン製剤の保管方法には注意が必要です。
インスリン製剤の保管温度や凍結・高温による変質、停電時の対応、見た目での劣化判断のポイントなどを勉強します。
インスリンの基本的な保管ルール
インスリンには大きく分けて、未使用(開封前)と使用中(開封後)という2つの状態があり、それぞれに適した保管方法があります。
製剤の状態と保管温度
・未使用(開封前):2〜8℃(冷蔵庫) 凍結を避けること。吹き出し口付近はNG。
・使用中(開封後):室温(25~30℃程度) 冷蔵庫に入れると結露や痛みの原因に。
なぜ使用中のインスリンを冷蔵庫に入れてはいけないのか?
・冷たい薬液は注射時に強い痛みを生じやすい
・冷蔵庫から出し入れすることで結露が発生し、注入器の不具合につながる
・1日複数回使用する場合、温度変化による影響が蓄積しやすい
実際、インスリン製剤は30℃程度の環境下でも4週間以上品質が保たれることがわかっています。したがって、使用開始後は常温保存(直射日光・高温・低温を避けて)が推奨されているのです。
製剤別の保存期間と注意点
製剤によって、安定性に若干の違いがあります。
インスリン製剤やGLP-1製剤の開封後の使用期限は以下の通り。
薬品名 | 期限 | 添付文書の記載 |
---|---|---|
ゾルトファイ配合注 | 3週間 | 使用中は室温(30℃以下)にキャップ等により遮光して保管し、3週間以内に使用すること。ただし、25℃以下の保管であれば、4週間以内に使用すること。冷蔵庫保管(2~8℃)も可能であるが、凍結を避け、4週間以内に使用すること。 |
ノボラピッド注 | 4週間 | 使用中は冷蔵庫に入れず、キャップ等により遮光して室温に保管し、4週間以内に使用すること。 |
ノボラピッド30ミックス注/50ミックス注/70ミックス注 | 4週間 | 使用中は冷蔵庫に入れず、キャップ等により遮光して室温に保管し、4週間以内に使用すること。 |
アウィクリ注 フレックスタッチ 総量300単位 | 6週間 | 使用中は室温にキャップ等により遮光して保管し、アウィクリ注 フレックスタッチ 総量300単位は6週間以内、アウィクリ注 フレックスタッチ 総量700単位は12週間以内に使用すること。冷蔵庫保管(2~8℃)も可能であるが、凍結を避けること。残った場合は廃棄すること。 |
アウィクリ注 フレックスタッチ 総量700単位 | 12週間 | 使用中は室温にキャップ等により遮光して保管し、アウィクリ注 フレックスタッチ 総量300単位は6週間以内、アウィクリ注 フレックスタッチ 総量700単位は12週間以内に使用すること。冷蔵庫保管(2~8℃)も可能であるが、凍結を避けること。残った場合は廃棄すること。 |
ランタス注 | 4週間 | 使用開始後4週間を超えたものは使用しないこと。使用時の安定性試験に基づく。 |
アピドラ注 | 4週間 | 使用開始後4週間を超えたものは使用しないこと。使用時の安定性試験(25℃)に基づく。 |
ライゾデグ配合注 | 4週間 | 使用中は室温にキャップ等により遮光して保管し、4週間以内に使用すること。 |
ビデュリオン皮下注 | 4週間 | やむを得ず室温で保存する場合は、30℃以下で遮光して保存し、4週間以内に使用すること。 |
フィアスプ注 | 4週間 | 使用中は冷蔵庫に入れず、室温にキャップ等により遮光して保管し、4週間以内に使用すること。 |
レベミル注 | 6週間 | 使用中は室温にキャップ等により遮光して保管し、6週間以内に使用すること |
ノボリンR注/N注/30R注/イノレット30R注 | 6週間 | 使用中は冷蔵庫に入れず、キャップ等により遮光して室温に保管し、6週間以内に使用すること。 |
ランタスXR注 | 6週間 | 使用開始後6週間を超えたものは使用しないこと。使用時の安定性試験(25±2℃)に基づく。 |
トルリシティ皮下注 | 14日間 | 室温で保存する場合は、14日以内に使用すること。 |
ヒューマログミックス25注/50注 | 28日間 | 使用開始後28日間は安定である(使用時の安定性を確認した試験により、使用時安定性が確認された期間)。 |
ヒューマリンR注/N注/3/7注 | 28日間 | 使用開始後は30℃以下で保存し、28日以内に使用すること。 |
インスリングラルギンBS注「リリー」 | 28日間 | 使用開始後4週間を超えたものは使用しないこと。(使用時の安定性試験に基づく。) |
ビクトーザ皮下注 | 30日間 | 使用開始後は、キャップ等により遮光して室温に保管し、30日以内に使用すること。 |
バイエッタ皮下注 | 30日間 | 使用開始後30日以内に使用すること。 |
リキスミア皮下注 | 30日間 | 使用開始後30日以内に使用すること。[使用時の安定性試験(25℃)に基づく。] |
トレシーバ注 | 8週間 | 使用中は室温にキャップ等により遮光して保管し、8週間以内に使用すること。冷蔵庫保管(2~8℃)も可能であるが、凍結を避けること。 |
垂直保存はNG?懸濁製剤の保管のコツ
特に注意が必要なのが、懸濁型のインスリン製剤です。
・垂直保存のリスク
カートリッジを垂直に長期間立てて保存すると、沈殿が底に固着しやすくなります。すると、通常の振とうでは均一に混ざらなくなり、投与するインスリン量にムラが生じる危険があります。
▶ 保管のコツ:未使用の懸濁製剤は横に寝かせて保存するのが望ましいとされています。
注射直前には「室温に戻す」が基本
冷蔵庫で保存されていた未使用のインスリンをいきなり注射すると、痛みが強くなったり、皮膚への刺激が出たりすることがあります。
そのため、注射前には15〜30分前に室温に戻してから使用することが望ましいです。これは、インスリンだけでなく、エンブレル皮下注などの他の注射薬でも同様の注意書きがあります。
高温による劣化とその見分け方
インスリンはタンパク質なので、高温に長時間さらされると変性し、薬効が落ちる恐れがあります。37℃を超える環境では特に要注意です。
劣化したインスリンの見分け方
・懸濁製剤なのに透明・半透明になっている(=無結晶化)
・透明製剤なのに白く濁っている(=異常結晶)
・大きな気泡が多数ある
・カートリッジ内に変色や異物の沈殿がある
こうした異常が見られる場合は、使用を中止し、新しい製剤を使いましょう。
凍結したインスリンは使ってはいけない理由
インスリンを凍結させてしまうと、以下のような問題が発生します:
・結晶の沈殿による薬効の低下
・気泡の発生により注入量の不正確さ
・注入器の破損(膨張によるガラスのヒビなど)
・注入ボタンが押せないなどの機械的不具合
一度でも凍結したインスリンは、たとえ解凍しても使用しないことが原則です。
凍結したかどうかの見分け方
・カートリッジの中に大きな気泡(5mm以上)
・注入ボタンが押せない
・ゴム栓が膨張・破裂している
・沈殿がすぐに分離する
停電時の対応:廃棄すべき?それとも継続可能?
冷蔵庫保存が基本のインスリンですが、短時間の停電では大きな影響はないとされています。
3時間以内の停電なら問題なし?
製薬会社(ノボノルディスク)によれば、計画停電のような3時間以内の冷蔵庫停止であれば、冷蔵庫のドアを開けなければ温度変化は最小限に抑えられるとのことです。
▶ 停電中はドアの開閉を極力控えることが重要
真夏や災害時はどうする?
真夏の車内は50℃近くなることもあり、短時間でも薬が劣化する可能性あり。
災害時は保冷バッグや保冷剤を活用し、できるだけ冷暗所に置く工夫を。
保管の“常識”をアップデートしよう
「インスリン=冷蔵庫に入れておけば安心」という考えは、使用中の製剤には当てはまらないことが分かります。以下にポイントをまとめておきます。
●インスリン保管の要点まとめ
・未開封は冷蔵庫(2~8℃)で保存、凍結厳禁
・使用中は室温(25~30℃)で保存
・懸濁製剤は横にして保存
・注射前は室温に戻してから使用
・凍った製剤、高温で変色した製剤は廃棄
・停電時は冷蔵庫を開けずに放置でOK(3時間程度まで)
最後に:患者さんへの指導において
薬剤師や医療従事者として、インスリン使用者には以下のような声かけが効果的です:
「使いかけのインスリンは冷蔵庫に戻さないでくださいね」
「外出時はなるべく高温を避けて、保冷剤と一緒に持ち歩いてください」
「凍らせると薬が使えなくなります。冷蔵庫の吹き出し口には近づけないでください」
患者さんの自己管理力を支えるためにも、正しい情報をやさしく、くり返し伝えることが大切です。
2 件のコメント
ランタスを冷蔵庫の中に4時間入れてしまいました。使えますか?
インスリンの保管の違いの根拠がよく分かりました。ありがとうございました。