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低用量ピルとアセトアミノフェンの相互作用
公開. 更新. 投稿者: 7,667 ビュー. カテゴリ:月経/子宮内膜症.この記事は約4分21秒で読めます.
目次
低用量ピルとアセトアミノフェンの相互作用|代謝・抱合・頭痛との関係

低用量ピル(ヤーズ、マーベロンなど)を服用している女性は多いが、意外に知られていないのが
「アセトアミノフェンとの併用注意」である。
アセトアミノフェンは市販薬でも手軽に使用されるため、
低用量ピルとの相互作用を理解していないと、頭痛悪化やホルモンバランスの変動を引き起こす可能性がある。
エチニルエストラジオール(EE)とアセトアミノフェンの代謝機序、相互作用、臨床的留意点を中心に、NSAIDsとの関係や月経痛の考え方まで勉強していく。
低用量ピルとアセトアミノフェンの相互作用 — なぜ併用注意なのか?
■ アセトアミノフェンがEEの「硫酸抱合」を阻害する
低用量ピルの主成分であるエチニルエストラジオール(EE)は、
肝臓で代謝された後、
・硫酸抱合(SULT)
・グルクロン酸抱合(UGT)
によって不活化され、排泄される。
一方、アセトアミノフェンは
グルクロン酸抱合・硫酸抱合で大量に代謝される薬であり、
硫酸抱合には「PAPS(3’-ホスホアデノシン-5’-ホスホ硫酸)」という補酵素を大量に消費する。
● 同時に投与されると何が起こるか?
アセトアミノフェンが硫酸抱合を優先的に使う
→ PAPSが枯渇
→ EEの硫酸抱合が阻害される
→ EEの血中濃度が上昇する可能性
つまり、
アセトアミノフェンによりピルの作用が強まる可能性がある ということだ。
ピル使用者の頭痛とアセトアミノフェンの関係
女性ホルモンは頭痛に影響しやすく、
エストロゲンの血中濃度が急変した時に頭痛が出現・増悪しやすい。
低用量ピル開始時に頭痛が起こることがあり、その際にアセトアミノフェンを使用すると、
・EE濃度の変動がさらに大きくなる
・頭痛が悪化する可能性
が指摘されている。
特に偏頭痛歴がある患者では注意が必要。
EEがアセトアミノフェンの効果を弱めることもある
相互作用は一方向ではない。
エチニルエストラジオールはアセトアミノフェンのグルクロン酸抱合を促進する。
その結果:
・アセトアミノフェンの半減期
2.4時間 → 1.7時間へ短縮
・血中濃度が下がりやすい
・鎮痛作用が弱まる可能性
という逆方向の相互作用もある。
つまり、低用量ピル使用者が頭痛時にアセトアミノフェンを使っても、
効きにくい可能性がある。
■ 推奨される代替薬
・ロキソプロフェン(ロキソニン)
・イブプロフェン
これらはEEの抱合を阻害せず、相互作用リスクが低い。
硫酸抱合とグルクロン酸抱合の仕組み — なぜ相互作用が起こるのか
● 硫酸抱合(SULT)
・肝細胞・腸管細胞に存在するSULT1A1 / 1A3 が関与
・補酵素 PAPS を使って薬物に硫酸基を付加
・容量が小さく“飽和しやすい”のが特徴
低濃度のアセトアミノフェンはSULT1A1が主代謝だが、
高濃度になると硫酸抱合が飽和し、UGTによるグルクロン酸抱合へ切り替わる。
● 相互作用のポイント
アセトアミノフェン・ビタミンCなどはPAPSを消費する
→ EEの硫酸抱合が妨げられる
→ EE濃度上昇の可能性
EEは主に硫酸抱合体として排泄されるため、この影響は無視できない。
お茶・果汁ジュースにも抱合阻害作用がある?
意外だが、
・お茶(特にSULT1A3阻害)
・果汁ジュース(SULT阻害)
にも硫酸抱合阻害作用があると報告されている。
医薬品ではないため大きな臨床影響は少ないが、
薬剤は基本的に水または白湯で服用
という原則を患者に説明する上で有用な知識。
NSAIDsと生理時の出血 ― 出血は増えるのか?
生理時に痛み止めとしてNSAIDsを使用すると
「出血量が増えるのでは?」
という質問を受けることが多い。
● 結論
・鎮痛目的の アスピリンの量では抗血小板作用は弱い
・イブプロフェンにも抗血小板作用はあるが、弱く短時間
→ 実際の出血量への影響はほぼ問題にならない。
心配な場合は
ロキソプロフェンが最も扱いやすい。
NSAIDsとトラネキサム酸(止血剤)は一緒に飲んで大丈夫?
生理痛が強いときに、
・NSAIDs(痛み止め)
・トラネキサム酸(止血剤)
が併用される処方はよく見られる。
結論として:
✔ 併用は問題ない
✔ 相互作用もない
✔ 禁忌・慎重投与にも該当しない
理由は作用部位が異なるため。
● NSAIDs
COX阻害 → プロスタグランジン減少
→ 鎮痛・抗炎症作用/血小板機能抑制
● トラネキサム酸
抗プラスミン作用 → 線溶抑制
→ 止血作用/炎症性物質産生抑制
※ 互いの作用を邪魔しない。
喉の炎症などで併用されることも多い。
月経痛の仕組みと鎮痛剤の使い方
月経では、ホルモン変動により子宮内膜が剥がれ落ちる際、
プロスタグランジン(PG) が過剰に分泌され子宮収縮が強まり、痛みが生じる。
特に、
・10〜20代
・出産経験のない女性
では子宮の伸縮がスムーズでないため痛みが強く出やすい。
● 月経痛は “耐えるべきもの”ではない
過去には「鎮痛薬はクセになる」と言われていたが、現在の考え方は逆。
・予測して早めに服用する
・自分に合う鎮痛薬を使う
・痛みのない月経を経験することがQOL向上につながる
● 漢方も有効
桂枝茯苓丸は
・PG合成阻害
・子宮平滑筋の緊張緩和
により月経困難症の改善が期待できる。
まとめ:低用量ピル使用者の鎮痛薬選びは慎重に
■ アセトアミノフェン
・EEの硫酸抱合を阻害 → ピル濃度が上昇
・ピルがアセトアミノフェンの作用を弱める
→ 頭痛が悪化することがある
■ NSAIDs
・概ね安全
・生理時に出血量が増えることはほぼない
・トラネキサム酸との併用も問題なし
■ 推奨する鎮痛薬
・イブプロフェン
・ロキソプロフェン
■ 一般薬(OTC)やサプリも抱合を阻害し得る
・アセトアミノフェン
・ビタミンC
・一部の飲料(お茶・果汁)
→ 患者への服薬指導時に確認する価値がある





5 件のコメント
エチニルエストラジオールの代謝が抑えられてエチニルエストラジオールが増えると薬の効果が落ちるということですね。
薬の飲み合わせで悩んでいたのでとても参考になりました!
同時投与ではなく、アセトアミノフェンを先に投与しその5時間後にピルを服用した場合も同じような弊害がおきるのでしょうか??
コメントありがとうございます。
飲み方がちょっとわかりませんが、ピルは連用しているものだと想定すると、同時投与でなくても相互作用は起こると思います。
ピルの添付文書には、
「アセトアミノフェンはエチニルエストラジオールの硫酸抱合を阻害すると考えられる。本剤が肝におけるアセトアミノフェンのグルクロン酸抱合を促進すると考えられる。」
↓
「本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。アセトアミノフェンの血中濃度が低下するおそれがある。」
とあり、アセトアミノフェンとの併用は、低用量ピルの効果が強まるのではないのですか?
コメントありがとうございます。
そのとおりですね。何を参考にしたのか、間違えていました。申し訳ありません。