2025年12月12日更新.2,685記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ネブライザーの種類と選び方〜超音波式とジェット式とメッシュ式、どれがいい?

パルミコート吸入液はメッシュ式で使えるのか?

ネブライザー(吸入器)は、薬液を細かい霧(エアロゾル)にして、呼吸器を通じて薬を投与する機器である。乳幼児の喘息治療や、去痰薬の吸入療法など、薬局でも説明機会が多い医療機器だ。
しかし、ネブライザーには複数の方式があり、薬剤の種類によって適する方式・適さない方式が存在する。 パルミコート吸入液(ブデソニド懸濁液)をメッシュ式で吸入してはダメという話を耳にした。

ネブライザーの種類と特徴、薬剤との適合性、家庭購入時の注意点など、勉強していく。

ネブライザーは大きく分けて3方式

ネブライザーは、薬液を霧化する方法の違いにより、以下の 3 方式に分類される。

方式霧化原理得意な薬剤注意点
ジェット式(コンプレッサー式)圧縮空気で霧化ほぼ全て大きくて音が大きい
メッシュ式メッシュ穴から押し出す多くは使用可懸濁液で目詰まり・データ不足
超音波式超音波振動で霧化生食加湿など変質・沈殿する薬剤が多い

以下で、それぞれの方式を詳しく見ていく。

ジェット式ネブライザー(コンプレッサー式)

ジェット式は、圧縮空気をノズルに吹き付けて霧を発生させる方式だ。
圧縮空気で霧化 → 粒子をぶつけて細かくする → エアロゾル化、という仕組みである。

特徴
・最も多くの薬剤に対応
・懸濁液(例:パルミコート)も使用できる
・耐久性が高く、価格も安め
・音が大きい・携帯性が低い

多くの臨床試験データはジェット式を前提に行われており、乳幼児の吸入療法では第一選択として採用されている。

メッシュ式ネブライザー

メッシュ式は、超音波振動子でメッシュ(微細孔)から薬液を押し出して霧化する方式である。

特徴
・静かで小型
・電池駆動可能、寝ている乳児にも使用しやすい
・角度をつけても霧化可能
・懸濁液で目詰まりを起こしやすい
・定期的なメッシュ交換(追加コスト)が必要

理論上、懸濁液も使用できる。しかし、懸濁粒子がメッシュ孔を通過する際のロス、吸入量の定量性、長期使用のデータ不足などの課題がある。

超音波式ネブライザー

超音波振動子が薬液を振動させて霧化する方式である。水を介して薬液に振動を伝える二槽式もある。

特徴
・静かで衛生的
・加湿用途に向く(生食の吸入など)
・懸濁液では成分が沈殿→上澄みだけ吸入してしまう
・薬剤が温められる可能性がある→変質リスク

このため、喘息治療に使用されるステロイド懸濁液(パルミコート)には使用不可である。

パルミコート(ブデソニド)はメッシュ式で使用できるのか?

◆ 添付文書の明確な指示
パルミコート吸入液の添付文書には以下の記載がある。

「本剤を吸入する際には、ジェット式ネブライザーを使用すること。」

理由は以下にまとめられる。
・臨床データ:研究・治療実績はジェット式を前提に行われている
・到達量:メッシュ式での肺到達量に関する信頼性データが不足
・目詰まり:懸濁粒子がメッシュ孔を塞ぎ、投与量が不安定に

◆ メッシュ式で「絶対にダメ」ではない?
メーカーの機器FAQでは、メッシュ式でも使えると明記されている場合もある。ただし、
・吸入時間が長くなる
・投与量が変動する可能性
・メッシュ清掃が必須
などの注意がある。

つまり、「使える/使えない」ではなく、「推奨されない」が正確な表現である。

超音波式がパルミコートに「適さない」確実な理由

懸濁液に振動を加えると、薬効成分が沈殿→上澄み液だけ吸入 → 薬が入らない吸入になる
→ 治療失敗の原因になる。

さらに、薬液が温められ、成分変性する可能性もあるため、超音波式は禁止級で使用不可と考えられる。

粒子径と流量:治療効果は機器で変わる

吸入効果は薬剤だけでなく、粒子径と吸気流量に影響される。

◆ 乳幼児に適した粒子径
粒子径と到達部位
・3〜5 μm:小児の気管支に適する

ジェット式はこの粒子径を安定して生成できる。

◆ 過大流量は避けるべき
乳幼児の生理的吸気流量は 6〜7 L/分 が適切であり、
10 L/分以上の吸入器は早いがデメリットがある。

薬局でネブライザーを販売できるか?

◎ 結論:販売可能
ネブライザーは「管理医療機器(クラス II)」に分類されるため、薬局では許可なしで販売可能。

区分と取り扱い
・一般家庭用:制限なく販売可
・医療用機器:許可不要で販売可能
・高度管理医療機器:薬局では別許可が必要(ネブライザーには該当しない)

ただし、保険請求はできず、物販扱いとなる。

患者に説明すべきポイント

説明項目
・方式と薬剤適合:「パルミコートはジェット式が第一選択」
・メッシュ式の注意:「性能は良いが、清掃・交換が必要」
・超音波式の制限:「懸濁薬は使用不可」
・保護者の心理:「音が怖いならメッシュ式だが、まず相談を」
・清掃指導:「目詰まりは投与量低下=治療失敗」
・粒子径・流量:「小児は6〜7 L/分、3〜5 μmに適する」

まとめ:方式ごとの推奨・非推奨

方式使用推奨薬パルミコート特徴
ジェット式多くの吸入薬◎ 推奨データ豊富・安定
メッシュ式多くの吸入薬△ 不推奨(可だが注意)静音・携帯性
超音波式生食、去痰薬の一部✖ 使用不可変質・沈殿リスク

【結論】ネブライザー選択は薬剤とセットで考えるべき

ネブライザーは医療機器であるが、薬剤が最適に作用するための「投与デバイス」である。
薬の選択=デバイスの選択も含む。

特に、乳幼児に頻用されるパルミコート吸入液は、ジェット式での臨床データに基づいて治療が設計されている。
メッシュ式の便利さだけで選ぶのではなく、薬剤の特性と治療効果を守るための選択が必要だ。

薬局での正しい指導は、喘息治療の成功率を大きく左右する。
ネブライザーの“違い”は、単なる機能の差ではなく治療効果の差であることを、改めて意識したい。

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