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ネブライザーの種類と選び方〜超音波式とジェット式とメッシュ式、どれがいい?
公開. 更新. 投稿者: 11,639 ビュー. カテゴリ:喘息/COPD/喫煙.この記事は約4分12秒で読めます.
目次
パルミコート吸入液はメッシュ式で使えるのか?

ネブライザー(吸入器)は、薬液を細かい霧(エアロゾル)にして、呼吸器を通じて薬を投与する機器である。乳幼児の喘息治療や、去痰薬の吸入療法など、薬局でも説明機会が多い医療機器だ。
しかし、ネブライザーには複数の方式があり、薬剤の種類によって適する方式・適さない方式が存在する。 パルミコート吸入液(ブデソニド懸濁液)をメッシュ式で吸入してはダメという話を耳にした。
ネブライザーの種類と特徴、薬剤との適合性、家庭購入時の注意点など、勉強していく。
ネブライザーは大きく分けて3方式
ネブライザーは、薬液を霧化する方法の違いにより、以下の 3 方式に分類される。
| 方式 | 霧化原理 | 得意な薬剤 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ジェット式(コンプレッサー式) | 圧縮空気で霧化 | ほぼ全て | 大きくて音が大きい |
| メッシュ式 | メッシュ穴から押し出す | 多くは使用可 | 懸濁液で目詰まり・データ不足 |
| 超音波式 | 超音波振動で霧化 | 生食加湿など | 変質・沈殿する薬剤が多い |
以下で、それぞれの方式を詳しく見ていく。
ジェット式ネブライザー(コンプレッサー式)
ジェット式は、圧縮空気をノズルに吹き付けて霧を発生させる方式だ。
圧縮空気で霧化 → 粒子をぶつけて細かくする → エアロゾル化、という仕組みである。
特徴
・最も多くの薬剤に対応
・懸濁液(例:パルミコート)も使用できる
・耐久性が高く、価格も安め
・音が大きい・携帯性が低い
多くの臨床試験データはジェット式を前提に行われており、乳幼児の吸入療法では第一選択として採用されている。
メッシュ式ネブライザー
メッシュ式は、超音波振動子でメッシュ(微細孔)から薬液を押し出して霧化する方式である。
特徴
・静かで小型
・電池駆動可能、寝ている乳児にも使用しやすい
・角度をつけても霧化可能
・懸濁液で目詰まりを起こしやすい
・定期的なメッシュ交換(追加コスト)が必要
理論上、懸濁液も使用できる。しかし、懸濁粒子がメッシュ孔を通過する際のロス、吸入量の定量性、長期使用のデータ不足などの課題がある。
超音波式ネブライザー
超音波振動子が薬液を振動させて霧化する方式である。水を介して薬液に振動を伝える二槽式もある。
特徴
・静かで衛生的
・加湿用途に向く(生食の吸入など)
・懸濁液では成分が沈殿→上澄みだけ吸入してしまう
・薬剤が温められる可能性がある→変質リスク
このため、喘息治療に使用されるステロイド懸濁液(パルミコート)には使用不可である。
パルミコート(ブデソニド)はメッシュ式で使用できるのか?
◆ 添付文書の明確な指示
パルミコート吸入液の添付文書には以下の記載がある。
「本剤を吸入する際には、ジェット式ネブライザーを使用すること。」
理由は以下にまとめられる。
・臨床データ:研究・治療実績はジェット式を前提に行われている
・到達量:メッシュ式での肺到達量に関する信頼性データが不足
・目詰まり:懸濁粒子がメッシュ孔を塞ぎ、投与量が不安定に
◆ メッシュ式で「絶対にダメ」ではない?
メーカーの機器FAQでは、メッシュ式でも使えると明記されている場合もある。ただし、
・吸入時間が長くなる
・投与量が変動する可能性
・メッシュ清掃が必須
などの注意がある。
つまり、「使える/使えない」ではなく、「推奨されない」が正確な表現である。
超音波式がパルミコートに「適さない」確実な理由
懸濁液に振動を加えると、薬効成分が沈殿→上澄み液だけ吸入 → 薬が入らない吸入になる
→ 治療失敗の原因になる。
さらに、薬液が温められ、成分変性する可能性もあるため、超音波式は禁止級で使用不可と考えられる。
粒子径と流量:治療効果は機器で変わる
吸入効果は薬剤だけでなく、粒子径と吸気流量に影響される。
◆ 乳幼児に適した粒子径
粒子径と到達部位
・3〜5 μm:小児の気管支に適する
ジェット式はこの粒子径を安定して生成できる。
◆ 過大流量は避けるべき
乳幼児の生理的吸気流量は 6〜7 L/分 が適切であり、
10 L/分以上の吸入器は早いがデメリットがある。
薬局でネブライザーを販売できるか?
◎ 結論:販売可能
ネブライザーは「管理医療機器(クラス II)」に分類されるため、薬局では許可なしで販売可能。
区分と取り扱い
・一般家庭用:制限なく販売可
・医療用機器:許可不要で販売可能
・高度管理医療機器:薬局では別許可が必要(ネブライザーには該当しない)
ただし、保険請求はできず、物販扱いとなる。
患者に説明すべきポイント
説明項目
・方式と薬剤適合:「パルミコートはジェット式が第一選択」
・メッシュ式の注意:「性能は良いが、清掃・交換が必要」
・超音波式の制限:「懸濁薬は使用不可」
・保護者の心理:「音が怖いならメッシュ式だが、まず相談を」
・清掃指導:「目詰まりは投与量低下=治療失敗」
・粒子径・流量:「小児は6〜7 L/分、3〜5 μmに適する」
まとめ:方式ごとの推奨・非推奨
| 方式 | 使用推奨薬 | パルミコート | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ジェット式 | 多くの吸入薬 | ◎ 推奨 | データ豊富・安定 |
| メッシュ式 | 多くの吸入薬 | △ 不推奨(可だが注意) | 静音・携帯性 |
| 超音波式 | 生食、去痰薬の一部 | ✖ 使用不可 | 変質・沈殿リスク |
【結論】ネブライザー選択は薬剤とセットで考えるべき
ネブライザーは医療機器であるが、薬剤が最適に作用するための「投与デバイス」である。
薬の選択=デバイスの選択も含む。
特に、乳幼児に頻用されるパルミコート吸入液は、ジェット式での臨床データに基づいて治療が設計されている。
メッシュ式の便利さだけで選ぶのではなく、薬剤の特性と治療効果を守るための選択が必要だ。
薬局での正しい指導は、喘息治療の成功率を大きく左右する。
ネブライザーの“違い”は、単なる機能の差ではなく治療効果の差であることを、改めて意識したい。




