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坐薬のほうが飲み薬より速く効く?
公開. 更新. 投稿者: 7,040 ビュー. カテゴリ:服薬指導/薬歴/検査.この記事は約4分52秒で読めます.
目次
坐薬の効果発現時間

飲み薬より坐薬のほうが速く効きそうだけど?
「飲み薬よりも坐薬のほうが早く効きそう」
現場ではよく患者さんや家族から質問されるテーマです。
特に小児科領域では、嘔吐・発熱・けいれんなどの際に坐薬が使用される機会も多く、薬剤師として正確な情報を持っておきたいところです。
しかし、「坐薬=速効性」というイメージは、必ずしも正しくありません。
坐薬と飲み薬の「用量が違う」のはなぜ?
◆ナウゼリン(ドンペリドン)の例
剤形と小児用量
・ドライシロップ(経口):1日1.0~2.0 mg/kg
・坐剤 (3歳未満):1回10 mgを1日2〜3回挿入
一見すると、坐薬のほうが多い量が必要と思われます。
実はこれは、吸収されるまでに薬が働く「部位」が異なるためです。
◆経口薬(ドライシロップ)は「胃に直接効く」
ドンペリドンは、中枢(CTZのD2受容体)だけでなく、
末梢(胃・上部消化管のD2受容体)にも作用する薬です。
つまり、経口投与された場合、吸収される前に胃の壁で作用し、
末梢性の制吐作用・消化管運動亢進作用を発揮しはじめます。
そのため、血中に吸収される量が同じでも、経口薬は低用量で効果を示しやすいのです。
◆経口薬と坐薬の吸収(AUC)は、ほぼ同等
どちらの剤形でも、血中濃度時間曲線下面積(AUC)は、
静脈内投与の約1/6程度であり、生物学的利用率はほぼ同じ。
しかし!
経口薬:胃などに直接働く
坐薬:直腸から吸収されて血中作用
この差が、用量差に直結します。
坐薬の方が「遅く効く」場合がある
「早く効かせたければ坐薬」ではない
・ナウゼリン坐薬の最高血中濃度(Tmax)は約2時間後(成人データ)
・経口薬(ドライシロップ)では約30分(成人データ)
つまり、飲み薬の方が早く効くという現象が起きるのです。
◆小児の実臨床での目安
効果発現の目安
・坐薬:30分〜1時間
・経口薬:30分前後
特に嘔吐時には経口投与が難しいため、坐薬の出番となりますが、速効性を期待して使う薬ではないことがわかります。
◆坐薬挿入後はすぐに飲ませない
ナウゼリン坐薬を入れた後は、1時間程度、絶飲食が原則です。
これは、挿入してすぐに水分を与えても、効果発現が遅いからでもあります。
吐き気がおさまってきたら、少量の経口補水液(OS-1など)から開始する。
坐薬と経口薬の併用(切り替え)について
◆メーカー推奨は「7〜8時間空ける」
ナウゼリン坐薬の血中半減期は 約7時間。
併用すると過量投与となる可能性があるため、原則併用しないとされています。
坐薬 → ドライシロップへ切り替える場合、挿入後7〜8時間が目安
◆乳幼児への注意
乳幼児では 血液脳関門が未成熟で、
ドンペリドンによる中枢作用(錐体外路症状など)が起きやすいというリスクも存在します。
そのため、漫然と坐薬と経口薬を併用させないことが重要。
坐薬は本当に「効くのが速い」のか?
患者さんからは、しばしばこう聞かれます。
「飲み薬より坐薬の方が早く効くんでしょ?」
確かに、直腸吸収は門脈を介さないため肝初回通過を回避できることが知られています。
しかし、これは速効性とイコールではありません。
◆Tmax比較(例)
| 医薬品名 | Tmax | 医薬品名 | Tmax |
|---|---|---|---|
| ボルタレンサポ25㎎ | 0.81±0.28時間 | ボルタレン錠 | 2.72±0.55時間 |
| アンヒバ坐剤 | 1.60±0.16時間 | カロナール錠200㎎ | 0.46±0.19時間 |
| ダイアップ坐剤 | 1.5時間 | セルシン錠2㎎ | 0.89±0.14時間 |
| ナウゼリン坐剤 | 2時間 | ナウゼリン錠 | 0.5時間 |
「坐薬=速い」ではなく、薬によるというのが正しい理解です。
◆坐薬の本当のメリット
メリット
・嘔吐や水分摂取困難でも投与できる
・意識障害・けいれん時にも使用可能
・胃腸に負担をかけない
・呑み込みが困難な高齢者にも有用
つまり、坐薬は速効性ではなく、投与可能性の高さが最大の利点なのです。
挿入した坐薬が「出てしまった」場合の対応
◆その坐薬、吸収された? されていない?
状態と対応
・原型のまま出てきた:再挿入可能。抵抗あれば新しい薬を使用
・溶けて崩れていた:吸収開始している可能性あり。すぐ再挿入しない
新しいものを入れるか迷ったら、症状を観察し、必要なら追加が基本。
◆薬剤別の判断目安
●アンヒバ(アセトアミノフェン)
投与後30分以内に体温低下
→ 30分様子を見て、必要なら再挿入
●ダイアップ(ジアゼパム)
15〜30分で有効血中濃度に到達
→ 30分以上経過していれば再挿入しない
●ナウゼリン
目安が明確に決められていないが、1時間以上経過していれば吸収が始まっている可能性があるため、症状を見ながら判断する。
まとめ:坐薬と飲み薬の使い分け
◆速く効かせたいなら、経口薬のほうが有利な場合がある
・ナウゼリン:経口の方が速く効く
・アンヒバ・ダイアップも同様のことが多い
◆坐薬の本当の強みは「投与可能性」
・嘔吐
・経口摂取拒否
・けいれん
・意識障害
・高齢者介護
◆坐薬+飲み薬の併用は原則NG(ナウゼリン)
・最低 7〜8時間空ける
【結論】「坐薬=早く効く」は誤り
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 速く効くから坐薬を使う | 飲めないときに使う |
| 坐薬は少ない量で効く | 経口の方が少なくて済むこともある(ナウゼリンなど) |
| 坐薬は即効性 | 薬によって異なる |
坐薬は、速効性ではなく、投与できる状況の幅の広さこそがメリットなのです。
薬剤師として、患者さんへの説明でも、
「速く効く」というイメージではなく、
「飲めない時の選択肢」として伝えていくことが重要です。





1 件のコメント
なぜナウゼリン坐薬よりナウゼリン錠内服のほうが早く効くのでしょうか?