2025年6月19日更新.2,502記事.

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ゼップバウンド皮下注アテオスとマンジャロ皮下注アテオスの違い

ゼップバウンド皮下注アテオスとマンジャロ皮下注アテオスの違いとは?

近年、GLP-1受容体作動薬を中心とした「肥満症治療薬」や「糖尿病治療薬」が次々と登場しています。その中でも、2025年に新たに日本国内で承認された『ゼップバウンド皮下注アテオス』は、これまでのGLP-1受容体作動薬とは異なる特徴を持つ注目の薬剤です。

一方で、すでに糖尿病治療薬として使用されている『マンジャロ皮下注アテオス』も、実は同じ成分(チルゼパチド)で構成されています。

今回は、この2剤の違いを中心に、勉強していきます。

成分は同じ、適応症が違う

ゼップバウンド(Zepbound)とマンジャロ(Mounjaro)は、いずれも有効成分はチルゼパチド(tirzepatide)です。しかし、それぞれで承認されている適応症が異なります。

・マンジャロ皮下注アテオス:2型糖尿病治療薬
・ゼップバウンド皮下注アテオス:肥満症治療薬(生活習慣病治療の新たな選択肢)

どちらも同じペン型デバイス「アテオス」製剤として販売されています。

チルゼパチドの作用機序:GIP/GLP-1デュアル作動薬

チルゼパチドは、既存のGLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)とは少し異なり、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体とGLP-1受容体の両方に作用します。

・GLP-1受容体刺激:インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出遅延、食欲抑制
・GIP受容体刺激:インスリン分泌促進、脂肪代謝改善、体重減少効果への補助的役割

この “デュアル作動” という新しい機序によって、チルゼパチドは糖尿病治療だけでなく体重減少にも強い効果を発揮する特徴があります。

マンジャロ(糖尿病治療薬)としての位置づけ

マンジャロは、2023年に2型糖尿病治療薬として日本国内で承認されました。使用対象は2型糖尿病患者であり、血糖コントロール改善とともに体重減少も期待できる薬剤として注目されています。

<用量設定>
・初回:2.5mg 週1回皮下注
・以後4週ごとに増量(5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、最大15mg)
・通常維持量は5〜15mg

ゼップバウンド(肥満症治療薬)としての新たな承認

ゼップバウンドは2024年、日本国内で肥満症治療薬として新たに承認されました。対象は以下のようなBMI基準を満たす肥満症患者です。

<適応基準>
・BMI 27以上で肥満に関連する併存疾患がある場合
・BMI 30以上(併存疾患がなくても適応)

<用量設定>
・マンジャロと同様に2.5mgから開始し、段階的に増量(最大15mgまで)

つまり用法・用量は基本的にマンジャロと同じですが、適応症が異なる点が最大の違いです。

なぜ適応が分かれているのか?

・日本国内の薬事制度では「疾患ごとに別薬として承認・薬価収載される」のが一般的です。
・糖尿病用のマンジャロでは、血糖改善を一次評価項目とした臨床試験結果をもとに承認。
・肥満症用のゼップバウンドでは、体重減少を一次評価項目とした大規模国際臨床試験(SURMOUNT試験)をもとに承認。

つまり、臨床試験の設計と評価項目の違いが、別製品としての位置付けを生み出しています。

ゼップバウンドが注目される理由

ゼップバウンドの登場によって、日本国内でもGLP-1系肥満治療薬が本格的に承認された初の事例となりました。

これまでGLP-1系肥満治療薬としてはウゴービ(セマグルチド皮下注)が先行承認されていますが、ゼップバウンドはウゴービとは異なるGIP/GLP-1デュアル作用を持ち、より強い体重減少効果が期待されています。

米国では既に大きな社会的インパクトが生まれており、ゼップバウンドによる大幅な減量成功例が多数報告されています。

ウゴービ・オゼンピックとの比較

製品名成分主な適応作用機序用量
ゼップバウンドチルゼパチド肥満症GIP/GLP-1デュアル最大15mg/週
マンジャロチルゼパチド2型糖尿病GIP/GLP-1デュアル最大15mg/週
ウゴービセマグルチド肥満症GLP-1単独最大2.4mg/週
オゼンピックセマグルチド2型糖尿病GLP-1単独最大1mg/週 (※肥満では使用外適応)

※この表からも分かる通り、チルゼパチド製剤は肥満症にも糖尿病にも使われる可能性を秘めていますが、日本では用途ごとに薬剤名が区別されています。

薬価の違いと保険適用

現時点(2025年時点)で、ゼップバウンドとマンジャロは薬価も分かれて収載されています。ただし、用量ごとの単価は非常に高額であり、保険適用の審査も厳格です。

また、肥満症の保険適用に関しては、生活習慣病対策としての有用性が認められつつある一方で、適正使用指針が設けられる見通しです。

■今後の展望
・チルゼパチドの登場で「糖尿病治療」と「肥満治療」の境界が曖昧になりつつあります。
・海外では心血管疾患リスク低下や脂肪肝改善への効果も報告され、さらなる適応拡大が期待されています。
・日本でも、生活習慣病全体のマネジメント薬として普及が広がる可能性があります。

まとめ

ゼップバウンド皮下注アテオスとマンジャロ皮下注アテオスは、成分は同一(チルゼパチド)だが、適応症・治療対象が異なる薬剤です。治療現場では「糖尿病か肥満症か」の診断区分が重要となりますが、どちらも生活習慣病領域の新たな切り札として大きな注目を集めています。

今後、GLP-1系薬剤は糖尿病や肥満症だけでなく、幅広い疾患予防・健康増進に応用される時代が到来するかもしれません。

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