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オレキシンと眠気と食欲
公開. 更新. 投稿者:睡眠障害.この記事は約4分56秒で読めます.
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オレキシンと眠気・食欲の関係

現代人の多くが抱える「眠れない」「食べすぎる」といった悩み。その裏には、脳内で働く神経伝達物質「オレキシン(別名:ヒポクレチン)」の存在があります。
オレキシンは、視床下部の外側野(lateral hypothalamus)で作られる神経ペプチドです。覚醒状態を維持したり、食欲を刺激したりする重要な役割を担っています。
発見当初は「摂食に関連する物質」として注目されましたが、現在では睡眠と覚醒の制御にも深く関与していることが明らかとなり、特に「ナルコレプシー」という日中の強烈な眠気を特徴とする疾患との関係でも知られています。
オレキシンと食欲のメカニズム
私たちが「おいしい!」と感じたとき、脳内ではさまざまな神経化学的反応が起こっています。具体的な流れは次のとおりです:
・食べ物の視覚・嗅覚刺激により、βエンドルフィンが分泌され、快楽を感じる
・報酬系が活性化され、ドパミンが分泌→摂食中枢が刺激される
・摂食中枢からオレキシン・ニューロペプチドYが分泌され、さらに食欲が高まる
・甘いものや高カロリーなものを欲する傾向が強くなる
・消化管運動が促進される
このように、オレキシンは単に「食欲を起こす」だけでなく、食べ物の魅力を高め、消化吸収まで効率的に促進することで、エネルギー摂取の最適化に寄与しているのです。
満腹感と食欲抑制ホルモン
食事を続けていくと、以下のようなホルモンの働きによって満腹感が得られます:
・インスリン(膵臓):血糖値の上昇に応じて分泌
・レプチン(白色脂肪細胞):脂肪の蓄積量に応じて分泌され、長期的に食欲を抑える
・GLP-1(消化管):食後に分泌され、胃排出を抑制しつつ満腹感を促進
・セロトニンやヒスタミン(中枢神経):満足感や沈静化を促す
これらのホルモンは、オレキシンによって高まった摂食行動にブレーキをかける役割を果たしており、摂食と満腹のバランスはオレキシンとそれ以外の食欲抑制因子とのせめぎあいによって調整されています。
ストレスとオレキシンの関係
ストレスと食欲の関係も複雑です。セロトニンの分泌が一時的に増加すると、摂食中枢が抑制され、一時的に食欲は低下します。しかし、ストレスが慢性化すると、
・副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が増加
・交感神経が活性化し、脂肪分解が促進
・血中遊離脂肪酸の増加により摂食欲求が高まる
さらに、セロトニンの枯渇が起こると摂食抑制が効かなくなり、「ヤケ食い」や「過食症状」につながることもあります。オレキシンの作用も相まって、ストレス下では本来の食欲調整メカニズムが乱れやすくなります。
オレキシンと眠気のメカニズム
オレキシンのもう一つの重要な働きが、「覚醒状態の維持」です。オレキシンは脳幹部の覚醒中枢(青斑核・背側縫線核・結節乳頭体など)を刺激し、眠気を抑え、日中の集中力や認知機能を高めます。
しかし、オレキシンの分泌が低下すると、
・覚醒の維持が困難になり、強い眠気が出現
・ナルコレプシーの発症につながる
オレキシンの分泌は食欲や血糖値、ストレス、体内時計の影響を受けて変動するため、生活習慣の乱れはそのまま眠気・だるさに直結するのです。
メラトニンとオレキシン
メラトニンは「夜を知らせるホルモン」として知られ、夕方から夜間にかけて分泌が増加します。これは松果体から分泌され、交感神経の働きを弱め、副交感神経を優位にし、身体を休息状態に導きます。
メラトニンとオレキシンの関係は拮抗的です:
・朝→ 光刺激でメラトニンが抑制され、オレキシンが活性化 → 覚醒モードへ
・夜→ メラトニンが増加し、オレキシンの活性が低下 → 眠気が訪れる
この切り替えはサーカディアンリズム(体内時計)に依存しており、光環境や生活リズムが乱れると両者の分泌も狂いやすくなります。
ブルーライトと現代型不眠
夜間のスマートフォンやPCの使用による「ブルーライト暴露」は、メラトニンの分泌を強く抑制します。
ブルーライトは波長380〜495nmの青色光で、視交叉上核から松果体への光情報を介し、「まだ昼間である」と誤認させ、体内時計を後ろ倒しにします。
これにより、
・メラトニン分泌のタイミングが遅れる
・オレキシンの抑制が起こらず、覚醒状態が長引く
・結果として寝つきが悪くなる、夜中に目が覚める
という悪循環に陥るのです。
不眠と生活リズム
現代型の不眠では、
・就寝時刻へのこだわり
・寝床にいる時間が長すぎる
・寝る直前のスマホ使用(ブルーライト)
などがオレキシンやメラトニンの分泌リズムを乱し、眠気を妨げます。寝る直前の強い光刺激(特にブルーライト)は、メラトニンの分泌を抑制し、結果としてオレキシンの抑制もうまくいかず、睡眠の質が悪化するのです。
オレキシンは“起きて食べて動く”を支える神経物質
オレキシンは、
・食欲を刺激しエネルギー摂取を促す
・覚醒を維持し、日中の活動を支える
という2つの側面を併せ持つ非常にユニークな神経ペプチドです。
一方で、その働きが過剰あるいは不足することで、不眠・過眠・過食・無気力といったトラブルに発展することもあります。
睡眠と食欲は密接に関わり合っています。どちらか一方の乱れが、もう一方を狂わせることもしばしば。生活リズムや食習慣、ストレス管理を整えることが、オレキシンを正常に働かせ、質の良い眠りと健全な食欲を保つ第一歩となるのです。