2025年5月31日更新.2,484記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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薬歴に前回Doはダメ?

薬歴って、何のために書くの?

調剤薬局で働く薬剤師にとって、薬歴(薬剤服用歴管理指導記録)を書くことは避けられない日常業務のひとつです。

しかし、「薬歴は業務の足かせ」「どうせ誰も見ていない」など、薬歴記載を単なる“ルーティン”として考える風潮もあります。

特によく見られるのが、「前回と同じだから今回も同じ対応で」という“前回Do”の繰り返し記載。
この表現、薬局内では「薬歴あるある」として語られる一方で、指導や監査の現場では「それじゃダメ」と指摘されることも多いのです。

ではなぜ、“前回Do”ではダメなのでしょうか?
その理由を深掘りし、薬歴が本来果たすべき役割について考えていきます。

「SOAP」形式の基本をおさらい

薬歴の記載には、「SOAP」形式が推奨されています。

・S(Subjective):患者の主観的情報(訴え、症状、気になることなど)
・O(Objective):薬剤師が確認した客観的情報(処方内容、検査値、服薬状況など)
・A(Assessment):SとOに基づいた評価
・P(Plan):今後の対応方針、指導、提案

このうち“P”は、まさに「薬剤師が考えて行動したこと」の記録。
にもかかわらず、Pに「前回DO」とだけ書いて済ませてしまうのは、その場で思考することを放棄している状態とも言えます。患者の状態や背景に変化があっても、それを見落とす危険があり、薬剤師の役割が“作業者”にとどまってしまうリスクもあります。

「前回Do」の何が問題なのか?

〇患者の変化を無視する記録になっている:
「前回と同じ」で済ませるということは、本当に患者の状態が前回と同じなのかを確認していない可能性があります。

例えば:
・前回:副作用なし → 今回:実は軽い倦怠感が出ていた
・前回:自己注射に問題なし → 今回:針の使い方を誤っていた

“前回と同じ”と記録したことで、こうした変化を見逃してしまうことになります。

〇薬剤師としての“思考”が記録されていない:
薬歴は、ただの“メモ”ではなく、薬剤師の判断と行動を記録するためのものです。

“前回Do”という記載では、なぜ同じ指導を継続したのか、その評価が示されていません。

「患者の訴えや検査値に変化がなく、継続が妥当と判断した」
「服薬アドヒアランスが安定していることを確認した上で、前回と同じ内容を復習した」

このように、「なぜ今回も同じことをしたのか」という理由が記録されて初めて薬歴になるのです。

監査や指導での指摘ポイント

行政の個別指導や薬局監査では、薬歴の内容がチェックされますが、単なるDoの繰り返しは次のように評価されることがあります:

「記録の形式は整っているが、内容が薄い」
「患者の状態に対する評価がない」
「他者が見て参考にならない薬歴」

特に「思考の軌跡」が残っていないと判断された薬歴は、患者対応の実態を裏付けるものとして機能しないため、薬剤服用歴管理指導加算の算定根拠としても弱くなってしまいます。

なぜ“Doだけ”になってしまうのか?

これは多くの薬剤師が経験する問題です。

● 時間的余裕のなさ
1人薬剤師で複数処方せんを処理していると、つい薬歴は「最低限の義務」になってしまいがちです。

● SOAP形式に慣れていない
形式としては知っていても、実際にはO→Doだけで終わってしまうケースが少なくありません。

● 記録を“未来のため”に残していない
薬歴を「自分のため」「次の薬剤師のため」という意識ではなく、「その場しのぎ」で書いていると、内容が薄くなります。

どうすれば“前回Do”でも価値ある薬歴になるか?

完全に“前回と同じ”対応をした場合でも、それを記録する価値はあります。ただし、その際は次のようなポイントを押さえることで、「薬剤師の思考を示す薬歴」に変わります。

【例1】
P:前回より継続服用中。副作用・体調変化なしを確認。患者の理解良好のため、前回指導内容を復習。

→ ただの「前回と同じ」ではなく、継続の妥当性を評価した上でのDoであることが伝わる。

【例2】
A:服薬アドヒアランス良好、投薬後の血圧安定。服薬支援の維持が重要。
P:生活指導の再確認と服薬継続の重要性を前回同様に指導。

→ アセスメントとリンクしており、PがAから導かれている。

「記録は次の薬剤師のため」という視点

薬歴は単なる記録ではなく、次回対応への情報の橋渡しです。別の薬剤師が次回服薬指導を行うときに、前回の薬歴から次の一手を考えるヒントが得られなければ、記録の意味がありません。

「この薬歴を読んで、次に何を確認すべきかわかるか?」
「前回との違いを意識して、今回の対応を考える材料になるか?」

これを意識するだけで、薬歴の質は大きく変わります。

薬歴は“患者の物語”を記録するもの

医療現場では、SOAPを拡張した「SOAPIER」などの形式もありますが、どの形式でも共通して求められるのは“患者の状態変化に薬剤師がどう関与したか”というストーリーです。

単なるDoの繰り返しでは、物語が展開しません。

・どんな症状があって
・どう対応し
・何を評価し
・今後どうするか

この流れが1件の薬歴に組み込まれていれば、それは立派な「記録」です。

まとめ ―「前回Do」=ダメ、ではない。ただし“思考”を残そう

・“前回Do”は使い方次第で価値がある
・重要なのは、「今回も同じDoをした理由」の記録
・薬歴は、薬剤師の“思考の軌跡”であり、未来の業務のための資産
・薬歴の厚みは、患者との関係性の深さにも直結する

薬歴を書くことは、業務の一環ではありますが、同時に自分の仕事を可視化する行為でもあります。
たった一文のDoでも、「なぜそれを行ったか」を明記すれば、そこには薬剤師としての判断力と責任感がにじみ出ます。

次に薬歴を書くとき、ほんの少しだけ“考えた証”を残してみませんか?

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職業:薬剤師
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