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糖尿病治療薬はどこに効く?―膵臓・肝臓・筋肉・腸・腎臓から考える
公開. 更新. 投稿者: 24 ビュー. カテゴリ:糖尿病.この記事は約6分16秒で読めます.
目次
糖尿病治療薬の作用部位

糖尿病治療薬には、SU薬、DPP-4阻害薬、ビグアナイド薬、SGLT2阻害薬など、多くの種類があります。
薬効分類だけを覚えようとすると、それぞれの違いがわかりにくくなります。
そこで、「なぜ血糖値が上がるのか」というところから考えてみます。
血糖値は、単純に「食べた糖が血液中に入る」だけで決まっているわけではありません。
大まかには、
腸から糖が入ってくる
↓
膵臓が血糖上昇を感知してインスリンを出す
↓
肝臓が糖の放出を抑える
↓
筋肉や脂肪組織が糖を取り込む
↓
腎臓では糖をできるだけ尿に捨てないように回収する
という複数の臓器の働きによって血糖値が調節されています。
糖尿病では、この仕組みのどこか一つではなく、いくつもの場所に異常が生じています。
糖尿病治療薬は、それぞれ異なる場所からこの異常を修正していると考えるとわかりやすいです。
膵臓―インスリンを出す
膵臓は、血糖値を調節する「センサー」のような役割を持っています。
食事によって血糖値が上昇すると、膵臓のβ細胞がそれを感知してインスリンを分泌します。
インスリンはいわば、
「血液中に糖が増えたので、糖を取り込んでください」
という指令です。
このインスリンの作用によって、筋肉などへの糖の取り込みが促進され、肝臓からの糖の放出が抑えられます。
2型糖尿病では、膵β細胞から十分なインスリンを分泌できなくなる「インスリン分泌不全」が起こります。
そこで、膵臓からのインスリン分泌を増やす薬が使われます。
代表的なのが、
- SU薬
- グリニド薬
- DPP-4阻害薬
- GLP-1受容体作動薬
です。
SU薬やグリニド薬は、膵β細胞に直接働いてインスリン分泌を促進します。
一方、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、インクレチンの作用を利用して、血糖値が高いときのインスリン分泌を促進します。
そのため、同じ「インスリンを出す薬」でも作用の仕方は異なります。
肝臓―糖を作って血液中に供給する
肝臓は「糖の貯蔵庫」であると同時に、「糖を作る工場」でもあります。
食後にはブドウ糖をグリコーゲンとして蓄え、空腹時にはグリコーゲンを分解してブドウ糖を血液中に放出します。
さらに、乳酸やアミノ酸、グリセロールなどから新しくブドウ糖を作る「糖新生」も行います。
健康な状態では、インスリンが肝臓に働くことで、食後には糖新生や糖の放出が抑えられます。
ところが2型糖尿病では、肝臓でインスリンが効きにくくなります。
つまり、
「血糖値は十分高いから、もう糖を作らなくていい」
というインスリンの指令が効きにくくなり、肝臓から必要以上に糖が供給されてしまいます。
この肝臓からの糖の供給を抑える代表的な薬がビグアナイド薬のメトホルミンです。
メトホルミンは肝臓での糖新生を抑制する作用を中心として血糖値を低下させます。
特に空腹時血糖を考えるうえでは、食事から入ってくる糖だけでなく、肝臓がどれだけ糖を作っているかという視点が重要になります。
筋肉―血液中の糖を使う
骨格筋は、体内でブドウ糖を利用する大きな組織です。
食後にインスリンが分泌されると、筋肉ではGLUT4という糖輸送体が細胞膜へ移動し、血液中のブドウ糖を細胞内へ取り込みます。
ところが2型糖尿病では、インスリンが存在していても筋肉が十分反応しない「インスリン抵抗性」が生じます。
つまり、
膵臓からインスリンという指令は出ているのに、筋肉がその指令を聞いてくれない
状態です。
インスリン抵抗性を改善する代表的な薬がチアゾリジン薬です。
チアゾリジン薬はPPARγを活性化し、主として脂肪組織を介してインスリン抵抗性を改善します。その結果、骨格筋や肝臓でインスリンが効きやすくなります。
メトホルミンにも末梢組織でのインスリン感受性を改善する作用があります。
したがって、
膵臓=インスリンを出す側
筋肉・肝臓・脂肪組織=インスリンを受け取って反応する側
と考えると、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の違いが理解しやすくなります。
腸―食べた糖が入ってくる入口
食事に含まれる炭水化物は、そのままでは吸収できません。
小腸で消化酵素によって単糖まで分解され、ブドウ糖などとして体内へ吸収されます。
この糖の吸収を遅らせるのが、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)です。
α-GIは小腸のα-グルコシダーゼを阻害して糖質の消化・吸収を遅らせます。
糖を体外へ捨てるというより、
「糖が一気に血液中へ入ってくるのを遅らせる薬」
と考えるとよいでしょう。
そのため、特に食後の急激な血糖上昇を抑えるのに適しています。
また、腸は単なる糖の吸収場所ではありません。
食事をすると小腸からGLP-1やGIPといった「インクレチン」が分泌されます。
インクレチンは膵臓に働いて、血糖値に応じたインスリン分泌を促進します。
DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は膵臓に作用する薬として分類できますが、「腸から膵臓への情報伝達を利用した薬」と考えることもできます。
腎臓―糖を尿に捨てずに回収する
腎臓も血糖値に大きく関係しています。
血液中のブドウ糖は腎臓の糸球体でいったん濾過されますが、その大部分は近位尿細管から再吸収され、血液中へ戻されます。
この再吸収に重要なのがSGLT2です。
SGLT2阻害薬は、このSGLT2を阻害することでブドウ糖の再吸収を抑え、尿中へ糖を排泄させます。
他の糖尿病治療薬とは発想がかなり違います。
「インスリンを増やす」のでも「インスリンを効きやすくする」のでもなく、余分な糖を尿から捨てる
という薬です。
そのため、血糖降下作用がインスリン作用に直接依存しないことも大きな特徴です。
脂肪組織―インスリン抵抗性に関係する
脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。
特に内臓脂肪が増加すると、遊離脂肪酸やさまざまな生理活性物質の影響によって、肝臓や筋肉のインスリン抵抗性が悪化します。
そのため肥満は、
脂肪組織
↓
インスリン抵抗性
↓
筋肉が糖を取り込みにくい
+
肝臓が糖を作り続ける
↓
高血糖
という形で糖尿病につながります。
チアゾリジン薬はPPARγに作用して脂肪細胞の機能を変化させ、アディポネクチン増加などを介してインスリン抵抗性を改善します。
したがって「筋肉に効く薬」とだけ説明するより、脂肪組織に作用した結果として、筋肉や肝臓のインスリン感受性を改善する薬と理解したほうが正確です。
ミトコンドリア―細胞のエネルギー代謝を改善する
さらに新しい視点として、細胞内の「ミトコンドリア」があります。
ミトコンドリアは、ブドウ糖や脂肪酸などから細胞が利用するエネルギーを作る場所です。
2型糖尿病では、このミトコンドリアの機能異常も糖代謝異常に関係していると考えられています。
ミトコンドリア機能改善薬の、イメグリミン(ツイミーグ)は、ミトコンドリアへの作用を介して糖代謝を改善します。
特徴的なのは、一つの臓器だけを標的にするのではないことです。
膵β細胞では血糖値に応じたインスリン分泌を改善し、肝臓や骨格筋などでは糖代謝を改善することで血糖降下作用を示すと考えられています。
つまり、
膵臓からの「指令を出す力」と、末梢組織での「糖を処理する力」の両方を改善する
というイメージです。
糖尿病治療薬を「どこに効くか」で整理する
ここまでを大まかにまとめると、次のようになります。
| 場所 | 糖尿病で起こっていること | 主な治療薬 |
|---|---|---|
| 膵臓 | インスリンを十分出せない | SU薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬 |
| 肝臓 | 糖を作りすぎる・放出しすぎる | メトホルミン |
| 筋肉 | 糖を取り込みにくい | チアゾリジン薬、メトホルミンなど |
| 脂肪組織 | インスリン抵抗性を悪化させる | チアゾリジン薬 |
| 腸 | 食事由来の糖を吸収する | α-GI |
| 腸→膵臓 | インクレチンによる血糖調節 | DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬 |
| 腎臓 | 糖を再吸収して血液に戻す | SGLT2阻害薬 |
| ミトコンドリア | エネルギー代謝などの異常 | イメグリミン |
もちろん実際の薬は複数の臓器に作用するため、「この薬はこの臓器だけに効く」と完全に分けることはできません。
しかし糖尿病を、
① 糖が入ってくる
② インスリンを出す
③ 肝臓から出る糖を抑える
④ 筋肉などで糖を使う
⑤ 余った糖を腎臓から排泄する
という「糖の流れ」として考えると、多くの糖尿病治療薬の作用機序を一つのストーリーとして理解できます。
糖尿病治療薬は種類を丸暗記するよりも、「血糖値が上がる原因のどこを、この薬は修正しているのか」と考えると、それぞれの違いが見えてきます。



