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太る薬一覧―薬を飲んで体重が増えるのはなぜ?
公開. 更新. 投稿者: 164 ビュー. カテゴリ:栄養/口腔ケア.この記事は約9分53秒で読めます.
目次
太る薬

「この薬を飲み始めてから太った気がする」
患者さんから、このように言われることがある。
薬の副作用というと、眠気、便秘、吐き気などを思い浮かべるが、「体重増加」も薬によって起こり得る副作用の一つである。
体重増加を起こすことが知られている薬は意外と多い。
代表的なものには、
- 抗精神病薬
- 抗うつ薬
- 気分安定薬
- 抗てんかん薬・神経障害性疼痛治療薬
- 副腎皮質ステロイド
- インスリン・一部の糖尿病薬
- β遮断薬
- 一部の抗ヒスタミン薬
などがある。
ただし、「太る」といっても、その原因はすべて同じではない。
食欲が増えて食べる量が増える薬もあれば、エネルギー消費を低下させる薬、脂肪を蓄積しやすくする薬もある。また、脂肪ではなく「浮腫」によって体重が増えていることもある。
今回は、薬による体重増加について整理する。
薬を飲んで太るのはなぜ?
薬による体重増加は、大きく分けると次のような原因が考えられる。
1.食欲が増える
薬が中枢神経系に作用し、食欲や満腹感に影響する。
代表的なのが抗精神病薬や一部の抗うつ薬である。
食欲が増したり、甘いものや高カロリー食品を欲しくなったりすることで、摂取エネルギーが増えて体重増加につながる。
2.エネルギー消費が減る
基礎代謝や熱産生が低下したり、眠気や倦怠感によって活動量が減ったりすれば、摂取カロリーが変わらなくても体重が増える可能性がある。
β遮断薬による体重増加には、このような機序が関係すると考えられている。
3.脂肪を蓄積しやすくなる
インスリンには同化作用があり、脂肪の蓄積を促進する。
そのためインスリンそのものだけでなく、インスリン分泌を増加させるSU薬などでも体重増加が起こり得る。
4.水分がたまる
「体重増加=脂肪が増えた」とは限らない。
ピオグリタゾンやプレガバリンなどでは浮腫がみられることがあり、体液量の増加によって体重が増えることがある。
短期間で急激に体重が増えた場合には、単純な肥満ではなく浮腫についても考える必要がある。
太る可能性のある薬一覧
代表的なものをまとめると以下のようになる。
| 薬効群 | 代表的な薬 | 体重増加に関係する主な要因 |
|---|---|---|
| 抗精神病薬 | オランザピン、クロザピン、クエチアピン、リスペリドンなど | 食欲増加、代謝への影響 |
| 抗うつ薬 | ミルタザピン、アミトリプチリン、パロキセチンなど | 食欲増加、鎮静など |
| 気分安定薬 | リチウム、バルプロ酸など | 食欲・代謝への影響 |
| 抗てんかん薬・神経障害性疼痛治療薬 | バルプロ酸、プレガバリン、ガバペンチンなど | 食欲、浮腫など |
| 副腎皮質ステロイド | プレドニゾロンなど | 食欲増加、脂肪分布変化、体液貯留 |
| 糖尿病薬 | インスリン、SU薬、ピオグリタゾンなど | 脂肪蓄積、低血糖回避の摂食、浮腫 |
| β遮断薬 | プロプラノロール、アテノロール、メトプロロールなど | エネルギー消費低下など |
| 抗ヒスタミン薬 | 一部の鎮静性H1受容体拮抗薬 | 食欲増加、鎮静など |
薬剤性体重増加についての2024年のレビューでも、抗精神病薬、三環系抗うつ薬、グルココルチコイド、β遮断薬、抗ヒスタミン薬、インスリン、神経障害性疼痛に使用される薬など、多くの薬剤群が挙げられている。
抗精神病薬は太りやすい
薬剤性体重増加で特に有名なのが抗精神病薬である。
なかでも、
- オランザピン
- クロザピン
は体重増加への影響が大きい薬として知られている。
ほかにもクエチアピン、リスペリドンなどで体重増加がみられることがある。
抗精神病薬による体重増加には、ヒスタミンH1受容体、セロトニン5-HT2C受容体などへの作用を介した食欲・満腹感への影響など、複数の機序が関係すると考えられている。
抗精神病薬・抗うつ薬について検討したシステマティックレビューでは、オランザピンやクロザピンなどを含む複数の抗精神病薬で、臨床的に意味のある体重増加が報告されている。
オランザピンの患者向医薬品ガイドにも、
「体重が増加することがあります」
という注意が記載されている。
抗精神病薬では体重だけでなく、血糖値や脂質などの代謝異常にも注意したい。
抗うつ薬でも太る?
抗うつ薬でも体重増加が問題になることがある。
特に知られているのが、
ミルタザピン
である。
ミルタザピンは食欲増加がみられることがあり、体重増加につながることがある。
また、三環系抗うつ薬ではアミトリプチリン、SSRIではパロキセチンなどが比較的体重増加と関連する薬として挙げられている。
ただし、抗うつ薬による体重変化は薬剤によって異なるうえ、治療期間によっても違ってくる。
うつ状態そのものによって食欲が低下していた患者では、症状の改善とともに食欲が戻り、結果的に体重が増えることもある。
そのため、
「抗うつ薬を飲んだから太った」
と単純には判断できない。
リチウムやバルプロ酸でも体重増加
気分安定薬では、
- 炭酸リチウム
- バルプロ酸
などで体重増加が知られている。
バルプロ酸は気分安定薬としてだけでなく、抗てんかん薬、片頭痛治療などにも使用される。
薬効分類だけで「太る薬」を覚えるよりも、同じ成分が別の疾患にも使われることを意識しておいたほうがよい。
プレガバリンで太る?
リリカ(プレガバリン)でも体重増加が問題になることがある。
PMDAの審査資料では、プレガバリン投与によって体重増加を来すことがあるため、肥満に注意し、特に投与量の増加や長期投与に伴う体重増加に注意する旨が示されている。
プレガバリンでは「浮腫」もみられる。
したがって、
プレガバリンを飲んで体重が増えた=すべて脂肪が増えた
とは限らない。
足のむくみなどを伴っている場合には、体液貯留についても考える必要がある。
ステロイドで太るのはなぜ?
プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドでも体重増加がみられる。
ステロイドによる「太る」は少し複雑で、
- 食欲増加
- 脂質・糖代謝への影響
- 脂肪分布の変化
- ナトリウム・水分貯留
などが関係する。
長期使用では、中心性肥満や満月様顔貌(ムーンフェイス)など、特徴的な脂肪分布の変化がみられることもある。
ステロイドによる体重増加は用量との関連も指摘されている。
糖尿病の治療をすると太ることがある?
糖尿病治療薬は、薬による体重への影響が非常にわかりやすい領域である。
体重増加方向に働く代表的な薬には、
- インスリン
- SU薬
- チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)
がある。
インスリン
インスリン治療を開始すると体重が増えることがある。
インスリンによって血糖を細胞内に取り込みやすくなり、脂肪としてエネルギーを蓄える方向に働くことなどが関係する。
また、治療前に高血糖によって尿中へ失われていたブドウ糖が、血糖改善によって失われなくなることも体重増加につながる。
さらに低血糖を恐れて間食が増える、といった行動面の影響も考えられる。
SU薬
SU薬は膵β細胞からのインスリン分泌を促進するため、体重増加方向に働く。
低血糖への対処や予防として食事量が増えることも影響し得る。
ピオグリタゾン
ピオグリタゾンでは脂肪組織への作用に加えて、体液貯留による体重増加にも注意が必要である。
このため短期間で体重が増え、浮腫や息切れなどを伴う場合には、単なる「太った」という問題として扱わないことが重要である。
β遮断薬を飲むと太る?
意外に思われるかもしれないが、一部のβ遮断薬も体重増加と関連する。
特に、
- プロプラノロール
- アテノロール
- メトプロロール
などが体重増加に関連する薬として挙げられている。
β受容体は心臓だけでなく、脂肪組織やエネルギー代謝にも関係している。
β遮断による熱産生・エネルギー消費への影響や、心拍数低下、運動時のパフォーマンス低下などが複合的に関係すると考えられる。
ただし、すべてのβ遮断薬が同じ程度に体重を増加させるわけではない。
また、高血圧治療で数kg単位の急激な体重増加がみられた場合には、「β遮断薬だから太った」と決めつけず、心不全などによる体液貯留も考える必要がある。
抗ヒスタミン薬でも太る?
ヒスタミンはアレルギー反応だけでなく、中枢神経系では覚醒や食欲の調節にも関係している。
そのため、H1受容体遮断作用を持つ薬では、食欲増加や鎮静による活動量低下が体重増加に関係する可能性がある。
特に鎮静性の強い抗ヒスタミン作用を持つ薬では、この点を意識しておきたい。
ただし、花粉症などに使用する抗ヒスタミン薬を短期間服用しただけで必ず太る、という話ではない。
「太る」と「むくむ」は分けて考える
薬剤師として特に重要なのはここだと思う。
患者さんから、
「この薬を飲み始めてから3kg太った」
と言われたとき、それだけでは原因はわからない。
例えば、
数か月かけて食欲が増えて3kg増えた
のであれば脂肪増加を疑いやすい。
一方、
1週間で3kg増えて足がむくんできた
のであれば、体液貯留を疑う必要がある。
薬剤性の体重増加をみるときには、
「何kg増えたか」だけでなく「どのくらいの期間で増えたか」
を確認したい。
さらに、
- 食欲が増えていないか
- 間食が増えていないか
- 運動量が減っていないか
- 足や顔がむくんでいないか
- 息切れがないか
- 薬の開始・増量時期と一致しているか
などを確認すると原因を絞り込みやすい。
太るから薬をやめてもいい?
もちろん自己判断で中止してはいけない。
抗精神病薬、抗うつ薬、ステロイド、β遮断薬、抗てんかん薬などには、急に中止することが望ましくない薬も多い。
「太ったから飲みたくない」
という患者さんに対しては、まず体重増加が本当に薬によるものなのかを評価する。
そのうえで必要に応じて、
- 食事・運動の見直し
- 定期的な体重測定
- 血糖・脂質などの確認
- 浮腫の有無の確認
- 投与量の検討
- 体重への影響が比較的小さい薬への変更
などを医師と検討することになる。
特に抗精神病薬・抗うつ薬では、治療開始前から体重や代謝リスクを評価し、その後も定期的にモニタリングすることが推奨されている。
「太る薬」と「痩せる薬」
興味深いのは、同じ疾患に使われる薬でも体重への作用が反対になることがある点である。
糖尿病薬がわかりやすい。
体重増加方向
インスリン、SU薬、ピオグリタゾン
比較的体重中立
メトホルミン、DPP-4阻害薬など
体重減少方向
GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など
また神経系の薬でも、プレガバリンやバルプロ酸などが体重増加方向に働く一方、トピラマートなどは体重減少方向に働くことが知られている。
つまり、「薬を飲むと太る・痩せる」という現象は単なる副作用ではなく、その薬が食欲、エネルギー代謝、糖代謝、脂肪組織、体液量にどのように作用するかを反映しているともいえる。
まとめ
「太る薬」は意外と多い。
特に注意したいのは、
- オランザピン、クロザピンなどの抗精神病薬
- ミルタザピンなどの抗うつ薬
- リチウム、バルプロ酸
- プレガバリン
- プレドニゾロンなどのステロイド
- インスリン、SU薬、ピオグリタゾン
- 一部のβ遮断薬
などである。
ただし、「薬で太る」と一括りにしてはいけない。
食欲が増えるのか、エネルギー消費が減るのか、脂肪を蓄積しやすくなるのか、それとも水分がたまっているのか。
この違いによって、患者さんへの説明や対応も変わってくる。
特に短期間で急激に体重が増えた場合には、「薬の副作用で太っただけ」と考えず、浮腫や心不全などが隠れていないか確認する必要がある。
患者さんから「この薬、太りますか?」と聞かれたときには、単に「太ることがあります」と答えるのではなく、どのような仕組みで体重が増える可能性があるのかまで説明できると、より適切な服薬指導につながる。



