記事
ジプレキサの用法は「就寝前」?
公開. 更新. 投稿者: 46 ビュー. カテゴリ:未分類.この記事は約4分12秒で読めます.
目次
ジプレキサの用法は「就寝前」?― 双極性障害のうつ症状だけ投与時間が指定されている理由

ジプレキサ(一般名:オランザピン)の添付文書を読んでいて、
「あれ?」と手が止まったことはないでしょうか。
統合失調症、双極性障害の躁症状、制吐目的――
いずれも 「1日1回投与」 と書かれているだけなのに、
双極性障害におけるうつ症状の改善 だけは、はっきりとこう書かれています。
なお、いずれも就寝前に投与することとし……
なぜ、双極性障害の「うつ」だけ、
投与タイミングがここまで明確に指定されているのでしょうか。
・添付文書の用法の違い
・オランザピンの薬理作用
・双極性うつの病態
・臨床試験と承認の背景
・薬剤師としての服薬指導の考え方
をつなげながら、
「就寝前」と明記された本当の理由を整理していきます。
ジプレキサの用法・用量をあらためて整理する
まずは添付文書上の用法を並べてみます。
■ 統合失調症
・初期:5~10mgを1日1回
・維持:10mgを1日1回
・1日量:最大20mg
投与時間の指定なし
■ 双極性障害における躁症状の改善
・10mgを1日1回で開始
・最大20mgまで調整
投与時間の指定なし
■ 双極性障害におけるうつ症状の改善
・5mgを1日1回で開始
・10mgへ増量
・いずれも就寝前投与
ここだけ明確に「就寝前」
■ 抗がん剤投与に伴う悪心・嘔吐
・5mgを1日1回(他剤併用)
・最大10mg
投与時間の指定なし
この並びを見ると、
双極性うつだけが明らかに特殊であることがわかります。
「眠くなるから夜」だけでは説明しきれない
ジプレキサ=眠くなる
これは多くの医療者が共通して持っている印象でしょう。
実際、オランザピンは
H1受容体遮断作用が非常に強い抗精神病薬です。
しかし、
・統合失調症でも眠くなる
・躁状態でも眠くなる
・制吐目的でも眠くなる
のに、
なぜ双極性うつだけが就寝前指定なのか?
単なる「副作用対策」では説明が足りません。
鍵は「鎮静作用の位置づけの違い」
ここで重要なのは、
鎮静作用が「副作用」なのか、「治療効果の一部」なのか
という視点です。
● 統合失調症・躁状態の場合
・鎮静は 副次的作用
・興奮や不穏があれば「むしろ助かる」
・日中の鎮静も治療上許容される
投与時間を固定する必要がない
● 双極性障害のうつ状態の場合
もともと
・倦怠感
・日中の眠気
・活動性低下
が強い
ここに日中の鎮静が加わると
・さらに動けなくなる
・QOLが下がる
・服薬継続が困難になる
鎮静は「夜だけ」欲しい
この違いが、
「就寝前」という指定につながっています。
双極性うつと「睡眠」は切っても切れない
双極性障害のうつ状態では、
睡眠が単なる症状ではなく、病態そのものに深く関わります。
・入眠困難
・中途覚醒
・日内変動(夕方~夜に悪化)
・睡眠リズムの乱れが気分波動を助長
つまり、
睡眠を整えること自体が治療
という側面が強いのです。
オランザピンは、
・強い鎮静作用
・睡眠維持の改善
・不安・焦燥の緩和
を同時に起こします。
これを就寝前に集中させることで、
「眠れる → 翌日が少し楽になる」
という治療設計が成立する
臨床試験が「就寝前投与」で行われたという事実
もう一つの大きな理由が、
承認の根拠となった臨床試験の設計です。
双極性障害のうつ症状に対するオランザピンの試験では、
・5mg就寝前投与で開始
・10mg就寝前へ増量
・日中投与は行わない
という形で有効性・安全性が評価されています。
日本の添付文書は原則として、
エビデンスがある用法・用量をそのまま記載する
ため、
「就寝前投与」が
推奨ではなく「用法」として固定されました。
では、なぜ躁状態では指定されないのか?
躁状態では、
・不眠
・興奮
・易刺激性
・活動性亢進
が前面に出ます。
この場合、
・日中の鎮静も治療的
・むしろ「いつ飲んでもいいから効かせたい」
・眠気よりも症状コントロールが優先
投与時間を縛るメリットが少ない
そのため、
あえて「就寝前」とは書かれていないのです。
制吐目的で「就寝前」にならない理由
抗がん剤の悪心・嘔吐に対する使用では、
・他の制吐剤と併用
・悪心は日中にも起こる
・鎮静は主目的ではない
という事情があります。
「眠らせる薬」ではなく
「吐き気を抑える補助薬」
として使うため、
投与時間の固定は不要と判断されています。
服薬指導でどう説明するか
患者さんや家族から、
「なんで夜に飲むんですか?」
「朝じゃダメですか?」
と聞かれたとき、
単に「眠くなるからです」と答えるのは不十分です。
使える説明例
「このお薬は、夜の睡眠を整えることも治療の一部になっています。
日中に眠くならないように、あえて寝る前に飲むよう決められているんですよ」
この一言で、
・就寝前指定の意味
・服薬意義
・日中の眠気への不安
を同時にカバーできます。
薬剤師視点でのまとめ
・ジプレキサの「就寝前」指定は
副作用対策ではなく治療設計
・双極性うつでは
鎮静作用=治療効果の一部
・日中の過鎮静を避け、
睡眠改善を最大化するための用法
・臨床試験に基づく
エビデンス由来の指定
添付文書の一文には、
病態理解と治療戦略が凝縮されている
おわりに
添付文書の「就寝前」という一言は、
流し読みすると見逃してしまいがちです。
しかし、その背景をたどると、
・病態
・薬理
・臨床試験
・QOL配慮
がきれいにつながって見えてきます。
「なぜ?」を掘り下げられるのは、薬剤師の強み。
服薬指導や疑義照会の質を一段上げる視点として、
ぜひ活用してみてください。




