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狭心症治療薬の一覧
公開. 更新. 投稿者:狭心症/心筋梗塞.この記事は約5分12秒で読めます.
5,840 ビュー. カテゴリ:狭心症治療薬の一覧
分類 | 商品名 | 一般名 | 剤形・規格 | |
硝酸薬(速効性) | ニトロールスプレー | 硝酸イソソルビド | スプレー1.25㎎ | |
ニトロール錠(舌下) | 硝酸イソソルビド | 錠5㎎ | ||
ニトロペン舌下錠 | ニトログリセリン | 舌下錠0.3㎎ | ||
ミオコールスプレー | ニトログリセリン | スプレー0.3㎎ | ||
硝酸薬(持続性) | アイトロール錠 | 一硝酸イソソルビド | 錠10㎎、錠20㎎ | |
ニトロールR | 硝酸イソソルビド | Rカプセル20㎎ | ||
ニトロール錠 | 硝酸イソソルビド | 錠5㎎ | ||
ニトロダームTTS | ニトログリセリン | テープ25㎎ | ||
フランドル錠 | 硝酸イソソルビド | 錠20㎎ | ||
フランドルテープ | 硝酸イソソルビド | テープ40㎎ | ||
ミニトロテープ | ニトログリセリン | テープ27㎎ | ||
ミリステープ | ニトログリセリン | テープ5㎎ | ||
硝酸薬(Kチャネル開口薬) | シグマート | ニコランジル | 錠2.5㎎、錠5㎎ | |
その他の冠血管拡張薬 | アデノシン増強薬 | ペルサンチン | ジピリダモール | 錠12.5㎎、錠25㎎、錠100㎎ |
コメリアン | ジラゼプ塩酸塩水和物 | 錠50㎎、錠100㎎ | ||
ロコルナール | トラピジル | 錠50㎎、錠100㎎ | ||
バスタレルF | トリメタジジン塩酸塩 | 錠3㎎ |
狭心症と狭心症治療薬
心臓の筋肉に酸素や栄養を送っている冠動脈が何かの原因で狭くなったり、詰まったりして心臓の一部に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなった状態を「心筋虚血」といい、心筋虚血で発作を起こす病気を「虚血性心疾患」といいます。虚血性心疾患は「狭心症」と「心筋梗塞」に分類されます。
狭心症とは簡単に言えば、「心筋の酸素不足」であり、心臓の筋肉(心筋)に供給される酸素が不足するために胸部に一時的な痛みや圧迫感が起きる病気です。
狭心症は、一時的であるため、安静にしていればそのうち回復しますが、心筋梗塞は、心筋が壊死するため回復不可能です。
狭心症の薬は、「心筋の酸素不足」を改善するために、狭くなった冠血管(心臓の血管)を広げる薬です。
発作治療薬と発作予防薬
狭心症の薬には、発作時に使う薬と、発作予防に使う薬があります。発作時に使う薬は即効性が要求されるので、舌下錠や噴霧により口腔粘膜から吸収します。
狭心症治療薬として主に使われるのは、硝酸薬です。
硝酸薬は一酸化窒素(NO)を放出するNO供与体として働きます。遊離したNOは血管平滑筋の可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、GTPからcGMPへの産生を増大させます。増加したcGMPはcGMP依存性タンパク質リン酸化酵素を活性化することにより、ミオシン軽鎖キナーゼを不活化し、筋小胞体へのCa2+の取り込みや細胞外へのCa2+の排出が促進され、血管平滑筋が弛緩し、血管を広げます。 血管を広げる薬といえば、高血圧に使われる薬にも血管を広げる薬があり、Ca拮抗薬やβ遮断薬は狭心症予防にも使われています。
ちなみに、cGMPはPDE5により分解されて5‘-GMPに代謝されますが、勃起不全治療薬・前立腺肥大症治療薬・肺高血圧症治療薬として使われるPDE5阻害薬はPDE5を阻害しcGMPを増やすので、硝酸薬同様に血管平滑筋を弛緩させます。そのため、併用が禁忌とされています。
カリウムチャネル開口薬
ニコランジル(シグマート)も、ニトロ基(-NO₂ )を持つので硝酸薬に分類されることもありますが、「カリウムチャネル開口薬」と呼ばれています。
まず、カルシウムイオン(Ca2+)は血管を収縮しますが、そのメカニズムは、カルシウムイオンとカルシウム結合タンパク質であるカルモジュリンが結合し、カルシオウムイオン-カルモジュリン複合体となり、ミオシン軽鎖キナーゼを活性化し、ミオシンの軽鎖をリン酸化し、リン酸化されたミオシンがアクチンと反応し、ATPのエネルギーで収縮するという機序です。
カリウムチャネル開口薬が血管を広げるのは、血管平滑筋細胞の細胞膜のカリウムチャネルが開口して細胞が過分極となって、カルシウムチャネルが閉じることで細胞内カルシウムイオン濃度が低下して、平滑筋が弛緩して血管が拡張するというメカニズムです。
カルシウムチャネルを直接阻害するのがCa拮抗薬で、血管を拡張し、血圧を下げます。
カリウムチャネルを阻害する薬に、カリウムチャネル遮断薬やSU剤があり、これらの薬はカリウムチャネル開口薬と逆に働き血管を収縮させて血圧上昇しそうですが、血管をターゲットにしていないため高血圧などの副作用は見られません。
ニコランジルは、NOによる血管拡張と、カリウムチャネル開口による血管拡張を併せ持つので「NKハイブリッド薬」と呼ばれることもあります。ハイブリッドと聞くと、ガソリンと電気のハイブリッド車を思い浮かべますが、2つ以上の作用機序を持つ薬のことです。
硝酸薬は耐性ができるという欠点がありますが、ハイブリッド薬であるニコランジルには耐性ができにくいという利点があります。
プレコンディショニング作用
カリウムチャネル開口薬であるニコランジルには「プレコンディショニング作用」があるといわれています。プレ=事前に、コンディショニング=調子を整えるという意味です。車のバッテリーを予め温めておくのもプレコンディショニングと言います。
心筋のプレコンディショニング作用とは、ごく短時間の心筋虚血がその後に起こる心筋梗塞の程度を軽くする作用のことです。これは生体防御反応として心筋に備わっています。
短時間だけ心臓への血液を減らした後に回復させる(例えば軽い狭心症のような状態で心臓を慣らしておく)と、心臓はより重篤な傷害である心筋梗塞に対して強くなり、心筋梗塞で壊死する範囲を減らせます。
つまり、ニコランジルは心筋梗塞時のダメージを軽減する「心臓を守る薬」と言えます。
カリウムチャネルをKATPチャネルや、ATP感受性カリウムチャネルと記載されることもありますが、細胞内のATP等によって開口が制御されるカリウムチャネルのタイプのことです。プレコンディショニング作用には、心筋細胞のミトコンドリアのKATPチャネルの開口が関与していると言われていますが具体的な機序は不明です。
逆に、カリウムチャネルを閉鎖するSU剤のような薬は、心筋梗塞時のダメージを広げてしまう恐れがあります。
アデノシン増強薬
冠血管を広げる薬には、硝酸薬とカリウムチャネル開口薬以外にもあり、ジピリダモール、ジラゼプ、トラピジル、トリメタジジンなどがあります。
これらの薬の作用機序ははっきりしていませんが、ジピリダモールとジラゼプはアデノシンの赤血球への取り込みを阻害し、その働きを増強し冠動脈を拡張させているため「アデノシン増強薬」「アデノシン取り込み阻害薬」などと呼ばれています。
また、これら「その他の冠血管拡張薬」は、狭心症以外の目的で使われることが多いです。これらの薬は血小板凝集阻害作用=抗血小板作用を持ち、糸球体の毛細血管での血液凝固を阻害することで、毛細血管が傷つくのを防ぎ、尿蛋白を減少させるので、糸球体腎炎などにも使われます。ジピリダモールはネフローゼ症候群、ジラゼプはIgA腎症に適応を持ちます。
ジピリダモールの抗血小板作用については、添付文書に「血液中アデノシンの赤血球、血管壁への再取り込み抑制作用により、血液中アデノシン濃度を上昇させ、血小板のアデニールサイクラーゼ活性を増強し、血小板内c-AMPの合成を促進する。また、血小板内c-AMPホスホジエステラーゼの活性を抑制し、血小板内のc-AMP濃度を高める。また、c-GMPホスホジエステラーゼ活性を抑制し、c-GMP濃度を高める。これらの作用により、血小板の活性化を抑制する。」とあります。
cAMPやcGMP濃度が高まるとPKA(プロテインキナーゼA)やPKG(プロテインキナーゼG)が活性化されて、タンパク質がリン酸化され様々な生理反応が引き起こされるので、ジピリダモールは血小板凝集抑制作用をあらわします。抗血小板薬に分類される薬もcAMPに働く薬が多いです。
まとめ
狭心症治療薬は、心臓に酸素を行き渡らせるために血管を広げる薬で、発作時に使われる薬と予防的に使われる薬があり、ニコランジルには心筋梗塞時のダメージを軽減する働き(心臓を守る)があり、ジピリダモールやジラゼプには抗血小板作用(血液をサラサラにする)や尿蛋白減少作用(腎臓を守る)があります。
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