2025年6月27日更新.2,504記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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アマージはなぜ眠気が少ない?トリプタン系薬剤の比較と特徴

アマージ(ナラトリプタン)はなぜ眠気が少ない?

片頭痛治療薬として広く使用されている「トリプタン系薬剤」。その中でも「アマージ(一般名:ナラトリプタン)」は、他のトリプタン系と比較して「眠気が少ない」と感じる患者が多いことで知られています。

トリプタン系薬剤とは

トリプタン系薬剤は、片頭痛の急性期治療薬として使用されるセロトニン(5-HT1B/1D)受容体作動薬です。

■ 主な作用機序:
・三叉神経からの神経ペプチド放出を抑制
・頭蓋内血管の収縮作用
・脳幹における痛み伝達経路の抑制

これらの作用により、片頭痛発作を早期に抑え、生活への支障を軽減します。

アマージ(ナラトリプタン)の基本情報

製品名:アマージ錠(2.5mg)
一般名:ナラトリプタン塩酸塩
製造販売元:グラクソ・スミスクライン
用法用量:成人には1回2.5mg、1日最大5mgまで
作用発現:約1~3時間で効果発現
作用持続時間:最長6時間以上

アマージは、他のトリプタン系(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタンなど)に比べ、比較的緩やかな作用発現と持続的な効果が特徴です。

なぜアマージは眠気が少ないのか?

トリプタン系の副作用として「眠気」「倦怠感」「めまい」などの中枢神経系の影響が報告されることがあります。しかし、アマージはこれらが比較的少ないとされています。その理由には以下のような薬理学的要因が関係しています。

■ ① 血液脳関門(BBB)通過性が低い
アマージは他のトリプタンに比べて脂溶性が低く、血液脳関門を通過しにくい。
そのため、中枢神経(脳)への移行が少なく、眠気やふらつきなどの副作用が出にくい。

■ ② 作用発現が穏やかで持続性が高い
急激なセロトニン受容体刺激ではなく、緩やかな効果発現により自律神経系への急な変化が少ない。
その結果として、眠気や脱力感などがマイルド。

■ ③ 長時間作用型
作用時間が長いため、再投与が少なく済む
再発片頭痛に対するコントロールが良好 → 身体的ストレスの軽減

他のトリプタン製剤との比較

製品名(一般名)眠気の頻度発現時間持続時間特徴
アマージ(ナラトリプタン)少ないやや遅い(1〜3時間)長い(6時間以上)中枢移行性が低く穏やか
イミグラン(スマトリプタン)中程度速い(30分〜1時間)中程度最初のトリプタン。注射剤あり
ゾーミッグ(ゾルミトリプタン)やや多い中程度中程度中枢移行性が高く効果は強い
レルパックス(エレトリプタン)中程度〜多い比較的速い中〜やや長め効果強め、眠気あり
マクサルト(リザトリプタン)やや多い速い短め小児にも使われる

片頭痛治療薬の添付文書の眠気に関する注意

医薬品名一般名添付文書の記載
イミグランスマトリプタン片頭痛あるいは本剤投与により眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に従事させないよう十分注意すること。
ゾーミッグゾルミトリプタン片頭痛あるいは本剤投与により眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に従事させないよう十分注意すること。
レルパックスエレトリプタン片頭痛あるいは本剤投与により眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に従事させないよう十分注意すること。
マクサルトリザトリプタン片頭痛あるいは本剤投与により眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に従事させないよう十分注意すること。
アマージナラトリプタン片頭痛あるいは本剤投与により眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に従事させないよう十分注意すること。
レイボーラスミジタン本剤投与により眠気、めまい等があらわれることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう十分注意すること。

片頭痛治療薬の眠気の頻度

医薬品名一般名眠気の副作用
イミグランスマトリプタン1%以上:眠気
ゾーミッグゾルミトリプタン0.1%以上5%未満:傾眠
レルパックスエレトリプタン1%以上:傾眠・眠気
マクサルトリザトリプタン
7.7%:傾眠
アマージナラトリプタン1%未満:眠気
レイボーラスミジタン1%以上:傾眠(鎮静、過眠症を含む)

片頭痛治療薬の血液脳関門透過性

医薬品名一般名インタビューの血液脳関門透過性に関する記載
イミグランスマトリプタンほとんど通過しない。
<参考>組織内分布試験(ラット)
ラットに[14C]スマトリプタンコハク酸塩 2mg/kg 単回経口投与したとき、血中放射能濃度に対する脳中放射能濃度比が小さいことから、脳への移行性は極めて低いことが示唆された。
ゾーミッグゾルミトリプタンラットに放射能標識した14C-ゾルミトリプタンを10mg/kgの用量で単回経口投与したときの中枢への移行性を検討したところ、投与後2~4時間で血漿中、脳内において最高濃度に到達したことから、ゾルミトリプタン及びその代謝物は脳に移行することが示された。脳内放射能の約1/3はゾルミトリプタンであった。薬理学的に活性なN-脱メチル体は脳内に検出されなかった。
レルパックスエレトリプタン雄性有色ラット(Lister Hooded系)に14C-エレトリプタン(1/2硫酸塩)3mg/kgを単回静脈内投与したときの組織内放射能濃度を測定した。
投与後 0.1時間の脳内濃度は血液中濃度の約 25%であった。
マクサルトリザトリプタンラットに[14C]リザトリプタン3mg/kg単回経口投与後の脳内濃度を測定した結果、脳内濃度は血漿中濃度の31.9%(投与後1時間)であった。
アマージナラトリプタンほとんど通過しない
<参考>
ラットに 14C-ナラトリプタン塩酸塩 10mg/kg を単回経口投与した時の組織内放射能を全身オートラジオグラフィーで検討したところ、脳内放射能はいずれの時点でも定量下限未満であったことから、ナラトリプタンの中枢移行性は低いと考えられた。
レイボーラスミジタン本剤は、ラットでは投与15分後までに血液―脳関門を通過した(15分後の脳/血漿比1.56)。本剤は中枢及び末梢においてセロトニン1F受容体に選択的に結合することにより、作用を示すと考えられている。

アマージの実臨床での使い分け

アマージの「穏やかで長時間作用する」「眠気が少ない」という特性は、以下のようなケースで特に有用とされています。

■ 適した使用シーン:
・外出や仕事中に服用する必要があるとき(眠気回避)
・寝る前に服用しても朝スッキリしたいとき
・再発片頭痛が多い人(持続作用で再発予防)
・自動車の運転を控えられない人(ただし注意喚起は必要)

■ 注意点:
・急激な強い効果を求める患者には向かないことも
・作用発現が遅めなので前兆が出たタイミングでの早めの服用が重要

患者指導のポイント

薬剤師や医師がアマージを処方・調剤する際には、以下のような説明が有効です。

「眠気の副作用は比較的少ないお薬です」
「効果の立ち上がりは少しゆっくりですが、そのぶん長持ちします」
「再発しにくいので、1回の服用で済むことも多いです」
「片頭痛の前兆が出たら早めに飲んでください」

まとめ

アマージ(ナラトリプタン)は、トリプタン系薬剤の中でも特に「眠気が少ない」「効果が長く続く」という特性を持ち、日常生活との両立が求められる患者にとって使いやすい薬剤です。

眠気が出やすい他の薬剤に比べ、血液脳関門を通過しにくい点が中枢神経系副作用の少なさに貢献しており、片頭痛治療の選択肢として非常に有用です。

個々のライフスタイルや頭痛のパターンに応じて、適切なトリプタンの選択を支援する一助として、アマージの特徴を知っておくことは医療従事者・患者双方にとって大きなメリットとなるでしょう。

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