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副作用被害救済制度の不支給事例から学ぶ適正使用
公開. 更新. 投稿者:副作用/薬害.この記事は約4分43秒で読めます.
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副作用被害救済制度の不支給事例から学ぶ適正使用の重要性

副作用被害救済制度とは、適正に使用された医薬品によって重篤な副作用が発現した場合、患者に対して医療費や障害年金などが支給される公的制度です。
しかし、いざ副作用が起こっても「制度の対象外」とされ、給付金が支給されない“不支給事例”が少なからず存在します。そこに共通するのは、「添付文書に記載された用法用量、検査指針、適応症等が守られていないこと」。
今回は特に不支給事例として報告の多いラミクタール(ラモトリギン)、メルカゾール(チアマゾール)、ユリノーム(ベンズブロマロン)に焦点を当て、薬剤師がどこに注意すべきかを勉強します。
添付文書の用法用量を“軽視”していないか?
日常の処方では、適応外処方や添付文書に記載された用法用量から逸脱した処方が一定数見られます。特に在宅医療や複雑な併用療法では「現場判断」が重視される場面もあります。
ただし、こうした「実臨床での慣習」が、副作用被害救済制度において“適正使用ではない”と判断される要因となることもあるのです。
たとえ副作用が医薬品に起因していても、
・添付文書の用法用量を守っていない
・検査項目の実施が不十分
であった場合には、救済制度の対象外となる可能性があります。
● ケース1:ラミクタール(ラモトリギン)
【背景】
ラミクタールは、てんかんおよび双極性障害の気分エピソード再発抑制に使用される薬剤であり、重大な副作用として重篤な皮膚障害(SJSやTEN)が知られています。
【添付文書での注意点】
ラミクタールの投与は、併用薬や疾患、年齢によって極めて複雑な漸増スケジュールが定められています。
・初期用量、増量ステップがきめ細かく規定されている
・特にバルプロ酸との併用では増量間隔を長くとる必要がある
【不支給事例の特徴】
・増量スピードが速すぎた(増量間隔が添付文書より短い)
・1日投与量が上限を超えていた
【薬剤師のチェックポイント】
・1日最大量の確認
・バルプロ酸との併用有無
・初期投与~増量ステップの指示どおりか?
→「増量すべきタイミングで増量されていない」場合は、救済制度の観点では不支給対象にはなりにくいと考えられますが、「増量が早すぎた」場合は明確な逸脱とみなされます。
● ケース2:メルカゾール(チアマゾール)
【背景】
抗甲状腺薬であるメルカゾールは、無顆粒球症という重篤な副作用が比較的高頻度で報告されており、特に投与開始から2か月以内が発症ピークとされています。
【添付文書での注意点】
・投与開始から2か月間は2週間ごとの血液検査(白血球・分画)を実施することが原則
・それ以降も定期的なモニタリングが必要
【不支給事例の特徴】
7週間以上、血液検査が未実施で無顆粒球症を発症
→ 「適正な使用とは認められませんでした」と判断
【薬剤師のチェックポイント】
・血液検査のタイミングについて、指導や確認が行われているか?
・高熱・咽頭痛などの初期症状の聞き取りを行っているか?
→「原則として」という表現はありますが、無顆粒球症の発現率の高さから、添付文書上の検査指針は事実上の“必須対応”と考えるべきです。
● ケース3:ユリノーム(ベンズブロマロン)
【背景】
高尿酸血症治療薬であるベンズブロマロンは、劇症肝炎など重篤な肝障害の報告があります。
【添付文書での注意点】
・投与開始6か月間は定期的に肝機能検査を実施することが明記されています
・黄疸、倦怠感、尿の色などの自覚症状にも注意を払う必要があります
【不支給事例の特徴】
肝機能検査が投与後10ヶ月まで未実施だった例で薬物性肝障害を発症
→ 救済制度対象外
【薬剤師のチェックポイント】
・AST・ALT・γGTPの確認と検査時期の確認
・初期6ヶ月間に検査が実施されているか?
・「肝機能の異常に気づくきっかけ」となる自覚症状を患者に確認
副作用救済制度の“不支給”は、患者にとって二重のダメージ
副作用被害救済制度は、薬害に対する最後のセーフティネットです。
・副作用に苦しむだけでなく
・救済も受けられない
となると、患者にとってはダブルパンチの被害になります。
しかも、その背景に「用法用量の逸脱」「検査未実施」といった、防げるはずの要因があるとしたら、関与した医療者にも説明責任が問われます。
まとめ:薬剤師の役割としての“防波堤”機能
副作用被害救済制度において「適正使用かどうか」は給付の可否を左右する最重要項目です。
そのため、薬剤師には次のような役割が期待されています:
・疑義照会:用法用量・検査指針の逸脱を確認・是正する
・情報提供:患者に副作用の初期症状を伝える
・確認業務:検査の予定があるか確認・記録する
・チーム連携:医師や看護師と情報共有し、副作用の早期発見に貢献する
「これは見過ごしても問題ないだろう」と麻痺してはいけません。
1つの疑問、1つの確認が、救済制度の対象外という最悪の結末を回避する鍵になることもあるのです。
副作用救済制度が患者にとって本当に「救い」となるように、薬剤師としての一歩一歩を積み重ねていきましょう。