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坐薬は体温で溶ける?坐薬の基剤と使用感の違い
公開. 更新. 投稿者:服薬指導/薬歴/検査.この記事は約2分22秒で読めます.
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坐薬は体温で溶ける?─坐薬の基剤と使用感の違い

坐薬(サポジトリー)は、直腸や膣などに挿入して使用される製剤であり、体内で薬を効率よく吸収させるために作られています。その形状や成分は多様ですが、特に注目すべきは「溶け方の違い」です。坐薬は大きく分けて、体温で溶けるタイプと、水分で溶けるタイプがあります。
坐薬の2種類の基剤とその溶融温度
坐薬の基剤は主に以下の2種類に分かれます。
●油脂性基剤(体温で溶ける):
・例:ハードファット(硬化油)、カカオバターなど
・溶融温度:約34~39℃
・体温(約36~37℃)で速やかに溶け、薬効成分を放出
・代表例:ボルタレンサポ(約35℃)、カロナール坐剤(34.5~36.5℃)、フロリード腟坐剤(35.5~37.5℃)、ワコビタール坐剤(33.5℃~37℃)など
●水溶性基剤(水分で溶ける):
・例:マクロゴール系基剤など
・溶融温度:約50~60℃
・腸内や膣内の分泌液によって徐々に溶ける
・高融点のため、室温での保管が可能
基剤 | 坐薬 |
---|---|
水溶性基剤 | ダイアップ坐剤 |
水溶性基剤 | ナウゼリン坐剤 |
水溶性基剤 | レペタン坐剤 |
水溶性基剤 | エスクレ坐剤 |
油脂性基剤 | アンヒバ坐剤 |
油脂性基剤 | アルピニー坐剤 |
油脂性基剤 | カロナール坐剤 |
油脂性基剤 | ワコビタール坐剤 |
油脂性基剤 | ボルタレン坐剤 |
油脂性基剤 | ネリプロクト坐剤 |
油脂性基剤 | ユニプロン坐剤 |
油脂性と水溶性で違う「使い心地」
●油脂性坐薬の特徴:
・体温で素早く溶けるため、挿入時の摩擦が少なく、痛みが少ない
・滑りが良いため、使用感が優しい
・ただし、室温でも溶けやすいため、冷蔵保存が必要
●水溶性坐薬の特徴:
・室温では安定していて扱いやすい
・しかし、挿入時に摩擦が強く、痛みを感じやすい
・乾燥している膣や肛門では違和感が強くなることもある
挿入時の注意点と使用のコツ
油脂性坐薬は手で持つだけでも溶け始めるため、長時間の接触を避け、素早く挿入するのが基本です。中には、添付文書に「ピンセットで取り出す」と記載されている薬剤もあります。
例:フロリード腟坐剤(ミコナゾール硝酸塩)
・油脂性基剤を使用(35.5~37.5℃で溶融)
・添付文書にピンセットでの取り出しが推奨
ただし、これは「処置用」の手技として記載されており、患者が使用する際にピンセットは必須ではありません
●痛みや違和感がある場合の対処法
・冷やしすぎると硬くなりすぎて挿入困難になることも
・高齢者や膣が乾燥しやすい方には、先端を少し温める、オリーブオイルを塗るなどの対策が有効
溶けた坐薬は使っていいの?
夏場、車内や直射日光のもとで坐薬が溶けてしまった場合、「冷蔵庫に戻せば使えるのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、一度溶けた坐薬は原則として使用しないでください。
理由は以下のとおりです:
・成分が再結晶化し、均一性が損なわれる
・先端が変形し、挿入時に違和感が生じる
・熱による有効成分の劣化の可能性
仮に先端を下にして再凝固させても、薬理学的な安定性や均一性の保証はできません。
まとめ:坐薬は基剤によって溶け方も使用感も異なる
項目 | 油脂性基剤 | 水溶性基剤 |
---|---|---|
溶融温度 | 約34~39℃ | 約50~60℃ |
溶け方 | 体温で溶ける | 分泌液で溶ける |
保管方法 | 冷蔵保存推奨 | 室温保存可 |
使用感 | 滑らかで痛み少ない | 挿入時に違和感あり |
坐薬は見た目は同じでも、中身の基剤によって大きく使い心地が異なります。患者さんへの説明時には、保管方法だけでなく、「使い心地」や「挿入の工夫」についてもアドバイスできると良いでしょう。
とくに高齢者や婦人科系で使用される腟坐剤では、乾燥や冷たさによる痛みに配慮し、挿入方法や使用前の工夫を提案できる薬剤師の存在が、安心と継続使用につながります。