2025年6月3日更新.2,487記事.

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坐薬は体温で溶ける?坐薬の基剤と使用感の違い

坐薬は体温で溶ける?─坐薬の基剤と使用感の違い

坐薬(サポジトリー)は、直腸や膣などに挿入して使用される製剤であり、体内で薬を効率よく吸収させるために作られています。その形状や成分は多様ですが、特に注目すべきは「溶け方の違い」です。坐薬は大きく分けて、体温で溶けるタイプと、水分で溶けるタイプがあります。

坐薬の2種類の基剤とその溶融温度

坐薬の基剤は主に以下の2種類に分かれます。

●油脂性基剤(体温で溶ける):
・例:ハードファット(硬化油)、カカオバターなど
・溶融温度:約34~39℃
・体温(約36~37℃)で速やかに溶け、薬効成分を放出
・代表例:ボルタレンサポ(約35℃)、カロナール坐剤(34.5~36.5℃)、フロリード腟坐剤(35.5~37.5℃)、ワコビタール坐剤(33.5℃~37℃)など

●水溶性基剤(水分で溶ける):
・例:マクロゴール系基剤など
・溶融温度:約50~60℃
・腸内や膣内の分泌液によって徐々に溶ける
・高融点のため、室温での保管が可能

基剤坐薬
水溶性基剤ダイアップ坐剤
水溶性基剤ナウゼリン坐剤
水溶性基剤レペタン坐剤
水溶性基剤エスクレ坐剤
油脂性基剤アンヒバ坐剤
油脂性基剤アルピニー坐剤
油脂性基剤カロナール坐剤
油脂性基剤ワコビタール坐剤
油脂性基剤ボルタレン坐剤
油脂性基剤ネリプロクト坐剤
油脂性基剤ユニプロン坐剤

油脂性と水溶性で違う「使い心地」

●油脂性坐薬の特徴:
・体温で素早く溶けるため、挿入時の摩擦が少なく、痛みが少ない
・滑りが良いため、使用感が優しい
・ただし、室温でも溶けやすいため、冷蔵保存が必要

●水溶性坐薬の特徴:
・室温では安定していて扱いやすい
・しかし、挿入時に摩擦が強く、痛みを感じやすい
・乾燥している膣や肛門では違和感が強くなることもある

挿入時の注意点と使用のコツ

油脂性坐薬は手で持つだけでも溶け始めるため、長時間の接触を避け、素早く挿入するのが基本です。中には、添付文書に「ピンセットで取り出す」と記載されている薬剤もあります。

例:フロリード腟坐剤(ミコナゾール硝酸塩)
・油脂性基剤を使用(35.5~37.5℃で溶融)
・添付文書にピンセットでの取り出しが推奨

ただし、これは「処置用」の手技として記載されており、患者が使用する際にピンセットは必須ではありません

●痛みや違和感がある場合の対処法
・冷やしすぎると硬くなりすぎて挿入困難になることも
・高齢者や膣が乾燥しやすい方には、先端を少し温める、オリーブオイルを塗るなどの対策が有効

溶けた坐薬は使っていいの?

夏場、車内や直射日光のもとで坐薬が溶けてしまった場合、「冷蔵庫に戻せば使えるのでは?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、一度溶けた坐薬は原則として使用しないでください。

理由は以下のとおりです:
・成分が再結晶化し、均一性が損なわれる
・先端が変形し、挿入時に違和感が生じる
・熱による有効成分の劣化の可能性

仮に先端を下にして再凝固させても、薬理学的な安定性や均一性の保証はできません。

まとめ:坐薬は基剤によって溶け方も使用感も異なる

項目油脂性基剤水溶性基剤
溶融温度約34~39℃約50~60℃
溶け方体温で溶ける分泌液で溶ける
保管方法冷蔵保存推奨室温保存可
使用感滑らかで痛み少ない挿入時に違和感あり

坐薬は見た目は同じでも、中身の基剤によって大きく使い心地が異なります。患者さんへの説明時には、保管方法だけでなく、「使い心地」や「挿入の工夫」についてもアドバイスできると良いでしょう。

とくに高齢者や婦人科系で使用される腟坐剤では、乾燥や冷たさによる痛みに配慮し、挿入方法や使用前の工夫を提案できる薬剤師の存在が、安心と継続使用につながります。

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