2024年11月5日更新.2,470記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

血中濃度が高くても効かない?

臓器移行性

血液中に薬があれば、効果が出る、というわけではない。効果を発揮させたい場所に薬が到達しなければ意味はない。

薬によっては、移行性に優れるため血中濃度より組織内濃度のほうが高い薬剤がある。

組織移行性は、高脂溶性、高吸収率、非イオン型、低分子量、低蛋白結合率、分布容積が大きい薬剤ほど移行性が高くなる。

実際の臓器移行に関しては、添付文書の薬物動態の項の分布(組織内移行)に、組織内濃度または血漿(清)中濃度比として記載されている。

感染臓器別に移行しやすい抗菌薬

感染臓器移行性がある薬剤
フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬、オキサゾリジノン系薬
胆道系ピペラシリン、セフトリアキソン、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬
腎臓・尿路ペニシリン系薬、セフェム系薬、カルバペネム系薬、グリコペプチド系薬、アミノグリコシド系薬、フルオロキノロン系薬
髄液(炎症時)ペニシリン系薬、セフトリアキソン、セフタジジム、カルバペネム系薬、フルオロキノロン系薬
髄膜に炎症がなくても移行するものメトロニダゾール、リファンピシン、ST合剤、クロラムフェニコール
細胞内、組織内まで移行するものマクロライド系薬、フルオロキノロン系薬、テトラサイクリン系薬
前立腺への移行がよいものST合剤、キノロン系薬、ミノサイクリン、アジスロマイシンなど

バイオアベイラビリティ

静脈内投与時のバイオアベイラビリティは100%であるが、経口薬では消化管からの吸収率が重要になる。

一般にセフェム系、フルオロキノロン系は吸収が良好であるが、ペニシリン系、マクロライド系、アミノ配糖体系は劣る。

クラビット、ミノマイシン、ダラシン、ザイボックスは吸収率が90%以上であるが、肝性脳症時のアンモニア産性菌の発育抑制のために使用されるカナマイシンは腸管からほとんど吸収されない。

ニューマクロライドのクラリスロマイシンは、経口吸収性が改善された。

分子量

分子量が小さい薬剤ほど移行性に優れる。

巨大なラクトン環を有するマクロライド系は分子量が大きい。

ホスホマイシンの分子量は194.14と最小であるが、エリスロマイシンステアリン酸塩(1018.40)、ポリミキシンB硫酸塩(1286〜1398)、バンコマイシン塩酸塩(1485.71)などは分子量が大きい。

分配係数

分配係数が1より大きければ脂溶性、1より小さければ水溶性である。

脂溶性のマクロライド系、フルオロキノロン系、クロラムフェニコール、テトラサイクリン系は移行性が良好であるが、水溶性のβラクタム系(ペニシリン、セフェム、カルバペネム)、アミノ配糖体系、サルファ剤は移行性が悪い。

オキサゾリジノン系のリネゾリドは水溶性であるが、組織移行性は高い。

pKaとpH

非イオン型の抗菌薬は細胞膜を透過できるが、荷電したイオン型は透過できない。

このためイオン化率の高いアミノ配糖体系は移行性が極めて悪い。

βラクタム系などの酸性抗菌薬は弱アルカリ性の血液(pH7.4)に高濃度に移行するが、マクロライド系などの塩基性抗菌薬は中性から弱酸性の細胞内(pH7.2〜6.8)や乳汁(pH6.6)、肺、子宮などに移行しやすい。

テトラサイクリン系やフルオロキノロン系などの両性抗菌薬は、どの臓器にも移行しやすい。

蛋白結合率

抗菌薬は、血液中で主にアルブミンと結合している。

非結合型の抗菌薬が組織に移行し抗菌作用を発揮する。

アミノ配糖体系やフルオロキノロン系は、蛋白結合率が40%以下と低いため、組織移行性は良好である。

分布容積(Vd)

分布容積とは、ある量の薬物を体内に投与した場合に得られる血中濃度と同じ濃度に希釈するために必要な、理論上の血液容積である。

関係式にすると、分布容積×血中濃度=総薬物量となる。

同じ量の薬物を投与した場合、分布容積が大きい薬物の血中濃度は低く、分布容積が小さい薬物の血中濃度は高いということになる。分布容積は、薬物の組織移行性を把握するのに有用であり、代謝・排泄のスピードを考慮した投与量の設計や、透析による除去のしやすさを検討する際に用いられる。

分布容積が小さいということは、その薬物が体内で主に細胞外液にとどまっており、細胞内に取り込まれにくいことを意味している。

分布容積が大きいということは、細胞外液以外のどこかに分布していることになる。その行き先は、細胞内液、受容体、細胞内蛋白質、脂質など、薬物によってさまざまであるが、いずれも何らかの組織に取り込まれている。つまり、分布容積が大きいことは組織移行性が高いことを示す。

分布容積と相互作用

分布容積の小さい薬物はほとんどが血液中に存在しているため、血液中で起きる薬物相互作用に注意する必要がある。例えば、抗凝固薬のワルファリンカリウム(ワーファリン)は、細胞外液に移行せず血液内だけに存在する薬物で、分布容積は0.14L/kgとかなり小さい。ワルファリンは血中で97%がアルブミンと結合しているが、ここへアスピリンなどの非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を併用するとNSAIDsは分布容積が小さくアルブミンの結合を解離させ、遊離ワルファリンが増える。NSAIDsによってワルファリンのアルブミン結合率が94%まで落ちると、血中の遊離ワルファリンの割合は計算上3%から6%に上昇する。実際は、遊離ワルファリンは組織のワルファリンと新たな平衡関係となるのでこれほど上昇するとは考えられないが、抗凝固作用が強く発現する可能性がある。

ワルファリンの他には、抗てんかん薬のバルプロ酸(セレニカ、デパケン)、フェニトインなどが要注意薬物となる。これらの薬物を、同じく分布容積が小さい薬物と併用する場合には、ワルファリンによる出血傾向、フェニトインによる中毒などの副作用の初期症状に注意しなければならない。

分布容積と蓄積毒性

分布容積が大きいことで知られる代表的な薬物はジゴキシンである。腸から吸収されたジゴキシンは速やかに細胞内に取り込まれ、分布容積は9.5L/kgと大きく、血液中にわずかしか存在しない。ジゴキシンは治療域と中毒域が近接しているが、組織移行性が高いために体内から除去するのが困難であり、しばしば問題となる。

また、アミオダロン塩酸塩(アンカロン)の分布容積は巨大であり、100L/kgを超えている。この組織移行性の高さにより、長期投与時の血中濃度半減期は19~53日と、驚くほど長くなっている。

これら以外には、三環系抗うつ薬のアミトリプチリン塩酸塩、イミプラミン塩酸塩、抗精神病薬のハロペリドール(セレネース)などが分布容積の大きな薬物として挙がる。

分布容積の大きな薬物は、前述の通り組織移行性が高い為排泄されにくく、体内に長く留まる傾向があるため、長期間服用する場合には、蓄積によって生じる副作用に注意が必要となる。ジゴキシンでは中毒による不整脈、三環系抗うつ薬では抗コリン作用に基づく運動失調や不整脈、ハロペリドールでは手のふるえなどの薬剤性パーキンソニズムに注意しなければならない。薬の服用をやめても副作用症状の消失に時間が掛かることがあり、副作用の初期症状を見逃さないことは特に重要である。

脂溶性薬物は、脂肪組織に拡がるため分布容積(Vd)が大きい。

組織移行性が良好なフルオロキノロン系はVdが大きく、移行性が劣るβラクタム系やアミノ配糖体系は小さい。

Vdが3Lより大きい場合は、血液以外の組織にまで分布している。

細胞内移行性

細菌は、肺炎球菌、レンサ球菌、大腸菌など細胞外で増殖する菌と結核菌、カンピロバクター、レジオネラ、クラミジア、サルモネラなど細胞内やマクロファージで増殖する菌に分類される。

マクロライド系やホスホマイシン、クリンダマイシンは細胞内に高率に移行するので、レジオネラ、クラミジアなど非定型肺炎の原因となる細胞内寄生性菌に奏効する。

とくにマクロライド系は組織内濃度が血中濃度をはるかに超える。

ペニシリン系やアミノ配糖体系は試験管内では抗菌活性を示すが、細胞内移行性が極めて悪いため臨床的には無効である。

細胞壁がないマイコプラズマには、βラクタム系の細胞壁合成阻害という作用機序の面からも効果がない。

フルオロキノロン系、クロラムフェニコール、リファンピシンは中等度の移行性を示す。

半減期

コニール錠の血中濃度半減期は2時間に満たないのに、なぜ1日1回投与なのか?

コニール錠は、血中濃度半減期の5倍の時間血中にあるとしても最長で12時間でしかありません。1日1回投与だから、あとの12時間は血中にコニールは存在しません。

それなのにコニール錠は「1日1回投与」です。1日1回で1日中、降圧効果が持続するのでしょうか?
コニール錠の薬効の持続性についての回答は添付文書の薬効薬理作用機序にあります。そこにはまず、「本剤は細胞膜の膜電位依存性CaチャネルのDHP結合部位に結合することによって細胞内へのCa流入を抑制し、冠血管や末梢血管を拡張させる」とあります。
続いて「なお、本剤は細胞膜への移行性が高く、主として細胞膜内を通ってDHP結合部位に結合するとされており、さらに摘出血管収縮抑制作用及びDHP結合部位親和性等の検討によりDHP結合部位への結合性が強く、解離速度も非常に遅いことが確認されており、薬物血中濃度とほとんど相関せずに作用の持続性を示す」とあります。つまり「細胞膜への移行性の高さとCaチャネルのDHP結合部位への結合性の強さ」がコニールの持続性の根拠であると考えられています。

薬剤師

勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。

先生

そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。

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