2024年12月18日更新.2,481記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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狭心症に禁忌のβ遮断薬?

狭心症に禁忌の薬

医薬品名一般名禁忌
アプレゾリンヒドララジン塩酸塩虚血性心疾患のある患者[反射性交感神経亢進により、心臓の仕事量が増加し、症状を悪化させるおそれがある。]
アマージナラトリプタン塩酸塩心筋梗塞の既往歴のある患者、虚血性心疾患又はその症状・兆候のある患者、異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者[不整脈、狭心症、心筋梗塞を含む重篤な虚血性心疾患様症状があらわれることがある。]
インデラルプロプラノロール塩酸塩異型狭心症の患者[症状が悪化するおそれがある。]
イミグランキット皮下注/点鼻液/錠スマトリプタンコハク酸塩心筋梗塞の既往歴のある患者、虚血性心疾患又はその症状・兆候のある患者、異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者[不整脈、狭心症、心筋梗塞を含む重篤な虚血性心疾患様症状があらわれることがある]
エドルミズアナモレリン塩酸塩心筋梗塞又は狭心症のある患者[心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある。]
エボザックセビメリン塩酸塩重篤な虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)の患者[冠状動脈硬化に伴う狭窄所見を冠状動脈攣縮により増強し、虚血性心疾患の病態を悪化させるおそれがある。]
カルビスケンピンドロール異型狭心症の患者[症状を悪化させるおそれがある。]
クリアミン配合錠エルゴタミン酒石酸塩 /無水カフェイン/イソプロピルアンチピリン狭心症の患者[心電図の変化や、狭心症の発作を引き起こすおそれがある。]
コンサータメチルフェニデート塩酸塩不整頻拍、狭心症のある患者[症状を悪化させるおそれがある。]
サラジェンピロカルピン塩酸塩重篤な虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)の患者[冠状動脈硬化に伴う狭窄所見を冠状動脈攣縮により増強し、虚血性心疾患の病態を悪化させるおそれがある。]
サリグレンセビメリン塩酸塩水和物重篤な虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)の患者[冠状動脈硬化に伴う狭窄所見を冠状動脈攣縮により増強し、虚血性心疾患の病態を悪化させるおそれがある。]
ザルティアタダラフィル不安定狭心症のある患者
ゾーミッグゾルミトリプタン心筋梗塞の既往歴のある患者、虚血性心疾患又はその症状・兆候のある患者、異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者[不整脈、狭心症、心筋梗塞を含む重篤な虚血性心疾患様症状があらわれることがある。]
ナディックナドロール異型狭心症の患者[症状を悪化させるおそれがある。]
ニコチネルTTSニコチン不安定狭心症、急性期の心筋梗塞(発症後3ヵ月以内)、重篤な不整脈のある患者又は経皮的冠動脈形成術直後、冠動脈バイパス術直後の患者〔カテコラミン放出促進による血管収縮、血圧上昇をきたし症状が悪化するおそれがある。〕
パルタンMメチルエルゴメトリンマレイン酸塩重篤な虚血性心疾患又はその既往歴のある患者[冠動脈の攣縮により狭心症、心筋梗塞が誘発されることがある。]
ビジクリア配合錠リン酸二水素ナトリウム一水和物/無水リン酸水素二ナトリウムうっ血性心不全又は不安定狭心症の患者[心不全症状や狭心症状を悪化させるおそれがある。]
ヘマンジオルプロプラノロール異型狭心症の患者[症状が悪化するおそれがある。]
ベタナミンペモリン不整頻拍、狭心症、動脈硬化症の患者[症状を悪化させるおそれがある。]
マクサルトリザトリプタン安息香酸塩心筋梗塞の既往歴のある患者、虚血性心疾患又はその症状・兆候のある患者、異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者[不整脈、狭心症、心筋梗塞を含む重篤な虚血性心疾患様症状があらわれることがある。]
メーゼントシポニモド フマル酸 本剤の投与開始前6ヵ月以内に心筋梗塞、不安定狭心症、入院を要する非代償性心不全、NYHA分類Ⅲ度又はⅣ度の心不全を発症した患者
リタリンメチルフェニデート塩酸塩不整頻拍、狭心症のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
レルパックスエレトリプタン臭化水素酸塩心筋梗塞の既往歴のある患者、虚血性心疾患又はその症状・兆候のある患者、異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者[不整脈、狭心症、心筋梗塞を含む重篤な虚血性心疾患様症状があらわれることがある。]

狭心症に禁忌の薬にもいろいろあるが、「虚血性心疾患」「異型狭心症」「不安定狭心症」など、さまざまな記載があるので、まずその言葉の定義から理解する。

心臓の筋肉に酸素や栄養を送っている冠動脈が何かの原因で狭くなったり、詰まったりして心臓の一部に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなった状態を「心筋虚血」といい、心筋虚血で発作を起こす病気を「虚血性心疾患」といいます。虚血性心疾患は「狭心症」と「心筋梗塞」に分類されます。

狭心症とは簡単に言えば、「心筋の酸素不足」であり、心臓の筋肉(心筋)に供給される酸素が不足するために胸部に一時的な痛みや圧迫感が起きる病気です。

狭心症は、一時的であるため、安静にしていればそのうち回復しますが、心筋梗塞は、心筋が壊死するため回復不可能です。

狭心症は、動脈硬化によって内腔が狭くなっている「器質性狭心症」と、冠動脈には器質的な狭窄がないが、発作的に血管に含まれる筋肉に痙攣(攣縮・スパスム)が起こり、一時的な狭窄を生じるために、心臓の筋肉が虚血状態になる「冠攣縮性狭心症」がある。冠攣縮性狭心症は動脈硬化がみられない、普通とは異なるという意味で、「異型狭心症」とも呼ばれます。

器質性狭心症は、発作が労作時に起こることが多いのに対して、冠攣縮性狭心症は安静時、特に夜間から早朝にかけて発作が起こりやすいのが特徴である。

狭心症を発症の誘因で分類すると、「安静時狭心症」と「労作性狭心症」に分けられる。器質性狭心症≒労作性狭心症、冠攣縮性狭心症≒安静時狭心症と似たような意で用いられることがある。

また、労作性狭心症は、動脈硬化によって動脈の内腔は狭くなっているが、プラーク(脂肪やカルシウムなどが溜まってできるコブ)は崩れずに安定している「安定狭心症」と、プラークが破れやすい状態で心筋梗塞へと進行する前段階の「不安定狭心症」に分けられる。

異型狭心症に禁忌のβ遮断薬

狭心症には血管拡張薬が処方される。つまり、逆の働きをする血管収縮薬は狭心症症状を悪化させる可能性がある。
トリプタン系薬やエルゴタミン製剤などの片頭痛治療薬には血管収縮作用があるので、狭心症に禁忌です。また、口腔乾燥症改善薬のコリン作動薬は、副交感神経刺激作用で冠攣縮を誘発するので、重篤な虚血性心疾患に禁忌となっている。

一つ疑問になるのが、β遮断薬のピンドロール、ナドロール、プロプラノロールなどが、狭心症に適応を持ちながら「異型狭心症」に禁忌となっている点である。異型狭心症=冠攣縮性狭心症は狭心症ではないのか?

β遮断薬は相対的なα受容体刺激により血管収縮を促し冠攣縮を惹起する可能性があるため冠攣縮性狭心症に禁忌となっている。またβ₂刺激作用は冠動脈を拡張させるため、β遮断薬(β₁非選択性)は狭窄を悪化させ症状を増悪させる可能性がある。
ただし、実臨床では「労作性」と「冠攣縮性」を併発する病態は少なくなく、中には狭窄のある血管部位が労災時に攣縮を起こすこともあり、そのような患者にはβ遮断薬が処方されている。

いずれにせよ、狭心症の種類まで患者との会話で引き出すことは難しいので、狭心症にβ遮断薬が処方されていたとしても疑義照会の対象にはなりにくい。

狭心症治療薬の併用禁忌

分類商品名一般名併用禁忌
硝酸薬(速効性)ニトロールスプレー硝酸イソソルビドPDE5阻害薬(バルデナフィル、シルデナフィル、タダラフィル)、sGC刺激薬(リオシグアト)
ニトロール錠(舌下)硝酸イソソルビド
ニトロペン舌下錠ニトログリセリン
ミオコールスプレーニトログリセリン
硝酸薬(持続性)アイトロール錠一硝酸イソソルビド
ニトロールR硝酸イソソルビド
ニトロール錠硝酸イソソルビド
ニトロダームTTSニトログリセリン
フランドル錠硝酸イソソルビド
フランドルテープ硝酸イソソルビド
ミニトロテープニトログリセリン
ミリステープニトログリセリン
硝酸薬(Kチャネル開口薬)シグマートニコランジル
その他の冠血管拡張薬アデノシン増強薬ペルサンチンジピリダモール
コメリアンジラゼプ塩酸塩水和物
ロコルナールトラピジル
バスタレルFトリメタジジン塩酸塩

狭心症治療薬と血管拡張薬

狭心症に使われる薬で、併用禁忌の薬には、硝酸薬↔PDE5阻害薬、硝酸薬↔sGC刺激薬の組み合わせがある。
いずれの薬剤にも血管拡張作用があり、降圧作用が増強されるため併用禁忌となっている。
血管拡張作用がある薬剤は、PDE5阻害薬やsGC刺激薬のみならずCa拮抗薬やα遮断薬などもあるが、肺高血圧症に用いられる薬剤は特に注意すべきということであろう。ただ、硝酸薬の併用注意には、「アルコール」「利尿剤」「血管拡張剤」「硝酸・亜硝酸エステル系薬剤」という記載もあり、血管拡張作用を持つ薬、血圧低下する薬については注意する必要はある。
硝酸薬とPDE5阻害薬、sGC刺激薬の作用点は以下の図のようになり、作用機序的にcGMPを増加させるという点で被っているので副作用を起こしやすい。

ニコランジル(シグマート)を硝酸薬に含めるかどうかという点については議論の余地があるあるのかも知れない。PDE5阻害薬の禁忌欄には「硝酸剤あるいは一酸化窒素(NO)供与剤」という記載で、カリウムチャネル開口薬であるニコランジルも含める記載になっている。
ニコランジルはニトロ基(-NO₂ )を持っている。

PDE5阻害薬の適応症

狭心症に使われる硝酸薬と、肺高血圧症に使われるPDE5阻害薬やsGC刺激薬は同じ循環器の医師から処方されるケースが多いだろう。そのため、うっかりミスさえなければ、医師側で併用禁忌に気づくので一緒に処方されることはほぼない。
ただし、PDE5阻害薬は肺高血圧症のみならず、前立腺肥大症や勃起不全に適応を持つ薬もある。そのため、泌尿器科からの処方についても注意する必要がある。
また、勃起不全に対する薬は、患者がインターネットなどで個人輸入して使っていることもある。恥ずかしいので、医師にも伝えずに使用することもある。薬剤師にも伝えにくいだろうと思われるが、「併用禁忌の薬がある」ということをしっかり伝える必要がある。

一般名医薬品名適応症
バルデナフィルバルデナフィル勃起不全
シルデナフィルバイアグラ勃起不全
レバチオ肺動脈性肺高血圧症
タダラフィルアドシルカ肺動脈性肺高血圧症
ザルティア前立腺肥大症に伴う排尿障害
シアリス勃起不全

硝酸薬の頓用

速効性の硝酸薬は、発作時の頓用で処方される。
つまり、患者が薬を服用するタイミングは、薬が処方された後、数カ月経過してから、ということもあり得るということだ。
患者自身ももらったことを忘れていて、お薬手帳に記載した処方歴も、はるか昔に追いやられて新しい手帳に移っているかも知れない。
そんな患者が、前立腺肥大症でザルティアが処方されたとして、胸痛発作が起こったタイミングで硝酸薬を服用してしまう。そんなケースも起こり得るのではないか?
お薬手帳に記載してある併用薬、患者から聞いた併用薬だけに気を配るだけでなく、あらゆるケースを想定することが必要である。

薬剤師

勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。

先生

そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。

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