2025年7月30日更新.2,552記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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夏の咳は風邪じゃない?カビが原因の「夏型過敏性肺炎」

夏風邪が長引いていませんか?

「夏風邪だと思っていた咳が、なかなか治らない」
「毎年、夏になると同じような症状が出る」
そんな人は、「夏型過敏性肺炎(かびんせいはいえん)」の可能性を考えたことがあるでしょうか?

この病気は、梅雨から秋口にかけて家の中で繁殖するカビが原因で引き起こされる、アレルギー性の肺疾患です。
放置すると肺が線維化し、呼吸機能が低下することもあります。

夏型過敏性肺炎とは?アレルギーが原因の“肺炎”

夏型過敏性肺炎とは、空気中に浮遊するカビの胞子などを繰り返し吸い込むことで起こるⅢ型・Ⅳ型アレルギー反応です。
その結果、肺に慢性的な炎症が起こり、咳、微熱、息苦しさといった症状が出現します。

この病気は風邪と間違われやすく、医療機関を受診せずに放置されることも少なくありません。

夏型過敏性肺炎の原因として最も有名なのがトリコスポロン属(Trichosporon)というカビです。
このカビは、以下のような場所でよく繁殖します。

・布団・マットレス(特に万年床)
・浴室、洗面所、台所などの水回り
・エアコン内部(フィルターや結露部)
・木造住宅や築年数の経った家屋

梅雨〜夏にかけて高温多湿となる日本の気候では、これらの場所がカビの温床になりやすく、室内に舞い上がった胞子を吸い続けることで発症します。

症状夏風邪夏型過敏性肺炎
咳・発熱
息苦しさ(呼吸困難感)
鼻水・のどの痛みよくあるあまり見られない
同じ症状を毎年繰り返す◎(毎年夏〜秋に再燃)
外出時は症状が軽い変わらない◎(自宅で悪化、外出で軽快)

「家に帰ると苦しくなる」「夏になると咳が続く」
こうした傾向が数年続いている場合には、夏型過敏性肺炎を疑うべきです。

診断の第一歩は、生活環境と症状の関係に注目することです。
以下のような工夫も診断に役立ちます。

・6~8時間ごとに自宅内の居場所を変えて、咳の出方や息苦しさの強さを記録する
・外泊すると症状が軽快するかを確認する
・家の中で特に症状が強くなる場所(例:浴室・台所)を特定する

症状が強い場合には、医療機関で以下のような検査が行われます。
・胸部X線やCT:両肺にびまん性の粒状影が見られることが多い
・血液検査:好中球や好酸球の増加、トリコスポロン抗体の陽性反応
・気管支鏡検査:病変部位の肉芽形成などを確認することもある

症状が軽い段階であれば、徹底した掃除と換気で改善する可能性があります。
・布団やマットレスを干す・洗濯する
・エアコンフィルターや内部の清掃
・風呂場やキッチンのカビ取り
・空気清浄機の活用

これだけでカビの曝露量を減らし、症状が自然に収まるケースも少なくありません。

ステロイド治療が必要な場合も

中等度以上の症状では、ステロイド内服により肺の炎症をコントロールする必要があります。
プレドニゾロンなどが用いられ、通常は短期間の使用で改善が期待されます。

ただし、真菌感染症にステロイドは原則禁忌とされるため、慎重な判断が必要です。
夏型過敏性肺炎はアレルギー性炎症であり、トリコスポロンは感染を起こすわけではないため、
このケースではステロイドが治療の主軸となります。

それでも長期使用は避け、環境要因の除去を最優先にすべきです。

職場が原因のケースも

カビの多い職場環境が原因となることもあります。
飲食店、食品工場、クリーニング業、温浴施設など水を扱う職場では特に注意が必要です。

・可能なら職場の改善(換気、除湿、清掃)
・難しければ配置転換や職場変更も選択肢に

ある50代女性は、毎年6月に咳と息苦しさを繰り返し、最終的に職場環境が原因とわかるまでに数年かかりました。
職場を変えると症状は消失しましたが、その間に肺に後遺症(肉芽、線維化)が残ったといいます。

〇予防と生活上の注意点
・エアコン掃除は年1〜2回
・梅雨〜夏の布団は天日干し or 乾燥機へ
・お風呂・台所・洗面所はこまめに換気&拭き取り
・押し入れ、畳、窓周りも要注意(湿気がこもりやすい)

トリコスポロンは秋まで生存可能です。
「夏が終わったからもう安心」ではなく、9月〜10月も警戒が必要です。

夏風邪と誤解せず、医療機関を受診しよう
夏型過敏性肺炎は、夏風邪と見分けがつきにくいため、つい様子を見てしまいがちです。

しかし、毎年同じ症状を繰り返している人、家に帰ると息苦しくなる人は、一度呼吸器内科を受診しましょう。

早期に気づけば、掃除や換気だけで改善しますが、
見逃すと肺の線維化=不可逆的な機能低下につながる危険性もあります。

咳の陰にカビが潜む夏

「咳=風邪」と思い込みやすい季節ですが、
その背景に、家の中で静かに繁殖するカビが関係しているかもしれません。

・トリコスポロンが原因のアレルギー性肺炎
・毎年夏に症状が出る人は要注意
・原因除去と環境改善が治療の基本
・ステロイドは医師の判断で必要に応じて使用
・放置は肺線維症や呼吸不全のリスクに

「夏の咳にはカビの影」――それを忘れずに、次の夏を迎えましょう。

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