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イメンドとプロイメンドの違いは?
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤.この記事は約4分29秒で読めます.
7,560 ビュー. カテゴリ:抗癌剤による吐き気とニューロキニン受容体
イメンドの処方は薬局でたまに見かけますが、プロイメンドの処方を見ることは無い。
プロイメンドは点滴用。
抗癌剤の投与で吐き気が生じるメカニズムは幾つかあり、その1つに、抗癌剤の投与によりサブスタンスPの分泌が亢進し、これが中枢神経系のニューロキニン(NK1)受容体に結合することで誘発される機序がある。
アプレピタント(イメンド)はNK1受容体に選択的に結合し、中枢性嘔吐反応を抑制する。
イメンドには125mgカプセルと80mgカプセルがあり、通常、抗がん剤投与の60~90分前に125mgを、翌日と翌々日の2日間は80mgを1日1回、午前中に服用する。
ホスアプレピタント(プロイメンド)は、アプレピタントをリン酸化したプロドラッグである。
静脈内投与後、体内の脱リン酸化酵素によって速やかにアプレピタントに代謝されて薬効を示す。
プロイメンドは150mgを抗癌剤投与の60分前に投与する。
ホスアプレピタントは点滴静注製剤だが、抗癌剤の点滴時であれば静脈ルートも確保されているため使用しやすく、投与が1回で済むため患者の利便性が高い。
また、服用を忘れたりする患者や、虚弱状態または悪心・嘔吐により経口摂取が困難な患者でも確実に投与が可能なのも利点である。
ホスアプレピタント(150mg)の静脈投与は、アプレピタント(285mg)を3日に分けて内服したのと同等の制吐効果(非劣性)を示すことが、臨床試験で確認されている。
剤形により投与量が異なるのにも関わらず、効果が同等である理由は、経口カプセル剤のバイオアベイラビリティが低いことによる
125mgカプセルのバイオアベイラビリティは59%、80mgカプセルは67%であり、同じ全身循環量を達成するには注射薬よりも多く投与する必要がある。
参考書籍:日経DI2015.9
イメンドは遅発性の嘔吐にも効く?
癌化学療法によって引き起こされる悪心・嘔吐は、その発現時期により、24時間以内に発現する「急性悪心・嘔吐」、24時間以降に発現する「遅発性悪心・嘔吐」、次回投薬の直前に発現する「予測性悪心・嘔吐」の三つに大別されます。
悪心・嘔吐の対症療法には、セロトニン3(5HT3)受容体拮抗剤が広く使用されるほか、ステロイド剤、抗不安剤なども使用されます。
しかし、これらは「急性悪心・嘔吐」には有効ですが、「遅発性悪心・嘔吐」には必ずしも有効ではありません。
新しく発売された制吐剤のイメンドは、世界初の選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗剤です。
NK1受容体は、神経伝達物質サブスタンスPの受容体であり、サブスタンスPは、嘔吐や痛み、不安、喘息、膀胱炎、片頭痛などの発現に深く関与します。
イメンドは、サブスタンスPとNK1受容体との結合を選択的に遮断することにより、抗癌剤による悪心・嘔吐を抑制するものと考えられています。
従来の薬とは作用機序が異なることから、他の制吐剤と併用することで相乗効果が期待できます。
また、イメンドは、急性の悪心・嘔吐のみならず、従来薬では効果が不十分だった遅発性の悪心・嘔吐にも有効であることが確認されています。
添付文書の適応も、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)(遅発期を含む)」となっています。
悪心・嘔吐分類 | 発生時期 |
---|---|
急性 | 抗がん剤投与後24時間以内に生じる |
遅発性 | 抗がん剤投与後24時間以降に生じ、数日間持続 |
予期性 | 前治療による悪心・嘔吐の経緯など精神的要因により出現 |
遅発性悪心・嘔吐の発生機序はまだ完全に解明されていませんが、急性期悪心・嘔吐に比較し、セロトニンの関与は少なく、脳浮腫、胃や腸管の運動低下、および腸管上皮障害による腸管内の細胞分解産物の血中への移行などが考えられています。また、患者によっては精神的な要素も関連するといわれています。
抗癌剤による悪心・嘔吐の発生機序
抗癌剤が体内に入ると、小腸にあるクロム親和性細胞がダメージを受けてセロトニンを放出します。
このセロトニンを受けた5-HT₃受容体が、脳内の化学受容器引き金帯(CTZ)を介して延髄の嘔吐中枢を刺激し、嘔吐が起こります。同様に、サブスタンスP(タキキニンと呼ばれる神経伝達物質の一種)が放出されニューロキニンー1(NK-1)受容体に取り込まれ、延髄の嘔吐中枢を刺激して嘔吐が起こります。
選択的NK1受容体拮抗薬
イメンドは、遅発性嘔吐に有効性が確認された、世界初の選択的NK1受容体拮抗型制吐薬である。
イメンド(アプレピタント)は、サブスタンスPの受容体であるニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬であり、抗悪性腫瘍薬投与に伴う遅発性の悪心・嘔吐の予防に有効で、わが国でも承認された。
高度催吐性リスク(AC療法など一部の中等度催吐性リスク含む)の抗がん剤に対する制吐療法として各種ガイドライン上で推奨されている。
催吐性リスク分類 | 急性期 | 遅発性 |
---|---|---|
高度催吐性リスク | 5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン+アプレピタント | デキサメタゾン+アプレピタント |
中等度催吐性リスク | 5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン | デキサメタゾン |
アプレピタントを服用する場合には、コルチコステロイド、ワルファリンとの併用に注意が必要となる。
特に糖尿病患者の場合はアプレピタントとコルチコステロイドを併用した際に、コルチコステロイドの血中濃度上昇により血糖上昇がみられることがあり、注意が必要である。
5-HT3受容体拮抗薬やアプレピタントでは、便秘傾向となりやすいため、抗がん剤による下痢の発生時期も考慮した排便コントロールへの配慮も欠かせない。
デキサメタゾンとイメンドの併用
イメンドの用法には、「他の制吐剤との併用において」と記載されており、原則としてコルチコステロイド及び5-HT3受容体拮抗型制吐剤と併用して使用することが求められています。
デキサメタゾンがどのように制吐作用を示すのか、その機序は十分には解明されていませんが、他の制吐薬と組み合わせて使うことで作用が増強されるようです。ただし、アプレピタントとは「併用注意」です。デキサメタゾンはチトクロムP450(CYP)3A4で代謝されるのに対し、アプレピタントはCYP3A4阻害作用があり、デキサメタゾンの代謝が阻害されて血中濃度が高くなるためです。
デキサメタゾンの1日投与量は通常4~20mgですが、アプレピタントとの併用においては半量程度に減量して使用されることが多いようです。
マクロライド系抗菌薬やアゾール系抗真菌薬などCYP3A4が関与する薬剤では相互作用が考えられるため、デキサメタゾンの処方時は併用薬に注意が必要です。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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