2025年8月9日更新.2,572記事.

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一過性脳虚血発作なら心配いらない?

一過性脳虚血発作なら心配いらない?見逃すと怖い“脳梗塞の前触れ”

「朝起きたら手が動かない」「言葉が出てこない」「片側の足に力が入らない」

…でも数十分後にはすっかり元通り。

そんな“症状が一時的に現れてすぐに回復する”ケースに遭遇したら、あなたはどうしますか?

「疲れかな?年齢のせい?」「治ったし病院に行かなくてもいいかも」と考えてしまう人は多いかもしれません。

しかし、それは脳が発している最後の警告、「一過性脳虚血発作(TIA)」かもしれません。

かつては軽く見られていたこの症状、実は脳梗塞の前兆であり、放置すれば48時間以内に本格的な脳梗塞を発症する可能性もあるとされています。

一過性脳虚血発作(TIA)とは?

一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack, TIA)とは、脳の一部への血流が一時的に低下し、神経症状が現れて24時間以内に完全に回復する発作のことを指します。

代表的な症状は以下のとおり:
・片側の手足のしびれ・麻痺
・言語障害(ろれつが回らない、言葉が出ない)
・視野の一部欠損や複視
・意識がもうろうとする

これらは数分~数十分で回復することが多く、「なんだか変だったけど、今はもう大丈夫」と受診せずに済ませてしまう人が多いのが現状です。

なぜ「一過性」で終わるのか?

TIAは一時的な血流不足のため、脳細胞の壊死は起こらないと考えられています。しかし「壊死しなかっただけ」で、危険な状態だったことに変わりはありません。

◆TIAを放置してはいけない理由:
以前は「24時間以内に消えるなら軽症で済んで良かった」と解釈されることもありましたが、近年の研究で認識は大きく変わりました。

◆放置すれば「脳梗塞」につながる:
・TIAの発症後3カ月以内に10〜15%の人が脳梗塞を発症
・その半数以上が48時間以内に発症する
つまり、TIAの出現は本格的な脳梗塞の“予告編”であると考えるべきなのです。

海外では原則入院・即検査

欧米の脳卒中専門医ガイドラインでは、TIAの患者は原則として入院し、すぐに検査・治療を開始すべきとされています。症状が消えても、脳内や頸部の血管では“本番”が着々と準備されているかもしれないからです。

TIAの原因とは?─“首の血管”に注目

TIAの原因の多くは血栓や動脈硬化による血管の一時的な閉塞です。

特に注目されているのが頸動脈(けいどうみゃく)です。

頸動脈狭窄症とは?

頸動脈は心臓から脳へ血液を運ぶ大動脈の一部です。ここに動脈硬化が起きると、血管が狭くなったり、血栓ができたりして、脳への血流が一時的に滞ることがあります。

この状態がTIAを引き起こし、さらに進行すれば脳梗塞を引き起こします。

◆頸動脈狭窄のリスク因子:
・高血圧
・糖尿病
・高脂血症(脂質異常症)
・喫煙
・高齢

無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)との関係

「自覚症状はないのに、MRIで脳梗塞の痕が見つかった」というケースも珍しくありません。

これが無症候性脳梗塞(silent brain infarction)です。

◆高齢者では特に多い:
加齢に伴い、脳内の小さな血管が少しずつ詰まりやすくなるため、症状が出ないまま静かに進行することがあります。これが将来の認知機能低下や脳卒中リスクの増加につながる可能性が指摘されています。

TIAの診断と検査

症状が消えていたとしても、TIAの疑いがある場合は次のような検査が必要です。

●画像検査:
・MRI(拡散強調画像):微細な脳梗塞を見逃さない
・頸動脈超音波(エコー):血管の狭窄やプラークを確認
・MRA/CTA(脳血管撮影):血管の走行や詰まりを視覚化

●心電図・ホルター心電図:
心房細動などの不整脈が原因で血栓ができてTIAを起こすこともあるため、心臓由来の血栓の有無も確認します。

TIAの治療方針:早ければ早いほど予防できる

●急性期の対応:
TIAの症状が現れたら、救急車で脳卒中センターを受診すべきです。軽症に見えても、早急な治療開始がその後の人生を大きく左右します。

●再発予防のための治療:
・抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)
・抗凝固薬(心房細動が原因ならDOACなど)
・高血圧・高脂血症・糖尿病の管理
・生活習慣の改善(禁煙、減塩、運動)

●頸動脈の治療:
狭窄が高度で、症状が繰り返される場合には以下のような外科的治療が選択されることもあります。
・頸動脈内膜剥離術(CEA)
・頸動脈ステント留置術(CAS)

TIAを「様子見」する時代ではない

日本では依然として「とりあえず家で様子を見ましょう」と言われることもありますが、それはすでに“時代遅れ”の対応です。

TIAは「今すぐ死ぬわけではないが、今すぐ診る必要がある」状態であり、脳梗塞という未来を変える最後のチャンスなのです。

◆TIA=命のタイムリミット:

「軽くて治ったから大丈夫」ではなく、「軽くて済んだからこそ今がチャンス」

その認識の転換こそが、将来の脳梗塞・寝たきり・認知症を防ぐ第一歩になるのです。

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