2026年1月14日更新.2,719記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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リンゴジュースと相互作用のある薬

リンゴジュースと相互作用のある薬

服薬指導で「この薬、グレープフルーツは避けてくださいね」と説明する場面は、薬剤師なら誰しも経験があるでしょう。一方で、リンゴジュースについてはどうでしょうか。

「リンゴジュースで薬を飲んではいけない」と明確に書かれた添付文書はほとんどありません。しかし近年、リンゴジュースが一部の薬の吸収を低下させることが、複数の研究で示されています。

しかもその機序は、グレープフルーツとはまったく異なります。

・リンゴジュースと相互作用が問題となる薬
・その機序(トランスポーター阻害)
・なぜ添付文書に書かれていないのか
・薬剤師としてどう説明すべきか

を、勉強していきます。

リンゴジュースは「何に」作用するのか?― CYPではなくトランスポーター ―

まず大前提として整理しておきたいのは、リンゴジュースはCYP3A4阻害ではないという点です。

グレープフルーツとの違い

果汁主な作用点結果
グレープフルーツCYP3A4阻害血中濃度↑(副作用リスク)
リンゴジューストランスポーター阻害血中濃度↓(効果減弱)

リンゴジュースが主に阻害するとされているのは、小腸上皮に発現する取り込みトランスポーター(OATP2B1 など)です。

OATP(Organic Anion Transporting Polypeptide)は、
・消化管から薬を「取り込む」
・薬の吸収を助ける

という役割を担っています。

つまりリンゴジュースは、
薬を体内に入れにくくする方向に働く
という点が最大の特徴です。

リンゴジュースと相互作用が報告されている代表的な薬

① フェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ)

リンゴジュースとの相互作用で、最も有名かつ臨床的に重要なのがフェキソフェナジンです。

相互作用の内容
リンゴジュース、オレンジジュース、グレープフルーツジュースで
AUC・Cmax が大幅に低下

吸収低下により、抗ヒスタミン作用が弱くなる可能性

機序
・小腸OATP2B1阻害
・フェキソフェナジンは、OATP依存性が高い薬剤

実務でのポイント
・添付文書にリンゴジュースの明記はない
・しかし科学的根拠は明確
・「水で服用してください。ジュースは避けましょう」という指導は合理的

OTC医薬品としても広く使用されているため、
OTC服薬指導での重要度は高いといえます。

② アリスキレン(ラジレス)

レニン阻害薬であるアリスキレンも、リンゴジュースの影響を受けることが報告されています。

相互作用の内容
・リンゴジュース摂取により、血中濃度が低下
・降圧効果の減弱が懸念される

機序
・OATP阻害による吸収低下
・実務での注意点
・降圧薬は「効かない」こと自体が問題になりにくく、見逃されやすい
・血圧コントロール不良の一因として、飲み物を疑う視点が重要

③ レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)

レボチロキシンは、リンゴジュースとの相互作用がはっきり明記されているわけではありませんが、注意が必要な薬です。

添付文書上の記載
・「食物により吸収が低下することがある」

実際の問題点
・果汁や食事により吸収が左右されやすい
・リンゴジュースによる吸収低下の報告あり
・吸収率の変動 → TSHの変動につながる可能性

実務での服薬指導
・「起床後、空腹時に水で服用」
・「ジュースやコーヒーでは飲まない」

これは従来の指導と一致しており、
リンゴジュースを特別に強調せずとも、適切な指導が可能です。

④ β遮断薬の一部(文献報告レベル)

海外文献では、
・アテノロール
・セリプロロール

などで、果汁による吸収低下が報告されています。

ただし日本での使用頻度やエビデンスの蓄積を考えると、
日常業務で強く意識すべきレベルではないと考えられます。

なぜ添付文書に書かれていないのか?

ここは、薬剤師として非常に重要なポイントです。

理由①:致命的な副作用ではない
リンゴジュースとの相互作用は、

血中濃度↑ → 副作用増強
ではなく

血中濃度↓ → 効果減弱
が主です。

規制上、緊急性・重篤性が低いと判断されやすい傾向があります。

理由②:果汁の個体差・量の問題
・リンゴの品種
・加工方法
・摂取量

により阻害作用が大きく変わるため、
一律に注意喚起しにくいという側面があります。

理由③:トランスポーター相互作用は歴史が浅い
・CYP相互作用:歴史が長く、添付文書に反映されやすい
・トランスポーター相互作用:比較的新しい概念

そのため、学術的には確立していても、添付文書反映が追いついていないケースが多くあります。

薬剤師はどう服薬指導すべきか?

基本スタンス
・添付文書を逸脱しない
・かつ、科学的に妥当な指導を行う

この両立が重要です。

実用的な指導フレーズ
「この薬は水で飲むのが一番確実です」
「ジュースで飲むと、効きが弱くなることがあります」
「特にリンゴやオレンジのジュースは避けてください」

“禁止”ではなく、“推奨”の形にすることで、
患者の受け入れも良くなります。

5.薬剤師が知っておくべき位置づけ

リンゴジュース相互作用の本質

✔ 学術的根拠:あり
✔ 添付文書記載:ほぼなし
✔ 臨床的重要性:薬剤による

つまりこれは、
「薬剤師の知識でカバーすべきグレーゾーン」といえます。

おわりに

リンゴジュースは「健康的な飲み物」というイメージが強く、患者さんも悪気なく薬と一緒に飲みがちです。しかし一部の薬では、確実に効果を弱める方向に働くことがわかっています。

添付文書に書いていないからこそ、
・なぜ注意するのか
・どの薬で問題になるのか
を理解している薬剤師の存在価値が高まります。

「水で飲む」
このシンプルな一言の裏にある知識として、リンゴジュースとトランスポーターの話を、ぜひ引き出しに入れておきたいところです。

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