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手足が冷えるのは動脈硬化のサイン?閉塞性動脈硬化症と末梢動脈疾患の分類・薬の使い分け
公開. 更新. 投稿者: 35 ビュー. カテゴリ:痛み/鎮痛薬.この記事は約6分44秒で読めます.
目次
手足が冷える、歩くと足が痛い…それは血管のSOSかも

手足が冷える、歩くと足が痛い…それは血管のSOSかも
「最近、足が冷える」「少し歩くとふくらはぎが痛くて歩けない」「足の傷が治らない」。
そんな症状の中に、閉塞性動脈硬化症(ASO:Arteriosclerosis Obliterans)が隠れているかもしれません。
ASOは、足の血管に動脈硬化が起こって血流が悪くなる病気です。
動脈硬化というと心筋梗塞や脳梗塞が有名ですが、足の動脈硬化も決して軽視できません。
実際、60歳以上では5人に1人以上がASOを持っているともいわれます。
そして、足の血管に動脈硬化があるということは、すでに心臓や脳にも動脈硬化が進んでいるサイン。
つまり、「足の異変」は「全身の血管の異変」を意味しているのです。
閉塞性動脈硬化症(ASO)とは?
ASOとは、主に下肢の動脈(大腿動脈や膝下動脈など)に動脈硬化が起こり、
血管が狭くなったり、詰まったり(閉塞)する病気です。
血液の流れが悪くなることで、足先の組織が酸素不足に陥り、
・冷感
・しびれ
・だるさ
・歩行時の痛み(間欠性跛行)
・重症化すれば壊疽(えそ)
といった症状が現れます。
ASO・PAD・TAOの違いを整理する
動脈閉塞に関する病名は似ており、混同されやすいですが、それぞれ定義が異なります。
・ASO(閉塞性動脈硬化症) Arteriosclerosis Obliterans :動脈硬化が原因。主に高齢者。下肢動脈が狭窄・閉塞。 エパデール、プレタール、プラビックス など
・PAD(末梢動脈疾患) Peripheral Artery Disease :下肢を中心とする末梢の動脈疾患全体の総称。ASOやTAOを含む。 プレタール、プラビックス など
・TAO(閉塞性血栓血管炎、バージャー病) Thromboangiitis Obliterans :若年男性に多く、喫煙と強く関連。小中動脈の炎症と血栓。 オパルモン、ヘプロニカート など
・慢性動脈閉塞症(CAO) Chronic Arterial Occlusion :ASOやTAOを含む慢性閉塞状態の病名。臨床的な包括名。 プレタール、パナルジンなど
要するに、「PAD」という大きな病名の中に、動脈硬化性の「ASO」と炎症性の「TAO(バージャー病)」が含まれるイメージです。
なぜ足の血管が詰まるのか?
ASOの最大の原因は動脈硬化です。
以下のようなリスク因子が複合的に関与します。
危険因子
・喫煙 :最も強力な危険因子。血管を収縮させ、血流を悪化させる。
・糖尿病 :血管壁を傷つけ、細い血管まで硬化させる。
・高血圧 :動脈内皮を損傷し、プラーク形成を促進。
・高脂血症 :LDLコレステロールが血管壁に沈着。
・加齢・男性 :加齢で血管弾力が低下、男性に多い。
・慢性腎不全 :動脈硬化の進行を加速する。
間欠性跛行(かんけつせいはこう)
ASOの代表的な症状が「間欠性跛行」です。
歩いていると足がだるくなり、痛みが出る。
しかし、立ち止まると数分で回復するという特徴があります。
これは、運動によって酸素需要が増すのに血流が追いつかないために起こります。
休むと酸素供給が回復し、再び歩けるようになります。
似た症状を起こす病気に「腰部脊柱管狭窄症」がありますが、
こちらは腰の神経圧迫が原因で、前かがみになると楽になる点がASOと異なります。
診断:ABI(足関節上腕血圧比)
診断には「ABI検査」が使われます。
腕と足首の血圧を同時に測定し、その比率を計算します。
ABI=足首の収縮期血圧÷上腕の収縮期血圧
ABI値
・1.0〜1.25 :正常
・< 0.9 :狭窄・閉塞の疑いあり
・< 0.4 :重度虚血
・>1.3 :血管の石灰化の可能性
ABIが正常でも石灰化があると正しく反映されない場合もあり、
ドプラ超音波検査やCT血管造影などが併用されます。
閉塞性動脈硬化症は「足の心筋梗塞」
ASOは「足の血管だけの問題」と思われがちですが、
実は全身の動脈硬化の一部として現れる病気です。
足の動脈が詰まっている時点で、すでに
・冠動脈(心臓) → 心筋梗塞
・頸動脈(脳) → 脳梗塞
といった合併症のリスクが高くなっています。
ASOの5年生存率は約70%。
これは大腸がんとほぼ同じで、決して軽い病気ではありません。
主な治療薬とその適応症
ASOやPAD、TAOの治療では「血流を改善し、血栓を防ぐ」ことが中心になります。
ここで、似たような効能を持つ代表的な薬を整理しておきましょう。
プレタール(一般名:シロスタゾール)
・適応症:慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛、冷感の改善
・作用:ホスホジエステラーゼⅢ阻害作用により血管拡張+抗血小板作用
・特徴:唯一、間欠性跛行の歩行距離を延長する効果にエビデンスあり
・備考:動脈硬化性疾患(ASO)に広く使われる第一選択薬
オパルモン(一般名:リマプロストアルファデクス)
・適応症:閉塞性血栓血管炎(バージャー病)および慢性動脈閉塞症
・作用:プロスタグランジンE₁誘導体。血管拡張・血小板凝集抑制・末梢循環改善
・特徴:特にバージャー病(TAO)など炎症性閉塞に効果が期待される
・備考:禁煙が絶対条件。喫煙を続けると効果が得られない
エパデール(一般名:イコサペント酸エチル)
・適応症:閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛、冷感の改善
・作用:EPA(ω-3脂肪酸)による抗炎症・血小板凝集抑制・血流改善
・特徴:中性脂肪低下作用と血管保護作用を併せ持つ
・備考:高脂血症治療とASOの両方に使える多目的薬
プラビックス(一般名:クロピドグレル)
・適応症:虚血性脳血管障害、急性冠症候群、末梢動脈疾患(PAD)
・作用:ADP受容体(P2Y₁₂)阻害による強力な抗血小板作用
・特徴:PAD全般の血栓予防薬として標準治療薬
・備考:ASO・冠動脈疾患・脳梗塞の併発患者に適応
薬剤名:主な適応・主な作用機序・特徴的なポイント
・プレタール:慢性動脈閉塞症(ASO)・PDEⅢ阻害→血管拡張+抗血小板:歩行距離改善エビデンスあり
・オパルモン:閉塞性血栓血管炎(TAO)・PGE₁誘導体→血管拡張:若年男性・喫煙関連疾患に
・エパデール:閉塞性動脈硬化症(ASO)・ω-3脂肪酸→抗炎症・血流改善:高脂血症にも有用
・プラビックス:末梢動脈疾患(PAD)・ADP受容体阻害→抗血小板:PAD全般の一次選択薬
タバコとバージャー病(TAO)
若い人で「手足が冷える」「しびれる」「指先が黒い」といった症状がある場合、
バージャー病(閉塞性血栓血管炎:TAO)の可能性もあります。
この病気はほぼ喫煙が原因といわれ、患者の9割以上が喫煙者。
タバコによる血管攣縮・免疫反応が引き金となり、細い動脈が詰まってしまいます。
20〜40代の若年男性に多く、進行すると手足の切断に至ることもあります。
治療の第一歩は「完全禁煙」。
どんな薬よりも「タバコをやめること」が最も有効です。
歩くことも治療の一部
ASOやPADでは「歩くと痛い」のが症状ですが、歩くこと自体が治療になります。
これを「運動療法」と呼びます。
歩行によって、
・側副血行路(バイパス的な血管)が発達
・筋肉が酸素を効率よく使うようになる
・全身の血流と代謝が改善
といった効果が得られます。
「痛くなったら休み、治まったらまた歩く」を繰り返す間欠的運動が推奨されます。
まとめ:足の冷えは血管の危険信号
「足が冷える」「歩くと痛い」といった症状を年齢のせいにして放置するのは危険です。
閉塞性動脈硬化症(ASO)は、全身の動脈硬化の警告サイン。
放置すれば、脳梗塞や心筋梗塞につながることもあります。
プレタールで血流を広げ、
オパルモンで末梢を守り、
プラビックスで血栓を防ぎ、
そして「歩く・禁煙・管理」が最良の治療。
足の冷えを感じたら、それは“動脈硬化の始まり”かもしれません。
早めの受診と生活習慣の見直しが、あなたの血管を守ります。




