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鼻のニキビをつぶすと死ぬ?
公開. 更新. 投稿者: 171 ビュー. カテゴリ:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約3分15秒で読めます.
目次
鼻のニキビをつぶすと死ぬ?

「鼻のニキビをつぶすと死ぬ」という話を聞いたことがある人は少なくないでしょう。半ば脅しのように言われるこのフレーズには、単なる迷信とは言えない医学的な背景が存在します。ニキビと面疔(おでき)の違い、なぜ顔の「危険三角」にできる化膿性病変が恐れられてきたのか、現代医療におけるリスクと対応について勉強します。
ニキビと面疔は違う病気
まず最初に押さえておくべきは、俗に混同されがちな「ニキビ」と「面疔」は全く別の病態であるという点です。
ニキビ(尋常性ざ瘡)
・原因:毛穴に皮脂や角栓が詰まり、アクネ菌(Cutibacterium acnes)の増殖や炎症が関与。
・特徴:小さな赤い丘疹、膿疱、黒ニキビ(面皰)など。思春期に多くみられる。
・主な部位:顔、背中、胸など皮脂腺の多い部位。
面疔(めんちょう)=おでき(癤)
・原因:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が毛包深部に侵入し、化膿を起こす。
・特徴:強い痛みを伴う赤い硬結ができ、やがて膿がたまる。発熱や全身症状を伴うこともある。
・好発部位:鼻の頭、鼻の穴の周囲、口の周囲など。
このように、ニキビは主に皮脂詰まりが原因の慢性炎症性疾患であるのに対し、面疔は細菌感染による急性の化膿性疾患です。
鼻の「危険三角」とは?
鼻や口の周囲は、医学的に「危険三角(danger triangle)」と呼ばれます。これは、鼻の根元から口角にかけての逆三角形の範囲を指します。
危険とされる理由
・顔面の静脈には弁が少なく、血流が逆流しやすい。
・鼻周囲の静脈は、脳の奥にある海綿静脈洞と交通している。
・このため、鼻周囲の感染が血流に乗って脳内へ波及しやすい。
結果として、面疔を不用意に潰すと、細菌が脳へと広がり、海綿静脈洞血栓症や髄膜炎、敗血症といった重篤な感染症を引き起こす可能性があるのです。
「つぶすと死ぬ」の由来
近代以前、抗生物質が存在しなかった時代には、顔にできたおできが原因で命を落とす人が少なくありませんでした。記録に残る事例の多くは、鼻や口周囲のおできが急速に悪化し、脳へ感染が及んだケースです。
この背景から、医師や親たちは「鼻のおできは危ないから絶対につぶしてはいけない」「つぶすと死ぬ」と子どもたちに教えてきました。ある意味では「安全教育」の一環だったといえます。
現代におけるリスク
現代では抗生物質や外科的処置が確立されているため、鼻のニキビやおできが直接死につながることはほとんどありません。しかし、リスクがゼロというわけではありません。
起こり得る合併症
・蜂窩織炎:皮膚や皮下組織に広がる化膿性炎症。
・膿瘍形成:膿が袋状にたまり、切開排膿が必要になる。
・海綿静脈洞血栓症:頭蓋内に感染が波及し、眼の腫れ、視力障害、意識障害などを引き起こす。致死的になり得る。
リスクを高める行為
・不潔な手で潰す
・針や爪楊枝などで刺す
・膿を無理に絞り出す
自己処置と医療機関を受診すべきタイミング
自己処置でできること
・無理につぶさない
・洗顔を清潔に保つ
・温罨法(蒸しタオルで温める)で自然排膿を促す
医療機関を受診すべき症状
・強い痛みや腫れがある
・発熱や全身倦怠感を伴う
・赤みが広がっている
・目の周りが腫れる、視力に異常がある
・激しい頭痛や意識の混濁がある
これらは重症化のサインであり、救急外来レベルの緊急対応が必要な場合もあります。
面疔とニキビを見分けるポイント
| 特徴 | ニキビ(尋常性ざ瘡) | 面疔(おでき・癤) |
|---|---|---|
| 主因 | 皮脂・角栓+アクネ菌 | 黄色ブドウ球菌 |
| 痛み | 軽度 | 強い痛みを伴う |
| 発赤 | 小さな丘疹程度 | 広範囲に赤く硬く腫れる |
| 膿 | 白ニキビや膿疱 | 膿点ができ、膿瘍形成 |
| 合併症 | 瘢痕、色素沈着 | 蜂窩織炎、海綿静脈洞血栓症 |
医師の治療
皮膚科では以下のような治療が行われます。
・切開排膿:膿がたまっている場合、無菌的に小切開を行い排膿。
・抗菌薬の投与:セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系など。
・消炎鎮痛薬:痛みや腫れの軽減。
・重症例では入院し、点滴抗生物質や外科的処置を行う。
まとめ
・「鼻のニキビをつぶすと死ぬ」という俗説は、抗生物質がなかった時代に鼻のおでき(面疔)から命を落とす人がいた歴史的背景に基づいています。
・ニキビと面疔は異なる疾患で、面疔は黄色ブドウ球菌による感染性の皮膚疾患です。
・顔の危険三角(鼻〜口の周囲)は解剖学的に感染が脳に波及しやすく、無理に潰すと重篤な合併症のリスクがあります。
・現代では致死的な事例は稀ですが、強い腫れや発熱、目や頭の症状がある場合は速やかに医療機関を受診すべきです。
・予防としては、不潔な手で潰さない、清潔を保つ、悪化すれば皮膚科へ、という基本を守ることが大切です。



